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異世界でもお米が食べたい  作者: 善鬼
第9章  帝国辺境_海賊領交渉編
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農村での買い物

 貿易都市を出て早一週間が経過した。二日目以降からは天気にも恵まれたおかげで、旅は順調に進んでいる。予定より一日半くらいは早く到着できそうだ。


「さすがにここまで来ると、他の馬車ともすれ違わないね」


「うむ。この場所は帝国領の端だからな。近くに大きな町もなく、小さな村が点在する程度だ。村人が村を出ることはほぼないから、たまに行商人が来るくらいだろう」


 隣に座るロゼと会話する。リーゼは後部座席で昼寝中だ。


「とりあえずは馬車を走らせやすくていいかな。事故の心配がないし」


 田舎すぎて盗賊もいないらしいので、ぶつかる可能性があるのは魔物くらいだ。

 もし魔物にぶつかったら、ありがたく夕食の材料としていただこう。


「近くの村まではもう少し?」


「うむ。地図によれば、もう見えてもおかしくない距離だ」


 ロゼがくたびれた紙に目を落としながら言った。手書きの地図だ。この旅のためにグラスト商会から購入したうちの一枚。あまり精度はよくないが、重要な場所はだいたい分かる。


「了解。それっぽいのが見えたら減速して、ゆっくり行こうか」


「うむ。この馬車は目立つからな。あまり驚かせないよう気を付けた方がいいだろう」


 馬車といいつつ馬がいないので、当然目立つ。先々で驚かれるので慣れてきた。


「新鮮な野菜とか買わせてもらえるといいね」


「そうだな」


 村に寄るのは補給のためだ。改造馬車に積んだ食材も減ってきたので、そろそろ追加したい。





 十数分後。無事に村を見つけ、村の入り口までやって来た。周囲には魔物が少ないのか、村を囲う木の柵は細いものだった。

 長閑な農村という雰囲気だ。


「おっ、村の人発見」


 若い農夫が籠を背負って歩いている。馬車の音に気付いたのか、こちらに振り返った。目が合う。

 が、すぐに慌てた様子で村の奥へと走って行ってしまった。


「ありゃ、行っちゃった……」


「ふむ。村長にでも伝えに行ったのだろうか」


「う~ん、特に怖がってる風でもなかったから、やっぱりこの馬車に驚いたのかな?」


「そうかもしれないな」


 ロゼが頷く。


 とりあえずはゆっくり進もう。そう思って改造馬車を徐行させていると、村の奥からぞろぞろと人がやって来た。先頭は壮年の男性だ。

 こちらに大きく手を振って来る。


 改造馬車を停め、オレが一人降りた。

 近くで見る男性は警戒と興味が半々の表情だ、後ろの村人達の顔は好奇心一色。野次馬らしい。


 オレの顔を見た男性がニカリと笑う。


「よお。大人数で悪いなあ。なんもしねえから気にしねえでくれ。外からの客が珍しいんだあ。兄さん、こんな辺鄙な村にどしたあ?」


「こんにちは。こちらこそお騒がせしてすみません。魔道具職人のコーサクと言います。自由貿易都市から、この先のディシールド領に向かっている最中でして。余っている作物なんかがあれば、少し買わせてもらいたいんですけど」


 男性の顔が明るくなる。


「おお、なんだ、そんなことかあ。構わねえ、構わねえ。今年は豊作だったんだあ。好きなだけもってけ。お~い、馬鹿息子ー!」


「なんだよ馬鹿親父!」


 野次馬の中からヤンチャそうな少年が出て来た。


「俺はこの人達を村長んとこまで連れてくからあ、おめえはここにいねえ家の人に知らせて回れえ」


 指示されるのが嫌な年頃なのか、少年は面倒そうにオレの顔を見る。それから視線を外して改造馬車を見て――ロゼと目が合ったのか一気に顔を赤くした。


「ぐっ、い、行ってくる!」


 タンッ、と軽い足音を立てて少年が走って行く。

 ……ロゼが綺麗なのは分かるけど人妻だからな?


