お買い物
オレの家の住人にロゼッタが増えてから数日が経つ。
ロゼッタが来た翌日に払いに行った鎧の金額は、目を疑うくらいだった。
うん。貯金していて良かった。あの金額を即金で払える個人が、この都市に何人いることか。家1軒どころじゃなかった、2軒分くらいの金額だったよ。
店で1番高いものを借りたとロゼッタは言っていたが、本気で最上級品だった。そんなものレンタルに出すなよ。
金は景気よくふっとんだが、まあ、別に後悔はしていない。また貯める。
そして、今日はさらにお金を使う予定だ。
「ロゼッタの剣と鎧、買いにいこうか」
「む?お金はないぞ?」
知ってる。
「オレのおごりで」
「……さすがにそれは悪いだろう」
うん。そう言うとは思ってた。ふふふ。だけどオレも理論武装済みなのだ。
「大丈夫、大丈夫、オレのためでもあるから。オレはたまに森に入るからね。その時はロゼッタに護衛して欲しいんだ。剣も持たずに護衛は出来ないでしょ?」
「む、むう。確かに素手では難しいが……」
もう一押し。
「それに、この前みたいな人攫いがまた出るかもしれないからね。誰かを守るためにも、ロゼッタには戦える状態でいて欲しい。お金はあるから気にしないで」
「……そうか。分かった。なら、ありがたく買ってもらうとしよう。だが、代わりに私もコーサクの仕事を手伝うぞ」
説得は成功したけど、え~、仕事の手伝い?ロゼッタに任せられる仕事はあるか?ドジっ子が発動しても損害が少ないところ。え~と……。
「あ~、帳簿の管理、手伝ってくれる?1人だと大変だったんだ。計算は大丈夫だったよね?」
「ああ。任せておけ。幼い頃に家庭教師にみっちり仕込まれたからな。計算はけっこう得意だ」
よし。計算間違っても、2人でチェックすれば問題ないだろ。ナイス判断だ、オレ。下手に肉体労働とか頼むと被害が出るからな。素材が入った重い木箱とか、手が滑ってオレに当たったら死ぬよ?
「うん。帳簿の管理については後で教えるよ。じゃあ、買い物に行こうか」
「うむ。よろしく頼む」
「あ、タローは留守番な?」
「わふ」
ロゼッタと2人で家を出る。向かう先はガルガン親方の店だ。オレはどの店がいいとか知らないからな。相談させてもらおう。
「ふふ。そういえば、剣を買うのは初めてだな」
「ロゼッタは、ずっと騎士時代の使ってたもんね」
「ああ、どんなものがあるだろうか」
隣を歩くロゼッタはご機嫌なようだ。やっぱり戦う者として、自分の装備を整えられるのはうれしいのだろう。
ロゼッタに剣と鎧を買う一番の目的は、ロゼッタの安全だ。どうせ何の装備もない状態でも、誰かが危なければ突っ込んでいくからな。それなら、早く万全に戦えるように準備する方がいい。
心地よい日差しが降る明るい道の上を、2人で歩いて店に向かった。
長い。ロゼッタの装備選びが終わらない。今もガルガン親方と話し込んでいる。オレには内容がさっぱり分からない。
ガルガン親方の店に来て事情を説明し、金に糸目を付けないと言ったところ、それはもう色々な装備が出てきた。
それらの武器や防具について、ロゼッタが聞いたり試したりしている。ただ待っているオレは暇だ。
「ふむ。この剣もなかなかいいな」
「だろう?そいつは風刃翼竜の素材使ってからなあ、切れ味は保証するぜ?」
2人とも楽しそうだなあ。
オレには武具の目利きができない。魔道具ならできるけど。剣とか使わないからな。
普段のオレでは剣を持ち運ぶのも一苦労だ。剣持って森で歩けないだろ?鎧なんて着たら動けないぞ?
オレが普段使えるのは、持ち運びしやすい魔道具がせいぜいだ。
装備選びは役に立たないから、今日はただの財布役だな。その金はある。というか昨日入った。氷龍対策の報酬だ。
オレが大量に作った魔道具は、全て都市で買い取ってもらえた。しかも、緊急時の都市への貢献ということで、税金が全額免除だ。凄まじい金額になった。しばらく遊んで暮らせるくらい。
まあ、金がいくらあっても、お米を探すために働くんだけど。
ロゼッタの装備選びはまだまだ終わりそうにない。剣と鎧を買いに来たのに、2時間くらい経った今でも剣を見てるからな。鎧を含めたら今日中に終わらないんじゃないか?
ああ、暇だ。今日の夕食のメニューでも考えておくか。ロゼッタはがっつり食べるから、肉料理が必要だとして、夏だしな、旬の野菜が使いたい。そういえば、タローも最近食う量増えたんだよなあ。成長期か。
とりあえず、帰りに市場に寄って品ぞろえを見るとしよう。お米があればなあ。夏野菜カレーとか作りたいんだけど。
カレー、前にスパイスの調合難しすぎて諦めちゃったんだよなあ。ひたすら色々なスパイスの組み合わせを試しながら、『なんでお米がないのにカレー作ろうとしてるんだろう?』って思って心が折れた。
オレの中でカレーの相手はライスだけだ。
「コーサク、これとこれ、どっちがいいと思う?」
「うお!?」
急に話し掛けられて、ちょっとビクっとした。目の前に立つロゼッタのそれぞれの手に剣がある。いつの間に近づかれた?
「え~と、ちょっと待って」
「うむ」
両方とも直剣だ。右にあるのは武骨な剣。刀身は太め、装飾は一切なし。ただ、機能のみを求めた鈍い輝きには、ある種の美しさを感じる。
左の剣は優美だ。細めの刀身に、冷たさを思わせる刃。根本に魔石が嵌められているのを見るに魔道具でもあるのだろう。
どっちがいいか。
「こっちかな?」
オレが選んだのは左の美しい剣。なんとなく、感じる魔力が心地よかった。あと、魔道具ならオレがカスタマイズできるからな。機能追加したい。
「うむ!そうか。私もこっちだと思っていたんだ。うん。剣はこれにしよう」
うん?オレに聞く意味あった?
「さて、次は鎧だな!」
「おう。こっちだぜ」
2人の興味が鎧に移る。あの様子だと、まだまだ時間がかかりそうだ。
悪いなタロー。今日の夕食は遅くなるかもしれん。




