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異世界でもお米が食べたい  作者: 善鬼
第8章  冒険者ギルド_間諜暗躍編
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選んだ日常

二話目

 ルカと家に着いた頃には、空が若干白み始めていた。かなり疲労を感じるが、寝る前にルカと話しておかなければならないだろう。


 いつもより静かに感じる居間で、ルカと座って向かい合う。


「さて、眠いところ悪いけど、少し話をさせて欲しい」


「うん……あの、ごめんなさい」


「ん? どうした?」


「迷惑をかけたから……」


「ああ。さっきも言ったけど、別に気にしなくてもいいよ。子供が大人に迷惑をかけるのは普通のことだし。そもそも、これくらいならどうってことないさ。龍と戦ったりするより楽だ」


 まあ、あれと比べたら、ほとんどの物事は楽になってしまうけど。


「うん……。龍……?」


「ああ、あまり気にしなくていい。それよりも、大事な話をしようか。ええと、トールさんからは何か聞いたか?」


「うん……いろいろ。村がなくなった話も聞いたよ……」


「そうか……。知ってたのか?」


 ルカの瞳は静かだ。悲しさは窺えるが、落ち込み過ぎてはいないように見える。


「ううん……でも、なんとなく、そうかなって思ってた。それに……あそこにはあまりいい思い出はないから……」


 その魔術適性故に、か。珍しい適性でも、魔物と戦うために役立つのであれば重宝されただろうが、人を操るだけでは、貧しい村ではどうしようもないのかもしれない。


「その割には、エルは楽しそうに村のことを話してたな」


「うん……僕が忘れさせたから(・・・・・・・・・)


 ルカの言葉に、オレはこれまでのことを思い出す。村のために魔道具を買うと言っていたのも、村の人間にお土産話ができると喜んでいたのも、エルだけだ。


「ルカ……。エルの記憶を操作したのか?」


「ううん……。僕ができるのは、少しだけ記憶を思い出せなくするのと……あとは意識を逸らすことだけ……」


 だけ、とは言うが、それでも十分強力な能力だ。あのスパイ達ではないが、悪用する方法はいくらでもある。


「エルも同じことができるのか?」


「ううん……お姉ちゃんは、人の気持ちを強くしたり、抑えたりできるよ……」


 それは感情のタガを外すとか、そういう話だろうか。どちらにしても、日常的に使っていいものではないだろう。


「分かった。教えてくれてありがとう。だけど、ルカ。あとでエルにも言うけど、その力は、これからは使っちゃ駄目だ。もし使うとしても、自分の身が危ないときだけにしよう。その代わりという訳じゃないけど……ルカの魔道具職人としての師匠には、オレがなる」


「いいの……?」


「ああ、大丈夫。ちょうど最近は、いい加減に弟子の一人でも取れって、知り合いにせっつかれていたところなんだ」


 知り合いというか、ガルガン親方にだけど。技術の継承は職人の義務なんだとか。冒険者ギルドの支部建設で職人は少し減るだろうし、ガルガン親方もこれから忙しいだろうな。


 ……そういえば、オレはこれから3年間、魔石の購入価格が半額になる訳だけど、これってもしかして、職人達が抜けた影響が収まるまで、オレにその穴埋めをしろということなのでは?


