表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でもお米が食べたい  作者: 善鬼
第2章  王国辺境_農地開拓編
59/304

肉の日と影

 その日の出来事は、オレの主観ではリックの一言から始まった。


「コーサクさん!今日ご飯食べにこないっすか?今日はお肉の日っすよ!」


「肉の日?」


 なに?その謎の日。肉屋の特売日?


「はいっす。月に1回、お肉がいっぱい出る日っす。今月はコーサクさんがくれた肉のおかげで、いつもより豪華っす!」


「へえー」


 孤児院でそんなのやってたんだ。メインは鶏肉料理なのかな?子供達は喜びそうだね。


「という訳で、夕食に招待したいっす!いつものお礼っす!」


「いいけど、オレが行ったら、食べる肉の量減っちゃうんじゃない?」


 1人増えれば、その分、行き渡る肉の量が少し減るだろう。オレとしては、別に子供達が腹いっぱい食べるなら、それだけでいいんだけど。


「ははっ、元々、コーサクさんがくれた肉じゃないっすか。それにコーサクさん小食っすから、大丈夫っすよ」


 ……小、食?オレが?


「……え?」


「?はいっす。いっぱい作るっすから、コーサクさんが増えても問題ないっすよ?あ、タローさんも、もちろん一緒にっす」


 いや、いやいや。問題はオレが小食ってところだ。オレは成人男性として普通に食う。むしろ昔から、人より食べる量は多いくらいだ。そのオレが、小食?

 ……まあ、確かに。この世界の人、特に体を使う職業の人は良く食べる。冒険者とかな。それに比べたら、オレは魔道具職人。そんなに体を動かす訳ではない。運動しなければ、当然、日頃から大食いはしないが……。


 つまり、オレは相対的に小食……?


 いや、別いいんだが。だからどうしたって話なんだが。なんだろう。ちょっとプライドが傷付いたオレがいる……?何故だ?


