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異世界でもお米が食べたい  作者: 善鬼
第2章  王国辺境_農地開拓編
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二刀鹿

 森の中にスライが潜んでいる。視線の先には若い雄の二刀鹿。


 その二刀鹿に向かって、スライが音も無く忍び寄る。残り10mといったところで、二刀鹿がスライの気配に感づいた。


 だが、その若い二刀鹿は逃亡しなかった。それは経験不足ゆえの蛮勇か。それとも近距離では逃げ切れないとの冷静な判断か。


 いずれにせよ、その頭部にそそり立つ鋭い二刀の角を構え、スライに向かって突撃を開始した。


 互いに疾走し、交差する瞬間、スライの手元に鋼の色が瞬く。


 すれ違い、距離を離す1人と1頭は互いに傷を負っていないように見える(・・・)


 カチン、とスライが片方の剣を鞘に収める音が響いた。


 剣を収め、何もないはずの左手に何かが在る。


 赤黒く、鮮やかな滑らかさを持つ血色のそれは、二刀鹿の“肝臓”だ。


 スライの右手がぶれる。一瞬の後、綺麗に薄く削がれた“それ”が剣に乗っている。血が流れないほど繊細に切られた“それ”がスライの口に運ばれた。


 くちゃ、くちゃ、とスライの咀嚼音だけが、静寂になった森に響く。


「カカッ!クハハハハ!うめえ!!内臓はとれたてに限るなア!おい!」


 スライが哄笑する。そして、その光景に固まっていた若い二刀鹿は、自分の傷一つない腹(・・・・・・)を見て再びスライを睨み付けた。

 角を構え、足を踏み鳴らし、突撃のために力を込め、一瞬後、二刀鹿の腹部から大量の血が噴き出す。


「ビイイィ……!?」


 その出血量に、若鹿はどうしようもなく倒れるのみだった。


 以上がスライの戦闘風景だが。


「うん。相変わらず変態だ」


「わふぅ……」


「な、なにが起こった?」


 スライは変態だ。紛うことなき変態だ。アイツは重度の内臓愛好家である。そして、獲物が苦痛を感じると内臓の味が落ちるという自論を持っている。

 大好きな内臓を美味しく食べたいと考えたアイツは、ひたすらに剣の腕を磨いた。結果、出来上がったのは、獲物が切られたことに気付かないほどの斬撃を繰り出し、内臓を摘出してその場で食う変態だ。

 その様から『切裂き男』という綽名を付けられている。


 う~ん。これはタローの参考になったんだろうか?ちょっと判断間違えたかな。


 まあ、二刀鹿の突進を見れただけでも良かっただろう。うん。


 スライが二刀鹿の解体を始めるようだ。いったん合流するか。近くに野生の稲も見当たらないし。


「おつかれー」


「お疲れ様です。師匠」


「クカカッ!テメエらも食うかァ?」


 ぬめったように光る肝臓を手に、スライが勧めてくる。

 好物を食べたおかげかスライのテンションが高い。血に濡れた口元と合わさって、完全にヤベー奴だ。それと、この変態をストーム君が師匠って呼ぶの笑える。


「くれるなら、オレの分はタローにやるよ。オレはいらん」


 内臓の生食はあまり好きじゃない。血の匂いが強すぎる。


「わ、私も遠慮しておきます」


 ストーム君の顔色は悪い。グロいのも苦手か?お坊ちゃんだな。


「あア?もったいねえヤツらだなァ。ようチビ、テメエに分けてやるよ」


「わふ!」


 タローはどうやら内臓が好物なのか、ぶんぶんと尻尾を振っている。うれしそうだ。オレの分まで食べてくれ。


 戦闘が終わり、音が戻ってきた森の中で、スライとタローだけが、美味しいそうに肝臓を貪っていた。




 根本から折られた2本の角がロープで括られている。今回の依頼部位だ。肉は葉に包んでオレのリュックの中。ちょっと重い。

 解体を終えたスライに話しかける。


「で、狩るのはあと2頭でいいのか?」


「おう、角を6本持ってこいっつう依頼だからなァ。あと2頭だ。カハッ、食い放題だぜ。クハハ、楽しみだァ。いってくるぜぇ」


「いってらっしゃい。一応気を付けろよ」


「はっ!誰に言ってやがる。この辺に俺の敵なんかいるかよォ」


 そう言って、スライは森の中に消えていった。


 まあ、スライはこの都市でも上位の実力者だからな。魔の森の奥にでも行かなければ、脅威になる魔物はいないだろう。


 折られた鋭い2本の角はストーム君が背負っている。


 この世界の、特に冒険者が使う武具は、魔物の素材と金属を合わせて作られる。手法は鍛冶屋の秘伝だ。どうやって生物由来の素材と金属を合成しているのか、オレにはさっぱり分からん。何かしら、魔術的な手法があるのだと思う。


 この角も加工され、いつかは誰かの剣になるのだろう。


「さて、2人とも。オレはこの辺の探索をするから、スライが戻るまで周辺の警戒を頼んだ」


「わふ」


「はい」


「ついでに、ストーム君には森の歩き方を教えようか」


「っ!ありがとう、ございます」


 ちょっと歩き方が下手くそ過ぎるからなあ。実地講習だ。新入りに知識を教えるのも冒険者のマナー。いや、オレはもう冒険者じゃないんだけど。顔見知りに死なれると嫌だからね。


 おし!ストーム君にレクチャーしつつ稲探し開始!





 結論から言うと、稲は見つからなかった。


 まあ、もう何年も探しているんだ。空振りには慣れている。

 だいたい、1人で探せる範囲なんて、時間を掛けても小さなものだ。世界は広大で、それに比べて人は矮小すぎる。

 帰ったら、お米の情報が届いてないかなー。


「じゃあな、『爆弾魔』。そっちの見どころのあるチビもなァ」


「わふ!」


 帰ってきた都市の入り口で2人と別れる。スライとタローは内臓好きな点で共感しているのか、仲良くなっていた。人と狼がそこで共感して良いのだろうか?


「さようなら」


「はいよ。2人ともまたな」


 ストーム君は今日1日でそれなりに森歩きが上達した。身体強化のおかげで体力が続くから、長く練習できるのがいいよな。


「さて、タロー帰るか」


「わふ」


「今日のタローのご飯は、鹿の内臓フルコースだな」


 さすがにスライも1人で鹿3頭分の内臓は食わないからな。分けてもらった。内臓はすぐ食べないといけないからな。痛むのがはやい。


「わふう!」


 オレはどうするか。モツ煮込みでも作ろうか。鹿肉は熟成させないといけないから、今日食えないしな。

 うん。煮込むか。煮込み料理は好物だ。そうしよう。ネギとニンジンとイモを入れて、味噌で味付けする。大雑把に美味そう。


 お米があれば完璧だな。


 夕食のメニューを考えながら、夕焼けの中を自宅に歩く。


 夕焼けの色は日本もここも変わらない。だからきっと、この空の下、お米もどこかにあるはずなのだ。


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よろしければこちらもどうぞ! 『お米が食べたい』シリーズ作品

〇コーサクの過去編 : 『ある爆弾魔の放浪記』  

〇ルヴィ視点の物語 : 『狩人ルヴィの故郷復興記』

シリーズ外作品 〇短編 : 光闇の女神と男子高校生な勇者たち
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