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異世界でもお米が食べたい  作者: 善鬼
第2章  王国辺境_農地開拓編
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爆弾魔

 亀が足を踏み出す。オレを見ながら。矮小なオレを嗤いながら。


 背中の砲口に魔力を集めて、何も出来ないだろう、とオレを見ている。


 魔力は足りない。コイツの防御は抜けない。


 だけど、コイツを通す訳にはいかない。


 あの日、あの村で。あの炎の前でオレは誓ったから。強くなると。一緒に飯を食った人くらいは守ってみせると。


 だから。


「テメエはここで殺す」


 オレの声が聞こえたのか、亀の目が細くなる。異形の笑みが深まる。


 オレにはまだ、手札がある。舐めるなよ、魔物が。


「いいことを教えてやるよ。クソ亀」


 ふらつく脚に力を籠める。目の前の魔物を睨み付ける。


「オレの『爆弾魔』って名前はなあ。爆発する魔道具を使う(・・・・・・・・・・)からじゃねえんだ(・・・・・・・・)


 イメージは腕。幻視の腕。想像上の腕を、化け亀に伸ばす。お前が近づいてきてくれて助かった。


 亀に触れる。その魔力に触れる。掴んだ(・・・)


 感触は重い。ビクともしない。巨大な岩を押しているようだ。力が足りない。だけど、それは分かっている。


「精霊たちよ。対価(エサ)をやる。力を貸せ」


 残った魔力を頭に回す。脳を強化する。ただ、いつもの拡張ではなく、自分の中に潜るために。


 内側に向けて、思考を強化する。加速した状態で意識を沈める。自分の中に潜行する。


 ドプン、と、オレはオレの中に潜った。


 目を閉じたまま、沈んでいく。落ちていく。


 ……止まった。着いたようだ。目を開けると、そこは海底だ。無数の泡が浮かんでいる。

 泡の中に、オレの記憶が見える。

 ここはオレの心象風景だ。


 日本にいた頃の記憶が、こちらに来てからの記憶が、泡の中に浮かんでいる。


 懐かしい思い出が見える。田舎のじいちゃん家が。通学路の坂道が。両親が。仕事の先輩が。

 脳を限界まで強化しないと、ここまではっきりと思い出すことはできない。


 いくつかの泡に手を伸ばす。選ぶのは知識に関係しないものだ。


 引き寄せた記憶を抱きしめる。潰れた泡から記憶が溢れる。記憶とともに、当時の感情が呼び起こされる。


 自転車で走った夏の暑さへの苛立ちが。家族と食べた食事の温かさが。友達とバカをやってはしゃいだ喜びが。会社で落ち込んだ自責が。オレの中を通り抜けていく。


 そして、その感情を、記憶ごと精霊に捧げた。


 -魔力は精神に感応する。生きた魔力である精霊も同じだ。

 -精霊は人の感情を糧としている。自らの存在を補強するために。

 -故に、感情を対価に精霊は人に力を貸す。


 ……力を感じる。精霊の後押しだ。たった数時間だけの、精霊の加護。

 準備は出来た。戻ろう。


 オレは浮上を開始した。




 目を開ける。現実では数秒も経っていない。目の前には変わらず化け亀がいる。


 そして、オレだけに見える腕も変わらずに在る。だが、さっきとは違う。腕の大きさが桁違いだ。

 巨人の腕となって、そこに存在している。精霊の加護を注ぎ込んだ結果だ。


 その幻視の腕を操る。


 化け亀の魔力を掴む。手応えがある。干渉に足る膂力が腕にある。その腕に力を籠めて。


「ははっ。力比べしようぜ?」


 思いっきり引っ張った(・・・・・・・・・・)


 引く。引き摺り出す。化け亀の魔力を手繰り寄せる。


「ガアア」


 初めて亀が口を開いた。体の異常を察知したらしい。慌てているのか、砲口の光も消えた。気にせず魔力に干渉する。



 生き物というのは、存在そのものが1つの奇跡だと思う。あらゆる要素が複雑怪奇に絡み合い、奇跡的なバランスで成り立っている。

 もしも、神が生物を設計したのなら、それは確かに神の御業だろう。


 この世界では、地球より生物の要素が1つ多い。魔力だ。生命維持に使用され、魔力が枯渇した生物は死に至る。


 生き物には、崩れたバランスを整えようとする機能がある。それは無意識の行いだ。

 例えば、体温が上がり過ぎたら汗をかいて放熱するように。血液の塩分濃度があがったら、血液量を増やして薄めるように。酸素が足りなくなったら、心臓の鼓動が増すように。


 魔力も同じだ。体内の魔力が減少すると、魔核は新たに魔力を生み出す。



 化け亀が、魔力を生み出しているのが視える。減った魔力が戻ってきている。


 その魔力を生むスピードが、オレの腕が魔力を引き抜く速度と吊り合った。


 今が最大だ。


「おい、くそ亀。魔力返してやるよ」


 干渉の力を反転させる。オレの影響下にある化け亀の魔力を、全力でその体に押し込む。


「ガアアア!?」


 化け亀が悲鳴を上げる。その体内では魔力が荒れ狂っている。魔核の機能は急には止まらない。


 自らの制御能力を超えた魔力が、出鱈目に全身を駆け巡る。体の機能が暴走する。


 今の化け亀は、力比べで引っ張り合っている最中に急に手を離され、さらに飛び蹴りを食らったような状態だ。

 誰でも倒れる。耐えるのは不可能だ。


「ガア、アアア!」


 過剰な魔力に内臓が引きずられる。心臓が限界を超えて動く。オレに抑えられて逃げ場のない魔力が、全身を破壊していく。


 バキ、バキ、と甲羅にヒビが入り始めた。完全に、魔力が暴走状態に入った。


「ガアアアア!!」


 化け亀の断末魔の叫びが聞こえる。音が森を揺らす。脚が折れた。既に自重を支えられていない。


 終わりだ。


「テメエの魔力で自爆しろ」


「ガ、ア」


 ドバン、と鈍く湿った音が大音量で響き渡る。


 暴走し、限界に達した魔力が化け亀の体を破裂させた。飛び散る血肉。魔力が噴き出す。衝撃で地面が揺れる。


 割れた甲羅や、巨大な肉片が飛んで来た。慌てて防壁を張る。ゴンゴンと重量物が衝突する。


 静かになるのを待ち、血で前が見えなくなった防壁を解除する。落下する血液。


 目の前には、体が半分吹き飛んだ化け亀がいる。顔も破裂したのか、首から先がない。完全に死んでいる。


「ああ~……気分悪い」


 気持ちのいい倒し方ではない。広がる生き物の内側の悪臭が、さらに気分を下げる。


 そして胸の痛みが、オレに代償を知らせてくる。


 精霊に捧げた記憶は戻らない。捧げた記憶が何だったのかも、もうオレには思い出せない。ただ、何かを失ったという喪失感がある。

 オレを形成する一部が削れた自覚がある。


 まあ、それでもオレは死んでいない。他の誰も死んでいない。


 オレは守りたいものを守れた。


 だからこれで、間違いはないのだ。


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〇コーサクの過去編 : 『ある爆弾魔の放浪記』  

〇ルヴィ視点の物語 : 『狩人ルヴィの故郷復興記』

シリーズ外作品 〇短編 : 光闇の女神と男子高校生な勇者たち
― 新着の感想 ―
[良い点] ぶつ切りで回想がはさまれるからなんかあると思ったらこれのためかぁ。なるほど。うまいですね。
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