「コーサクさん?」


 リックが不思議そうな顔で聞いてくる。


「……あ~。招待してくれるなら、行こうかな」


 まあいいや。たまには大勢で食べるのもいいだろう。


「はいっす!じゃあ、孤児院で待ってるっす!ゆっくり来てくださいっす!」


「はいよー」


 リックが去っていった。


 ふむ。ただ食事をおごってもらうのも微妙な感じだ。なにか持っていこうか。え~と、鹿肉と、農場の温室に行って、食べ頃の果物があれば持っていくか。デザート用だな。


 リックはゆっくり来てと言っていたが。せっかくだ。料理の手伝いもしよう。力仕事は役に立たないけど、野菜の皮剥きは大得意だ。


「よし!タロー、農場寄って孤児院だな。行くぞ」


「わふ!」


 どんな料理が出るんだろうか。楽しみだな。





 いつもの荷車に荷物を載せて、孤児院に着いた。まだ夕食の準備にも時間が早い。ちょっと早く来過ぎたかな。


「お邪魔しまーす」


「あれ?コーサクさん早いっすね?さすがに夕食はまだっすよ」


「ああ、それは分かってるけど、料理の手伝いでもしようかと思って。あと、これお土産」


 荷車に載せた肉と果物をリックに見せる。


「うわあ!ありがとうございますっす!みんな喜ぶっす!でも、料理の手伝い遠慮するっす。今回コーサクさんはお客さんっす。ゆっくり待っててくださいっす!」


「ええー」


 孤児院でゆっくりって言っても、子供達に読み聞かせをするか、子供達に遊ばれるかじゃん。ああ、子供達と「遊ぶ」じゃなくて「遊ばれる」だ。そっちで正しい。


「って、他の子達は?」


 そういえば姿が見えない。


「この時間なら、外に遊びに行ってるっす。たぶん、もうすぐ帰ってくるっすよ」


「そっか。アリシアさんとイルシアは?」


「2人とも買い物っす。そろそろ戻ってくるはずっす」


 今日の夕食の買い物かな。


「「ただいまー」」


 噂をすればなんとやら。アリシアさんとイルシアの良く似た2人が帰ってきた。荷物を持つ、年長組の姿も何人か見える。


「こんにちは。お邪魔してます」


「あら、コーサクくん、こんにちは」


「コーサクさん、こんにちは」


「早いのね。ふふふ。今日は腕によりをかけて作るわよ。楽しみにしていて?」


 楽しそうにアリシアさんが話す。頼もしい。


「ええ、ありがとうございます。あ、これお土産です。どうぞ」


「あら?今日はコーサクくんへのお礼で招待したのに。でも、ありがとう。ありがたく使わせてもらうわ」


「ええ、料理、楽しみにしてます」


「ふふふ。任せて」


「わたしも頑張ります!」


 アリシアさんもイルシアも気合が入っている。今日の夕食が美味しいのは確実だろう。楽しみだな。




 ここまでは順調だった。何事もない、日常の一幕。だけど、世界にいるのは、平穏を望む者だけではない。




 ぴくり、とタローが反応した。孤児院の入り口をじっと見ている。


「わふ!!」


「タロー?どうした?」


 突然反応し、孤児院の入り口に向かって走り出したタローを追いかける。なんだ?原因は分からないが、念のため身体強化を発動する。


「どうしたっすか!?」


「わからん!」


 少し遅れてリックもついて来た。分からない。だけどタローの反応から何かあるはずだ。


 タローを追いかけて孤児院をオレが出たのと同時に、小さな影が突っ込んで来た。慌ててそれを受け止める。

 かなりの衝撃。身体強化をしていて良かった。


 オレに突っ込んで来たものの正体は。


「……マルコか?どうした?」


 泥だらけのマルコだ。顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている。


「ヒ、ヒック。ミリアが、ミリアがぁ。さ、さら、さらわれ、て、ヒック」


 ミリアが、攫われて。一瞬で内容を理解する。様々な思考が飛び交った。出て来た最悪の可能性に、体温が急に下がる。

 だが、そんなものは今は無視だ。1秒でも、コンマ数瞬でも早く行動しろ!


 腰の小物入れに手を伸ばす。掴むのは1つの魔道具。小型の羅針盤のような外観をしたそれを、強化した脳で最短で起動し操作する。


「リック!!」


 そして、その魔道具をリックに投げ渡した。


「針が指す方角がミリアの居場所だ!!行け!!」


「はい!!」


 リックが飛んでいく。後はオレだ。


「マルコ。今だけは少し落ち着け。ミリアはどこで攫われた?」


 必要な情報を収集しなければならない。


「ひ、ひぐ。も、森のまえ」


「相手は何人だった?」


「さ、3人。ヒ、ク」


「武器は持ってたか?」


「け、剣と、鎖がい、いっぱい」


「分かった」


 ああ、確定だクソが。人攫いの組織だ。


「え、えぐ。ぼ、ぼく、ミリアをたすけられなくて、にげ、にげるしか、ふ、できなくてぇぇ」


「ああ、それでいい。お前は正しい。マルコ。お前がここまで来たおかげで、オレ達はミリアを助けることができる。だから待ってろ。絶対にミリアを連れて帰る」


 ああ、絶対にだ。


「アリシアさん!ここは頼みます!」


「ええ、分かったわ。どうかあの子を助けて……!」


 アリシアさんの声を背中で受けて、オレはもう走り始めている。向かう先は冒険者ギルド。マルコが見た人攫いは3人。だが、目撃されていない範囲でもっと人数がいるはずだ。


 確実に事を成すために、こちらも数が必要だ。


 空中に防壁を設置し、都市の空を駆けあがる。目の前に障害物はない。


「身体強化『全身:強』、『風除け』、『防壁』」


 空を走る。真っすぐに、目的地へと風を貫いて突き進む。


 焦燥が身を焦がす。オレもリックと共に行くべきだったと、思考の片隅が言う。焦りが視界を思考を狭めていく。

 脳の強化割合を上げ、理性で不安を黙らせる。違う。間違いが許されない状況だからこそ、準備は確実に必要なのだ。オレ1人では、手の届く範囲は限られる。


 冒険者ギルドが見えた。上空から、その入り口へ突っ込む。魔力の反応から、進路上に人はいない。


「ぐう……!」


 ギルド内に侵入。『風除け』を解除し、自分で出した防壁を削りながら速度を殺した。体が軋む。


「おお!?」

「なんだ!?」

「カチコミか!?」


 冒険者が騒いでいる。ちょうどいい。注目が集まった。


 残った慣性のまま、ギルドの床を踏みしめ受付に走る。良かった、トールさんが空いてる。


「ご用件をお伺いいたします」


 この状況でもトールさんは平常運転だ。さすが。助かる。すう、と息を吸った。


「緊急依頼だ!人攫いを確認!場所は森手前で3!孤児院から1人攫われた!」


 一息で、大声で発言する。周りの冒険者に聞こえるように。


「依頼内容は子供の救助と人攫いの捕縛!人数の上限なし!報酬は言い値で払う!」


 ああ、これで、この都市の冒険者なら受けてくれるはずだ。ここは彼らのテリトリー。同じ都市の人間を害する者を、彼らは許さない。


「かしこまりました。私の権限において、手続きを省略し依頼を発行いたします」


「俺は受ける!」

「俺もだ!」

「私も行くわ!」


 声を上げた冒険者は20人近い。ギルド内にいた全員だ。ありがたい。


「ありがとうございます!ついて来てください!」


「いってらっしゃいませ。お気を付けて」


 トールさんに見送られ、冒険者とともにギルドを飛び出す。


 全速で森を目指した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よろしければこちらもどうぞ! 『お米が食べたい』シリーズ作品

〇コーサクの過去編 : 『ある爆弾魔の放浪記』  

〇ルヴィ視点の物語 : 『狩人ルヴィの故郷復興記』

シリーズ外作品 〇短編 : 光闇の女神と男子高校生な勇者たち
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