 男性は笑いながら息子を見送って、オレへと視線を戻した。


「嫁さんかあ? 別嬪だなあ。はははっ」


「ええ。娘を連れて嫁の里帰りの最中なんですよ。親に孫の顔を見せようと思って」


「そりゃあいいことだ。爺さん婆さんも大喜びだなあ」


 デュークさんもロザリーさんも若々しくて、お爺さんお婆さんという感じがしないけど。


「そんじゃあ馬車は……今さらだけど馬のいねえ馬車なんて初めて見たなあ。都会の方はすげえんだなあ」


「ははは」


 感心して頷く男性に、オレは誤魔化すように笑った。たぶん都会に行っても走ってない。


「そんじゃあ馬車はここに泊めて、いちおう村長んとこに顔だけ出してもらっていいかあ? 村長は最近腰が悪くてなあ」


「分かりました。家族も連れて行きますね」


 買い物をさせてもらう前に、まずは挨拶だ。




 代表で話した男性――ドネルさんに案内されて家族3人で村の中を歩く。

 タローは留守番だ。村人に怖がられても困る。


 リーゼが寝起きだったので少し不安だったが、眠気より好奇心の方が上だったらしい。ロゼに抱かれながら、キョロキョロと周囲を見渡している。

 たまに村人と目が合うと、笑顔で手を振っていた。リーゼはこのまま人見知りとかしないんだろうか。

 警戒心もなさ過ぎて、オレは少し心配だ。


 リーゼの将来に少し不安を覚えながら、村の中を進む。村の景色に珍しいものはなかった。強いて言えば、家畜でも飼っているのかたまに少し匂う程度だ。農村では良くある。


 あとは、近づいて来た大きな家が村長宅だろう。


「おう兄さんたち、ここが村長ん家だあ」


 案の定、ドネルさんは大きな家の前で立ち止まった。そのまま中に声を掛けて入っていく。気安い様子だ。


「お邪魔します」


 ドネルさんの後に続いて家に入ると、すぐに大きな部屋に出た。深い皺を顔に刻んだ老女が、静かに椅子に座っていた。


「村長、客人だあ。旅の途中で食いもんを買わせて欲しいんだと」


「――――」


 ん? 村長が何て言ったか分からなかった。


 チラリと隣を見れば、ロゼも疑問顔だ。


「はははっ。村長は最近歯ぁ悪くしてなあ。近くにいねえと何言ってるか聞こえねえんだあ。“よく来た”ってよお」


「ああ、そうなんですか。どうも。自由貿易都市から来た魔道具職人のコーサクです。こっちは妻のロゼッタと、娘のリーゼロッタです。旅の食料に、少し村の作物を買わせていただければと思います」


 隣でロゼがしずしずと頭を下げた。


 そしてリーゼは、元気よく声を上げる。


「リーゼです! よろしくお願いいたします!」


「――――――」


 何と言ったのかは不明だが、村長は優しく笑みを浮かべた。

 その後にドネルさんを手招きして、何かを耳打ちする。


「おう。うん、うん。兄さんたち。村長が自由にやってくれってさあ」


「ありがとうございます。助かります」


 村長は笑みのまま二度ほど頷いた。ドネルさんも満足そうな顔をする。


「そんじゃあ行くかあ。馬鹿息子が呼びに行ったからあ、みんな集まってる頃だあ。そんじゃあな村長」


 ドネルさんが村長に軽く声をかけ、オレ達について来いと手を振る。


 そのまま村長宅を出て少し歩けば、村の広場へと着いた。


 確かに、村中から集まったのかと言うくらいに人が多い。


「はははっ。やっぱりみんな来てんなあ。兄さん、断りたいときはちゃんと言えよお。こんな辺境じゃあ金を落としてくれる冒険者なんかもそういねえからなあ、みんな張り切ってんだあ」


