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異世界でもお米が食べたい  作者: 善鬼
第2章  王国辺境_農地開拓編
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綽名と依頼

 この都市に夏が戻ってきてから1週間が経過した。雪はあっという間に融けてなくなり、ぬかるんだ地面も真夏の日差しが乾かしてしまった。冬の面影はもう感じることができない。


 都市の機能も元通りだ。皆、普段の生活に戻っている。


 オレは昨日までで、農場に設置した魔道具の撤去や、たまっていた仕事を終わらせた。今日はフリーだ。という訳で。


「よし!森に行くぞタロー」


「わふ!」


 定期的に行っている、森での稲探しである。

 世界は広く、人の活動範囲はまだまだ狭い。都市に近い森でさえ、ほとんど人が入らない場所は数多くある。オレも森全体を踏破できてはいない。


 稲を探しながら、ついでにタローの運動も兼ねるつもりだ。今回行く場所は森の浅い部分なので、冒険者の護衛はなし。タローの鼻に期待したいと思う。


 昼食用のお弁当もリュックに詰めた。準備はOK。出発しよう。


 家を出て、まずは大通りに向かう。空が青く良い日差しだ。今日こそはお米が見つかりますように。


 大通りに出たところで見知った顔に出会った。


「あア?」


「ん?」


「ああ!!」


「わふ?」


 出会ったのは2人組。1人は完全に知り合い。特徴的な、背中に差した2本の長剣姿は。


「んだア?『爆弾魔』かよ」


「その綽名で呼ぶなって言ってるだろ『切裂き男』。何回言ったら分かるんだ。普通に名前で呼べ!」


 その綽名は人聞きが悪すぎるんだよ。

 そこにいたのは、柄の悪い変態腕利き冒険者のスライだ。一緒にいるのは駆け出し冒険者風の少年。ん?見覚えがあるな。


「あア?テメエの名前は言いづれえンだよ。『爆弾魔(ボマー)』の方が楽だろうが」


「楽かどうかじゃねえ!こっちは魔道具職人やってんだよ!変な噂が広がって、売れなくなったらどうするつもりだ!?」


「メンドクセエ。気が向いたら呼んでやるよ」


「常に普通に呼べよ!」


 こっちはお米の情報と生活がかかってるんだからな!


 というか、オレも今は魔道具職人なのだから、誰かそっちに関する綽名を付けてくれないものか。綽名、変えたくても自分じゃ変えられないんだよなあ。


 この都市だけじゃなく、周辺の国も含めてだが、有名になると綽名が付けられるという風習がある。誰が決めるというものでもなく、その人物に因んだ名前がいつの間にか浸透するのだ。つまり拒否できない。

 ちくしょう、誰が最初にオレを『爆弾魔』なんて呼びやがった。


 オレの知り合いでも綽名が付いている人はいる。レックスとリックだ。それぞれ『斬鬼』と『運び屋』という綽名がある。

 リックの『運び屋』みたいに、オレも職業に因んだ名前が欲しい。


「お、お前はあの時の無礼者!!」


「うん?」


 スライと一緒にいた駆け出し君が怒っている?会ったことある?ん?無礼者?


 ああ!あの時の家から追い出された貴族の少年か!ピカピカの鎧が無かったから分からなかった。


「ああ、うんうん。覚えてる覚えてる。え~と......名前なんだっけ?」


「覚えてないだろ!ストームだ!私の名前はストーム!」


 おや?貴族の性は名乗るの止めたのね。まあ、家から追い出された時点で貴族じゃないからね。貴族性を名乗るだけで面倒事が舞い込んでくるから正解だ。

 うむ。どうやらスライはちゃんと面倒を見ていたようだ。


 さて、それは良いとして。


「ああ、そうだったストーム君ね。この前は悪かったね。お詫びにこれどーぞ」


 今回用意したのはクッキーだ。いつもの蜂蜜クッキーじゃない。ジャムをサンドしたクッキーだぜ?職員さんに差し入れしてもフルーツ余ったからね。残りで作った。


「あ、ああ。ありがとう?」


「どういたしまして!」


 よし!これで解決!


「で、今日は狩り?」


「ンあ?鹿狩りだよ鹿狩り。二刀鹿、コイツのせいで狩りに行けなかったからよォ。ソッチのチビはテメエの従魔かァ?」


「おう、白狼のタローだ」


「わふ!」


 うん。いい挨拶だぞタロー。


「ソイツもヘンテコな名前してンなァ」


「はっはっは。爆発させるぞテメエ!」


 この場で花火にしてやろうか?


 まあいい。こいつの口が悪いのはいつもことだ。それにしても二刀鹿の狩りか。タローにも狩りの様子とか見せた方がいいかもしれないな。


 というか、二刀鹿の狩りにストーム君連れていくつもりなのか。けっこう森の奥だろう。この間までほぼ素人だったと思ったが。

 さっそくジャムクッキーを食べているストーム君を見る。


「……?」


「美味しい?」


「あ、ああ、はい。美味しい、です。ありがとう……ございます」


「どういたしまして」


 ストーム君の餌付けに成功したようだ。だが、クッキーを持つその手は細い。全身に力強さが足りないな。

 ふむ、どう見ても、ザ・素人だ。駆け出したばかりです!って感じがする。大丈夫だろうか。


「あア~~……」


「ん?」


 スライが呻き声を上げている。目線はストーム君だな。あ、こっち向いた。


「おう……これから暇かァ?」


「これからタローと森に入るところだ。探し物兼タローの運動」


「あア~……テメエに依頼がしてえ。報酬は二刀鹿の肉、内容はコイツの子守り」


 はは。ストーム君が心配になったか?相変わらず柄が悪い癖に面倒見の良い変態だな。

 オレも出来るならタローに二刀鹿の狩りを見せたいと思ったところだ。いいだろう。二刀鹿の生息地ではまだ稲も探してないしな。


「その依頼受けた。ちゃんと守ってやるよ」


「はっ!くたばっちまったら飯が不味くなるからなァ」


「はっはっは。それは同感だな」


 さて、ちょっと目的が追加になって場所が変わった上に人数が増えたが、森へ出発だな!


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よろしければこちらもどうぞ! 『お米が食べたい』シリーズ作品

〇コーサクの過去編 : 『ある爆弾魔の放浪記』  

〇ルヴィ視点の物語 : 『狩人ルヴィの故郷復興記』

シリーズ外作品 〇短編 : 光闇の女神と男子高校生な勇者たち
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