働かざる者食うべからず
人間社会で生きていくためにはお金が必要だ。お金を稼ぐためには働かなくてはならない。
クリフ村に行って来て、準備やら片づけやらでここ10日ほどはまったく働いていない。
そろそろ魔道具の納期が近いものがいくつかあるので、仕事をしなければならない。
「一番納期が近いのは。あー、リードさんのところか。防壁が30台っと」
魔物がいるこの世界で、身を守る術はいくつあっても困るものではないので、防壁を発生させる魔道具は良く売れる。
材料はクリフ村に行く前にリックが持って来てくれている。
材料を工房の作業台に並べて魔道具を起動する。
「身体強化『頭:中』、『工具箱』起動」
防壁の魔道具は戦闘中でも使いやすいように腕に巻くタイプだ。魔道具本体と革のベルトで構成される。見た目はゴツイ腕時計。
魔道具の外装と革のベルト部分は別の専門の工房に外注したものを使用するので、オレの作業は魔石への入力と組み立てだけだ。
魔道具も詠唱による魔術もやっていることは同じ。精霊に魔力を渡して、お願いを聞いてもらう。魔道具に記載する魔術式も詠唱も精霊語だ。
精霊は精神に感応するので、『火を出して』と詠唱して魔力を渡せば思考を読んで狙ったところに出してくれるのだが、魔道具だとそれだけでは精霊の気まぐれでランダムな場所に火が出る。
魔道具を作る場合には、規模や座標、制御など詳細に魔術式を記載する必要がある。
オレは以前作った完成品の魔石を左手に持ち、空っぽの魔石を右手に持つ。
そして両方の魔石にアクセスする。オレの意識に、魔石の内部情報が2つの球体として浮かび上がった。左には魔術式が記載され、右には何もない。
左の魔石の魔術式をコピーして、右の魔石に貼り付ける。コピペ終わり。
意識を戻して、出来た魔石を『工具箱』のアームを使って組み立てつつ、次の魔石に魔術式をコピーしていく。できあがったものには、オレが作った証に「米」と刻む。
他の魔道具製作者は一文字ずつ記載しているらしい。そりゃ時間も掛かるし、値段も高くなるよね。
30台の魔道具を組み立て終わり、動作確認をしていく。自分の魔力が使えないので、試運転だけでも燃料用の魔石が消費される。
動作確認に使う魔石代を考えると、誰か雇って発動してもらった方が良いかもしれない。動作は全て正常だった。
魔道具を納品用の木箱に詰めて、届ける前に少し休憩だ。
頭が重い。糖分が足りない。
お茶の準備をして、戸棚からゴソゴソとハチミツを練りこんだビスケットを取り出して、とりあえず1枚口に放り込む。
甘~! 口の中がキューっとなった。ちょっと回復した気がする。
間食を終えて頭も動き出したので、魔道具を荷車に積んでリード商会に出発した。
「おおっ。いらっしゃいませコーサクさん。よく来てくださいました」
リードさんのところに着くと、いつもより大仰に出迎えられた。出された紅茶もいつもより良いものだ。
何か良いことでもあったのだろうか。わざとらしさに少し嫌な予感がする。下手に突きたくない。
リードさんは小太りで、ちょっと胡散臭い中年の商人だ。
「今月分の防壁の魔道具30台です。ご確認をお願いします」
「ええ。お預かりいたします。コーサクさんの魔道具は性能が良く使いやすいと評判ですよ。はっはっは」
「そうですか。ありがとうございます」
持ち上げ方が露骨過ぎないだろうか?笑顔が胡散臭いぞ。
「ところでお米の情報「ついこの間も! 帝国のさる貴族のお方から注文がございました。コーサクさんの魔道具を扱わせていただいている当商会も、鼻高々でございますよ。はっはっはっは」
遮られた……。この人まともな情報出してくれたことないんだよなあ。というか貴族だよ貴族。嫌な予感しかしない。早く帰るか?
「そこで、ご相談なのですがコーサクさん。そのさるお方はコーサクさんの魔道具をとてもお気に召されたそうで、同じものを追加で注文したいとおっしゃいました。追加で魔道具を20台制作していただけませんか?」
どこがそこでなのか分からないが、今日の本題はこれだろう。20台。20台か。材料はいつも多めに仕入れているし、20台程度オレならすぐに作れるが……。
「ちなみに納期はどれくらいですか?」
「3日でお願いしたいと考えております。もちろん! 急いでいただく分、いつもの倍のお値段で購入させていただきます」
3日! お前他の工房に急に『3日で魔道具20台な』って言ってみろよ。『こっちは別の仕事もやってんだよ!! バカ野郎!!』って親方に殴られるぞ。
というか、この注文はオレなめられてる? カモられてるのか? どうするか。リードさんは胡散臭いが、今回みたいな急な注文は初めてだ。1回目で怒るのは大人としてどうだろうか。
……とりあえず、今回は受けるか。
「分かりました。3日以内に防壁の魔道具20台を納品します。ただし、値段はいつもの3倍でお願いします」
「っええ。ええ。承知いたしました。こちらの事情で急いでいただくのですから、勉強させていただきます」
「嘘です」
「……は?」
「買取金額は2倍で良いです。その代わり、依頼している植物の情報について、くれぐれもよろしくお願いします」
「……ええ。もちろんです! 当商会の総力を挙げて情報を収集させていただきます!」
その誇張表現が胡散臭いところだよ。
その後、リードさんと新たに契約を交わして商会を出た。
これで情報も無く、次も急な注文したら契約更新しないからなてめえ。