「あ~、頑張ります」


 小さい村だが、既にかなりの賑わいだ。というか、オレに関係なく村人同士での物々交換も始まっている。

 オレ達は体のいいイベントの口実になったようだ。


 季節が秋だということもあり、並んだ作物は村の規模を考えれば豊富だ。買えるだけ買わせてもらおうか。



 数分後、村のおっちゃん達に囲まれた。


「よお兄ちゃん、イモいらねえかイモ」

「いや、イモならうちのがいいぜ! 見ろよこの大きさ」

「味なら俺んところが一番だぞ!」


 イモ推しがすごい。


「ええと、ちょっと順番でお願いします」


 愛想笑いを浮かべながら押し売り状態の村人達を捌いていく。

 ちなみにオレ一人だ。ロゼとリーゼは村の奥さん方に引っ張られてどこかへ消えた。今頃は娯楽に飢えた女性陣に囲まれていることだろう。


 助けに行けないし、たぶん助けも来ないので孤軍奮闘するしかない。


「この村の主食はイモなんですか?」


「イモと豆だなあ。あ、豆も食うか?」

「ここらは夏も涼しくて麦が育たねえのよ。そういや、もう何年も麦なんて食ってねえな」

「おめえは昨日も買った麦酒飲んでただろうが!」

「そういやそうだった! がははっ」


 う~ん、賑やか。


 帝国は北の山脈に住む氷龍が冷たい空気を集めるため、それより手前の地域は雪も降らないという不思議な気候となっている。

 超大規模なエアコンみたいな生態だ。山脈を冷やす代わりに、熱は他の地域へと放出される。

 国の中で言うと、氷龍の影響が届かない中間辺りが一番寒いくらいだ。つまりここら辺だな。


「とりあえず、イモと豆は皆さんから少しずつ買わせてください。あとは、葉野菜とかもありますか?」


「よしきた。俺んとこから持ってくるぜえ」

「兄ちゃん大根もどうだ? 葉っぱ付いてるぞ」

「出せるもん持ってくるわ!」


 慌ただしく何人かが走っていく。これ、お金はいつ渡せばいいんだろうか。


「兄ちゃん魔道具職人なんだよな。有名な工房の出なのか?」


 暇そうな若い村人が質問して来た。興味津々といった表情だ。

 基本的に魔道具職人は、どこかの工房に弟子入りして経験を積むので、その意味で聞いてきたのだろう。


「自分は我流なので、特に出身の工房とかはいないですね。有名かどうかで言えば、一部では名が売れていると思います」


 魔道具職人以外の面の方が目立っているかもしれない。


「へえっ! 自分で工房を開いたってことかよ。すげえな」


 若い村人は感心したような顔でオレを見て来た。素直な称賛は少し照れる。


「元々は冒険者だったので、自分が使う魔道具を自作してたんですよ。そうしているうちに魔道具作りで稼げるようになったので、冒険者を辞めて魔道具職人になりました」


「はあ~。そんなこともあるんだなあ。すげ~」


 珍しい話のためか、若い村人は興奮したような表情だ。


 しかしそうか。最近は弟子もとったから、自分で工房を開いたと言えなくもないのか。うわあ、ルカの教育頑張ろう。


 改めて責任重大だと背筋を伸ばしたところで、日に焼けた男性が近づいて来た。


「なああんた、冒険者だったってことは戦えるのかい?」


「はあ。まあ、それなりには」


 ちょっと“それなり”の範囲が広い気もするけど、まあそれなりに戦える。


 オレの回答に、男性は安心したような顔をした。


「それなら少し話を聞いて欲しいんだが」


「ええと、はい。とりあえず聞くだけなら」


 微妙にトラブルの気配がする。近くで魔物でも出たのだろうか。

 まあ、内容によっては狩ってもいいな。タローの運動兼、肉の確保だ。


 男性は一度頷いてから話し出した。


「うちでは牛と山羊を放牧してるんだが、少し前から変な穴が出来てなあ。牛が足を怪我しても困るんで埋めたら、次の日にはまた穴が開いている。なんでかと思って穴を覗いたら、でっかい毛だらけの魔物がおったんだ」


「なるほど」


 それは……土の竜と書くあいつかな? いわゆるモグラ。


「どうしようかと悩んでいるところにあんたが来たんだ。一つ助けてくれんか? 礼にはチーズと乳と、あとは柔らかい子山羊の肉も付けよう」


「はいやります!」


 二つ返事で引き受けた。


 牛乳に肉。なによりチーズだ。

 魔術があるこの世界では、保存は氷の魔術を使った冷凍、冷蔵が一般的。発酵食品はかなり少ない。


 だから、オレの中ではチーズは貴重品なのだ。栄養豊富で使い道も色々。気温も下がってきたのでぜひ欲しい。


 本物の龍でも翼竜でもない土竜を狩るだけでいいのなら、いくらでも狩ってみせよう。


 明日の夕食はチーズリゾットだ!


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〇コーサクの過去編 : 『ある爆弾魔の放浪記』  

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シリーズ外作品 〇短編 : 光闇の女神と男子高校生な勇者たち
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