綽名と依頼
この都市に夏が戻ってきてから1週間が経過した。雪はあっという間に融けてなくなり、ぬかるんだ地面も真夏の日差しが乾かしてしまった。冬の面影はもう感じることができない。
都市の機能も元通りだ。皆、普段の生活に戻っている。
オレは昨日までで、農場に設置した魔道具の撤去や、たまっていた仕事を終わらせた。今日はフリーだ。という訳で。
「よし!森に行くぞタロー」
「わふ!」
定期的に行っている、森での稲探しである。
世界は広く、人の活動範囲はまだまだ狭い。都市に近い森でさえ、ほとんど人が入らない場所は数多くある。オレも森全体を踏破できてはいない。
稲を探しながら、ついでにタローの運動も兼ねるつもりだ。今回行く場所は森の浅い部分なので、冒険者の護衛はなし。タローの鼻に期待したいと思う。
昼食用のお弁当もリュックに詰めた。準備はOK。出発しよう。
家を出て、まずは大通りに向かう。空が青く良い日差しだ。今日こそはお米が見つかりますように。
大通りに出たところで見知った顔に出会った。
「あア?」
「ん?」
「ああ!!」
「わふ?」
出会ったのは2人組。1人は完全に知り合い。特徴的な、背中に差した2本の長剣姿は。
「んだア?『爆弾魔』かよ」
「その綽名で呼ぶなって言ってるだろ『切裂き男』。何回言ったら分かるんだ。普通に名前で呼べ!」
その綽名は人聞きが悪すぎるんだよ。
そこにいたのは、柄の悪い変態腕利き冒険者のスライだ。一緒にいるのは駆け出し冒険者風の少年。ん?見覚えがあるな。
「あア?テメエの名前は言いづれえンだよ。『爆弾魔』の方が楽だろうが」
「楽かどうかじゃねえ!こっちは魔道具職人やってんだよ!変な噂が広がって、売れなくなったらどうするつもりだ!?」
「メンドクセエ。気が向いたら呼んでやるよ」
「常に普通に呼べよ!」
こっちはお米の情報と生活がかかってるんだからな!
というか、オレも今は魔道具職人なのだから、誰かそっちに関する綽名を付けてくれないものか。綽名、変えたくても自分じゃ変えられないんだよなあ。
この都市だけじゃなく、周辺の国も含めてだが、有名になると綽名が付けられるという風習がある。誰が決めるというものでもなく、その人物に因んだ名前がいつの間にか浸透するのだ。つまり拒否できない。
ちくしょう、誰が最初にオレを『爆弾魔』なんて呼びやがった。
オレの知り合いでも綽名が付いている人はいる。レックスとリックだ。それぞれ『斬鬼』と『運び屋』という綽名がある。
リックの『運び屋』みたいに、オレも職業に因んだ名前が欲しい。
「お、お前はあの時の無礼者!!」
「うん?」
スライと一緒にいた駆け出し君が怒っている?会ったことある?ん?無礼者?
ああ!あの時の家から追い出された貴族の少年か!ピカピカの鎧が無かったから分からなかった。
「ああ、うんうん。覚えてる覚えてる。え~と......名前なんだっけ?」
「覚えてないだろ!ストームだ!私の名前はストーム!」
おや?貴族の性は名乗るの止めたのね。まあ、家から追い出された時点で貴族じゃないからね。貴族性を名乗るだけで面倒事が舞い込んでくるから正解だ。
うむ。どうやらスライはちゃんと面倒を見ていたようだ。
さて、それは良いとして。
「ああ、そうだったストーム君ね。この前は悪かったね。お詫びにこれどーぞ」
今回用意したのはクッキーだ。いつもの蜂蜜クッキーじゃない。ジャムをサンドしたクッキーだぜ?職員さんに差し入れしてもフルーツ余ったからね。残りで作った。
「あ、ああ。ありがとう?」
「どういたしまして!」
よし!これで解決!
「で、今日は狩り?」
「ンあ?鹿狩りだよ鹿狩り。二刀鹿、コイツのせいで狩りに行けなかったからよォ。ソッチのチビはテメエの従魔かァ?」
「おう、白狼のタローだ」
「わふ!」
うん。いい挨拶だぞタロー。
「ソイツもヘンテコな名前してンなァ」
「はっはっは。爆発させるぞテメエ!」
この場で花火にしてやろうか?
まあいい。こいつの口が悪いのはいつもことだ。それにしても二刀鹿の狩りか。タローにも狩りの様子とか見せた方がいいかもしれないな。
というか、二刀鹿の狩りにストーム君連れていくつもりなのか。けっこう森の奥だろう。この間までほぼ素人だったと思ったが。
さっそくジャムクッキーを食べているストーム君を見る。
「……?」
「美味しい?」
「あ、ああ、はい。美味しい、です。ありがとう……ございます」
「どういたしまして」
ストーム君の餌付けに成功したようだ。だが、クッキーを持つその手は細い。全身に力強さが足りないな。
ふむ、どう見ても、ザ・素人だ。駆け出したばかりです!って感じがする。大丈夫だろうか。
「あア~~……」
「ん?」
スライが呻き声を上げている。目線はストーム君だな。あ、こっち向いた。
「おう……これから暇かァ?」
「これからタローと森に入るところだ。探し物兼タローの運動」
「あア~……テメエに依頼がしてえ。報酬は二刀鹿の肉、内容はコイツの子守り」
はは。ストーム君が心配になったか?相変わらず柄が悪い癖に面倒見の良い変態だな。
オレも出来るならタローに二刀鹿の狩りを見せたいと思ったところだ。いいだろう。二刀鹿の生息地ではまだ稲も探してないしな。
「その依頼受けた。ちゃんと守ってやるよ」
「はっ!くたばっちまったら飯が不味くなるからなァ」
「はっはっは。それは同感だな」
さて、ちょっと目的が追加になって場所が変わった上に人数が増えたが、森へ出発だな!




