求む鶏肉
この都市には屋台通りという場所がある。提供されている料理は様々だ。肉を焼いたり、魚を焼いたり、炒め物の軽食だったり、煮込んだスープだったりする。
たくさん種類があるのだが、見かけないものがある。揚げ物だ。
そもそも、この都市では揚げ焼きにするくらいで、ちゃんとした揚げ物はほとんど食べられていないのだ。油が高い訳でもないのに。不思議だ。
という訳で、そこに一石投じようと思う。オレは鶏の唐揚げとフライドポテトの屋台を出す。
オレは揚げ物も好きだ。鶏の唐揚げでご飯を食べるのも好きだし、かつ丼を掻き込むのも好きだ。今回の屋台の狙いはこの都市での揚げ物の認知度を上げることだ。
一度、揚げ物の美味しさを知ってしまえば、この都市の店でも揚げ物の料理が増えることだろう。
いつかお米が見つかったときのために、おかずに出来る料理は増やしておきたい。
屋台にはオレの改造馬車を使う。料理スペースは問題ない。後はメニューと値段を書いた看板を立てればいいだろう。
問題は仕入れだな。ジャガイモはいつもあるのでいいとして、鶏肉が問題だ。今の状況で屋台を出せるくらいに購入できるだろうか。
駄目だったら、ただのフライドポテト屋さんだな。
とりあえず、相談に行ってみるか。
都市郊外、やって来たのは養鶏農家さん。卵と肉の両方を扱っている。オレもよく卵を買いに来る。
ここに卵を買いにくる度に、卵かけご飯が食べたくなる。あったかいご飯に卵を乗せて、醤油垂らして、ちょっとかき混ぜて食べたい。超美味そう。
……まあ、この世界の卵は生食できないんだけどね。生だとオレの毒見の魔道具が反応する。
お米を見つけたら、卵の生食の方法を調べよう。たしか何かの菌が原因だろ?殺菌……?
まあいいや。それは置いておいて、今は卵より鶏肉だな。
「ごめんくださーい」
「はーい!あら、コーサクさん、いらっしゃいませ」
出て来たのはここの奥さんだ。
「すみません、鶏肉のまとめ買いって出来ますか?祭りの屋台で使いたいんですけど」
「ああ、お祭りね。わたしも昨日聞いたばっかりよ。でも、ごめんなさいね。さすがに今日明日で大量には捌けないのよ。他のお客さんもいるから、あまり数は売れないわ」
「そうですか」
ふむ。まあ、当然か。無理を言う訳にもいかないな。しょうがない。屋台のメインはフライドポテトだな。鶏の唐揚げは数量限定にするか。
「分かりました。とりあえず、買える分買ってもいいですか?」
「ええ、いいわよ。毎度ありがとう」
家に帰って看板でも作るか。明日1日でジャガイモの処理だな。
家に帰る途中、巨大な荷物を頭上に掲げた、真っ赤な人影を見つけた。遠目だから良く見えないけど、あれレックスじゃない?
髪も服も真っ赤な、先鋭的なセンスの着こなしはレックスくらいだろ。何持ってるんだろ?なんだ?丸い毛玉?黒いな。
レックスがこちらの視線に気づいたようだ。片手で荷物を持ち上げ、手を振ってくる。
レックスの身長と比較して、荷物は5m近くありそうなんだが、片手で大丈夫なんだろうか?……大丈夫か。レックスだしな。
近づいていくと、荷物の正体が見えて来る。魔物だな。でかい魔物がロープで丸く縛られて固定されている。
「やあレックス、元気?」
「おお!元気だぜ!コイツを狩ってくるくらいにな!はっはっはあ!コーサクは元気か?」
「うん、元気元気」
レックスの髪はばっちり逆立っている。調子は良さそうだ。テンションも高い。
「今回は何狩ってきたんだ?」
「コイツか?コイツは金王冠黒鶏だな」
「へ~、強そうな名前だな。……って鶏?」
鶏なのこの毛玉!?
よく見てみると、首と脚が切断された鶏のようだ。断面は、初めから先が無いのが正しいように美しく滑らかだ。
……このサイズなら、唐揚げが何個作れるか。ちょっと買い取りを相談させてもらうか。レックスが狩る魔物だから高額かもしれないけど。
「レックス。この魔物を売る予約は入ってる?なかったら買わせて欲しいんだけど。鶏肉、祭りの屋台で使いたいんだ」
「お?ははっ、そんな買うなんて水臭いこと言うなよ。やるよ、この鶏。その代わり、屋台の料理は一番最初に食わせろよな!」
「お、おお。本当に?え、うん。ありがとう。すごく助かる。屋台で好きなだけ食べていってよ」
「おう!楽しみにしてるぜ!」
レックスのおかげで大量の鶏肉が手に入った。これで屋台では、鶏の唐揚げとフライドポテトを出すことができそうだ。レックスには揚げたてを贈ろうと思う。
後はこの鶏の解体だけど……。
「……解体は冒険者ギルドに頼もうか。レックス、運んでもらえる?」
「任せとけ!」
オレじゃあ、このサイズの魔物の解体は厳しい。ベテランのベギウスさんに頼むとしよう。
食材の問題は解決した。後は、オレが美味しく揚げるだけだ。さあ、思いっきり準備をしよう。オレがこの都市に、揚げ物ブームを巻き起こす!