 やはりコルスさんは妖怪の類か……。


「お兄さん……?」


「ああ、ごめん。ぼうっとしてた」


 人の言葉や行動の裏を読むというのは、中々疲れる行為だ。というか苦手だ。だからこそコルスさんから、その分野でも成長が必要だと示されたのだろうけど。


 ルカの師匠となれば、魔道具作りの技術だけではなく、商人とのやり取りで必要となる知識も教える必要がある。


 つまりオレもまだまだ勉強が必要だ。頑張るしかないな。


「さて、ルカ。いい加減にお互い眠いと思うから、今後の詳しい話は明日にしたいと思う。だから、今はこれが最後の話だ」


「うん」


「――エルの記憶は、時間が経てば戻るのか?」


 オレの質問に、ルカは真っすぐな目を向けてくる。不安に揺れていても、覚悟を決めた目だ。


「僕が解かない限り……そのままだよ。だから……お姉ちゃんにはずっと忘れたままでいてもらう。僕たちのせいで村がなくなったことも……教えない」


「……エルはきっと、ルカだけが傷付くことを望んだりはしない。それでも、秘密にし続けるのか?」


「うん。お姉ちゃんが笑っていられるなら……僕はそうする」


 目を潤ませ、声を震わせながら、それでもルカはオレから視線を逸らさない。


「お姉ちゃんの心は、僕が守るよ」


 静寂に満ちた居間の中に、その言葉ははっきりと響いた。


「……分かった。それなら、オレも協力しよう。一緒に嘘を吐き通すよ。誤魔化し方も一緒に考えようか。そのためにも、まずはひと眠りだな。さすがにもう頭が回らない。ルカも今日は疲れただろうから、ぐっすりと眠るといい」


「うん……お兄さん」


「ん?」


「ありがとう」


「どういたしまして」




 ルカを姉が眠る部屋へと送った後、オレは居間のソファに寄りかかって、はあ、息を吐いた。窓から見える空は、すっかり明るくなっている。もう夜明けだ。つまり朝。


「疲れた……。オレも寝るか……」


 重い体を引き摺って廊下へと出る。完全に日が昇ってはいないので、家の中はまだ薄暗い。


 その廊下の薄闇が、急に動いた。


「コウ。お疲れさま」


「ロゼ……? 起きてたの?」


「うむ。いちおうな。ルカの足音が聞こえたから、こうして様子を見に来たところだ」


「そっか……」


 ロゼの近くまで寄って、廊下の壁に体を預ける。ひんやりとした感触が気持ちいい。


「今日は疲れたよ……」


「うむ。お疲れさま」


 ロゼがオレの隣で、廊下に背を付けて寄りかかる。優し気な微笑みに、何だか気が抜けた。


「……これで良かったかなあ」


 口に出すのは、先程のルカとの約束だ。


 オレがルカの立場だったら、絶対に同じような選択をする。だが、エルの立場だったら? オレは、そんなことは望まないと言うだろう。

 それでもルカの選択を否定しなかったのは、小さくても男であるルカの、だれかを守りたいという覚悟を尊重したかったからだ。


 それが正解だったかどうかは、今はまだ分からない。とりあえず、頭の良い選択じゃなかった気はする。


 父親という肩書を手に入れても、オレはまだまだ未熟者だ。今日のことだけでも、それが痛いほど分かる。


 ロゼとリーゼに恥じないように、ちゃんと頼りがいのある父親として行動したいものだけど……。


「ロゼ。父親をやるって、難しいね……」


「ふむ?」


 疑問符付きのロゼの反応に、そういえば、全く事情を説明してなかったなあ、と眠い頭で考えたところで、ロゼの両手がオレの顔へと伸びて来た。剣を握ることが減り、昔より柔らかくなったロゼの手が、オレの頬へ触れる。


 その手が慈しむようにオレの頬を撫でて――何故か両頬を指先で引っ張られた。


「ふむ。コウの頬は、リーゼに比べて硬いな」


「ほらほうへほ」


 そりゃそうでしょ、だ。口が強制的に半開きなのでちゃんと話せない。というか、リーゼと比べるのが間違ってる。あれはモチモチなんていうレベルを通り越して、擬音にするとムニョンムニョンだ。変幻自在の柔らかさである。


「事情はよく分からないが、コウは焦り過ぎだと思うぞ?」


 伸びが悪いオレの頬を引っ張りながら、ロゼは少し楽しそうに話す。


「うむ。それもリーゼと私のためだと思えば、とても嬉しいものだが。しかし、コウ。私達は親になってまだ、たったの2年だ。剣の修行ならば、2年と言えば、まだ素振りのみの時代だぞ?」


 いや、剣の修行とかよく分からないけど。まあそれでも、なんとなく言いたいことは分かる。


「私たちはまだ親の初心者だ。リーゼと一緒にこれから成長していけばいい。そう焦らずとも、きっと結果はついてくる。子の成長は、親の成長でもあるのだ」


 そう言って、ロゼがオレの頬を離す。近くにあるロゼの顔は、何だか悪戯っぽい笑みだ。


「と、そんなことを、先日の女子会でアリシア殿から教えてもらったのだ。良い話だろう? コウの手が空いたら、聞かせようと思っていたのだ。そしてこの話に、私なりに付け足すならば――」


