農場の結界
氷龍への対策開始から4日目、今日の仕事場所は農場だ。
例年なら晴れて太陽光が降り注いでいるはずだが、今は雲に覆われ日差しはない。夏の暑さは何処へやら、肌寒いくらいだ。
日ごとに悪くなる天候に、農家の方々の顔色も悪い。今日の仕事を手伝ってくれるリューリック商会の面々も厳しい顔だ。
まだ青い麦たちも、寒そうに揺れている。
「それでエイドル。実験の結果を教えてくれる?」
「ええ、ええ!大変面白い実験でした!太陽光による植物の生長と、魔道具から発せられた光による植物の生長を比較した結果、魔道具の光では生長は悪くなるということが分かりました!これは、魔道具の光を強くしてもあまり変化がなく、やはりドルドア派が提唱している太陽光には多量の魔力が含まれているという学説が正しいという証拠ですな!」
「あ~、分かったから落ち着け。農家の方々の目が痛い」
不安がっている農家の人達の前でうれしそうにテンション上げるなよ。ちょっと睨まれてるじゃねえか。
エイドルに頼んだ実験の結果、こっちの植物の生長には魔力も必要だということが確定した。
まあ、だいたい予想できていたことだ。こっちの生き物は魔力がなくなると死ぬし。生長にも魔力を使っているとは思っていた。
「で、太陽光がない場合の対策は?」
「やはり、不足している魔力を補うべきだと考え、空中の魔力濃度を上げる実験と、土に砕いた魔石を混ぜる実験を行ってみました。結果、効果が大きかったのは空中の魔力濃度を上げる方でしたな。どうやら、魔力の吸収は根より葉の方で行われているようですぞ。大発見ですな」
「ならまだマシだな。さすがにこの広い農場全部に、砕いた魔石を撒くのは絶望的すぎる。というかもったいなさすぎる」
「はっはっは、金額的にも目が飛び出るほどになりますな!さて、こちらが実験で出た数値です。もう少し時間があれば、多様な植物での実験で、より詳細な記録が取れたのですが。残念ですな」
「ありがとう。時間が無いものはしょうがない。とりあえず、結界内にただ魔力をバラまくしかなさそうだな」
エイドルから渡された記録に記載されている、植物の生長を太陽光によるものに近づけるために必要な魔力濃度について確認する。
……農場を覆う予定の結界を考えると、必要な魔力量はとんでもない量になる。
雪除けの結界内に、さらに小型の結界を作って、高い魔力濃度が必要な空間をなるべく狭くするしかないな。
必要な魔道具が増えてしまった。後で作ろう。
先に雪除けの結界を作る、防壁の魔道具の設置だな。都市の周りに広がる農場は広大だ。時間も掛かる。気合を入れていこう。
「よし!ではジルさん今日はよろしくお願いします」
「ええ、よろしくお願いします」
農場への魔道具設置に協力してくれる、リューリック商会の責任者は副商会長ジルさん。こんな状況でも疲れの色や動揺も見て取れない。いつも通りの姿だ。
「この辺は結界から落ちた雪が溜まっても大丈夫ですか?」
「いえ、雪を集める場所があちらなので、雪を落とすのはこの方向でお願いします」
「了解です」
ジルさんと現場で協議しながら魔道具の設置と設定を行っていく。
リリーナさんの指示のもと、農家とリューリック商会の方々が協力し、除雪した雪の置き場所、農場へ移動経路までマップが作成されている。
それに合うように結界の形を整えていく。
防壁は負担が掛かるほど消費する魔力量が増えるため、結界は雪が滑り落ちやすいよう傾斜のきつい屋根の形にする。
結界から落ちた雪が移動経路を埋めないように、また雪の集積場所に近いように調整していくのが今日のオレの仕事だ。
農家の方もリューリック商会の方も非常に協力的なので、仕事はスムーズに進んでいく。問題があるとすればオレの体力だろう。
作業を始めてかなりの時間が経過した。
農場は広い。魔道具を設置するスピードを出すために、長時間魔力による強化をしている脳が悲鳴を上げてきている。
「ジルさん、少し休憩いいですか」
「ええ、そうですね。休憩しましょうか」
敷物を敷いて腰を下ろす。座ると自分が疲れていることが良く分かった。
蜂蜜クッキーを食べる。甘さが脳に効く。
「ジルさんもどうぞ」
「ええ、いただきます」
頭が重い。鈍痛がする。栄養の足りなくなった脳みそに、さらに砂糖入りのお茶で糖分を補給する。
脳への強化の使用にはタイムリミットがある。使いすぎると頭痛がしてくる。それでも使うと鼻血が出て来る。さらに使うと鼻血を出したままぶっ倒れる。
そもそも体に良くない気がする。
「予定より、良いペースで進んでいますが、予定通りのところで今日の分は終了にしますか?」
オレの様子を見たジルさんが聞いてくる。
「いえ、暗くなるまで、時間の許す限り進めましょう。氷龍の動きが予想でしか無い以上、多少無理しても進めるべきです。オレなら大丈夫ですよ」
「そうですか。分かりました。では、よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
まだ、限界じゃない。自分の限界は理解しているつもりだ。無理をするヤツの“大丈夫”ほど信用ならないものはないが、オレは違う。まだ動ける。
対応が遅れて、空腹で苦しむ人を見るのなんて御免だ。