 ロゼがオレに寄りかかって来る。


「3人一緒なら、この先なにがあっても乗り越えられると、私は信じている」


「……そうだね。ロゼとリーゼが一緒なら、オレは無敵だよ。きっと何だってできる」


「ふふふ。それは頼もしいな」


 頼もしい、は、オレの台詞でもある。ロゼといいアリシアさんといい、頼り甲斐がありすぎる。母は強し、だ。





 翌日、というか翌朝からの話。


 オレは例のごとく、リーゼとタローによるジャンプ攻撃により起こされ、ルカは姉のエルに「お世話になっている家で寝坊するなんて!」と、起こされたらしい。

 昨晩のことは秘密なので、言い訳のしようもない。日常を守った故のイベントだと、好意的に考えるとしよう。


 さて、そんなしっかりした姉のエルについてだが、彼女には村が魔物に襲われて壊滅した、という嘘を教えた。

 ただし、村人の大半は無事に逃げて、他の村へと別々にお世話になることになった、と。


 そして、村人を受け入れた他の村にもそう余裕がある訳ではないので、2人が戻るのは難しいのだと、嘘を吐いた。


 エルは少し混乱した様子を見せたが、ルカがオレの弟子になるので、姉弟で住み込みでも構わない、という話も聞かせて落ち着かせた。

 もっとも、エルが落ち着いたのは、オレの話よりも、タローとリーゼの働きが大きかった気がするけど。


 空気の読める子供好きなタローがエルに寄り添い、リーゼも、状況は分からないだろうにエルへと抱き着いていた。悲しむ人を慰めよう、という情緒が育っているのなら、父親としてはとても嬉しく思う。


 さて、そんな姉弟2人だが、結果から言うと、一週間ほどで孤児院に移ることになった。もちろんオレの意思ではない。2人の希望によるものだ。

 エルとルカによれば「ここにいると甘え過ぎてしまうから」らしい。そのことでロゼにオレが甘いのかと聞いたところ、


「コウは基本的に人には甘いぞ?」


 と、当たり前のように言われた。自覚はない。なんなら、ルカには少し厳しめのつもりで教育を始めていたのに。


 疑問は残るが、ギルバートさんとアリシアさんに諸々の事情を説明し、無事に2人を受け入れてもらうことはできた。

 少々面倒な2人の事情にも、大丈夫よ、と笑顔で言い切ったアリシアさんには、とても頭が上がりそうにない。


 孤児院では、エルもルカも問題なく過ごしているらしい。姉のエルは年長の方に分類されるので、イルシアについて孤児院の手伝いをし、ルカはオレの家に修行のために通っている。


 オレはと言えば、相変わらず稲を育てつつ、魔道具作りを行っている。それに加えてルカ用の勉強用テキストなんかを作り、暇を見てはリーゼの世話をし、と中々に多忙だ。


 まあ、ギルド長のコルスさん曰く、困難は人を成長させるらしいので、この忙しさもそのうち身になるのだろう。


 とまあ、そんなことを考えつつ、今日も田んぼへ出発だ。穂先が膨れてきた今日この頃。収穫もそう遠くはない。


「パパ、いってらっしゃーい!」


 いつも通りに見送ってくれるリーゼを抱き上げる。


「うん。行って来ます。って、リーゼちょっと大きくなった?」


「ん~?」


 本人には自覚がないらしいが、抱いた感じ、少し重くなった気がする。身長も、心なしか伸びた気がしなくもない。

 いや、実際大きくなっているのだろう。子供の成長は早いのだから。


「はは。リーゼが大きくなるのと一緒に、パパも成長しないとな」


 何の話か分からずに首を傾げるリーゼの頬を触る。やっぱり、こっちの方が圧倒的に柔らかい。


 さて、このやり取りだけで気力は十分だ。今日も一日頑張って働くとしよう。


 第8章 完



 皆さんこんにちは。あるいはこんばんは。


 まともに後書きを書くのは久しぶりな気がします。


 なんだかんだと第8章まで終えた今作品。なんと250話を越えました。

 文字数にして80万字オーバー。400字詰めの原稿用紙で2千枚です。


 原稿用紙一枚を0.05mmとすると、ぴったり高さ1メートルになります。


 我ながらよくやった気がします。そして、1メートル分もここまで読んだ皆様。どうもお疲れ様です。


 今後ともよろしくお願いいたします。


 それでは、また。

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