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異世界でもお米が食べたい  作者: 善鬼
第1章  自由貿易都市_氷龍飛来編
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元帝国女騎士さん

 今日も今日とて各商会からのお米情報を期待しつつ、魔道具作りに精を出している。外は快晴だが、オレは屋内作業である。


 コン、コン


 玄関からドアノッカーの音がした。ずいぶんと小さいというか弱々しい。

 魔石にアクセスしていたら聞こえなかったかもしれない。リックとかはそれを考慮して思いっきりノックしてくるぞ。


 玄関を開けるとそこにいたのは長身の女性だった。体は土埃で汚れ、荷物は腰の直剣だけのようだ。

 眉を下げた顔とその恰好から薄幸そうな雰囲気が溢れている。照り付ける日差しも彼女の周りだけ曇って見えるようだ。


「……ロゼッタ?」


「急にすまない。一晩泊めてくれないか?」


 友人の元帝国女騎士のロゼッタだ。ボロボロで一瞬誰だか分からなかった。


「とりあえず入って!今風呂沸かすから!」


 ロゼッタを家に引き込み、ばたばたと風呂の用意をする。ロゼッタは帝国騎士時代の鎧を使っていたはずだが、今持っていたのは剣だけだった。……なんだか不穏だ。


 ロゼッタを風呂に押し込み、前にロゼッタが置いていった荷物から着替えを置いておく。

 着ていた汚れのひどい服は……洗うのに時間が掛かりそうだから後回しだな。


 軽食を用意する。少し砂糖を加えたホットミルクと蜂蜜入りクッキー。用意しているとロゼッタが風呂から出て来た。


「いい湯だった。ありがとう」


 風呂から上がったロゼッタは、さっきの薄汚れた状態とは大違いの美人になった。肌は風呂の熱で薄紅色に色づき、スタイルの良い長身に、濡れた赤めの金髪が張り付いている。


「はい。まずはこれ食べて」


「ああ、ありがとう」


 ロゼッタと一緒にクッキーを齧る。ロゼッタは美味しそうにゆっくりとクッキーを食べていた。

 何があったかは分からないが、たぶん甘味を口にするのも久しぶりなのだろう。


「今回はある商人の護衛をしていたのだが……」


 クッキーが無くなった頃、ロゼッタが言いづらそうに口を開いた。だが、気が抜けて疲れが出たのか、眠そうに見える。


「疲れて見えるし、ちょっと寝なよ。いつもの部屋使っていいから」


「そうか……分かった。ひと眠りさせてもらうことにする」



 ロゼッタはベットに入ってすぐに眠ってしまった。やはり、かなり疲れていたようだ。

 疲れているロゼッタのために、今日の夕食はロゼッタの好物にしたいと思う。

 ロゼッタの好物は基本お肉、特にレアなステーキとお酒。あと甘い物。

 とりあえず、買い物だな。



 買い物から帰って来た。この世界では発酵食品が少ないけど、代わりに熟成肉が安く手に入るのが良い。氷の魔術が使える恩恵だ。

 買ってきたのは牛肉とパンと野菜、あとリンゴっぽい果物。酒は来客用のものが家にある。

 夕食はパンと牛肉のステーキ、サラダとスープにリンゴもどきを使ったデザートで良いだろう。酒のつまみには自家製の燻製チーズがある。


 さて、時間が掛かるデザートから取り掛かるとしよう。忙しいぞ。レッツクッキング。



 リンゴを使ったデザートと言えば何か?オレはやっぱりアップルパイが一番最初に出て来る。という訳で今日のデザートはアップルパイに決定だ。


 日本ならパイ生地だけでも売っているので、買って具材を載せてオーブンで焼くだけで良いのだが、当然ながらこっちには売っていないのでパイ生地から自分で作る。


 冷蔵庫から取り出したバターを細かく切ってボウルに入れる。その上から量った小麦粉を投入したら、木のへらでバターを切るように混ぜていく。

 バターが小さくなり、小麦粉とある程度混ざったら水を入れて、さらにサクサクと混ぜる。バターが溶けないように生地をまとめたら、ボウル毎冷蔵庫に入れてしばらく寝かせる。


 うし、生地を寝かせている間に次はリンゴだ。

 こっちで流通しているリンゴもどきは触感はリンゴだが甘味が少ない。なので1回煮ようと思う。

 リンゴの皮をするする剥いて。一口サイズにザクザク切ったら鍋に投入。水も入れずに弱火に掛ける。そして上から砂糖をドバっと。後は蓋をして放置。


 次はスープに着手。


 鍋にお湯を沸かし、ステーキ用の肉のおまけでもらった骨をお湯にくぐらせる。熱せられたことで固まった血や汚れを水で洗い流し、鍋も水を入れ替えてもう一度沸かす。


 拭きとってきれいになった骨をー、躊躇なく金槌で割る!

 割れた骨を鍋に投入して煮る。次は野菜だ。皮までキレイに洗う。細切りにしてサラダに使うニンジンとスープ用のキャベツ、玉ねぎ、蕪を切り終わると、煮ていた骨から大量の灰汁が出ていた。

 丁寧に灰汁だけを掬っていく。


 透明になったスープにさっき切った野菜の皮や芯、切れ端を投入してさらに煮込む。


 リンゴに戻る。

 鍋と蓋の隙間から蒸気が溢れて来ている。蓋を開けると閉じ込められていた蒸気が一気に広がってきた。中はリンゴから出た水分で沸騰している。砂糖もとっくに溶けたようだ。

 少し火を強めて水分を飛ばしながら、果汁に溶けた砂糖を絡めるように混ぜる。リンゴがコーティングされて艶が出たら火を止めて冷ましておく。


 おし、パイ生地だ。

 魔道具で調理台と伸ばし棒の温度を下げる。生地のバターは温度が高いと溶けてくっつくし、食感変わるからな。

 冷蔵庫から出したパイ生地を、冷やした作業台で数回伸ばして畳むを繰り返す。できた生地はもう1回冷蔵庫にイン。オーブンも温めを開始する。


 まだまだ。次だ!

 鍋をもう1つ取り出し、ザルを設置、さらに清潔な料理用に使っている布を敷いて、煮込んでいたスープを濾す。濾した骨や野菜くずは後で肥料にでもしよう。

 濾したスープに具材のキャベツと玉ねぎ、蕪を入れて火を通す。

 野菜に火が通ったら塩と胡椒で味付け。


 少し味見してみる。


「っああ~~。体に染みる~~」


 美味い。栄養が体に吸い込まれるような感じがする。そういえば料理を作り始めてから何も飲んでいなかった。

 ちょっとだけ休憩しよう。



 休憩終わり。

 アップルパイの仕上げだ。パイ生地を取り出し、少し切り取り、大きい塊の方を丸く伸ばす。切り取った方は、さらに分けて平たく細長いヒモ状にする。

 パイ用に使っている皿に生地を被せて、冷めたリンゴ煮を載せていく。上に格子状になるように細い生地を並べたら、余らせた周りの生地を折りたたんで出来上がり。

 最後に溶いた卵の黄身を生地の上にムラなく塗ってオーブンに投入。


「おーし。終わった終わった。」


 残りのステーキとサラダはロゼッタが起きてからで良いだろう。


 さて、アップルパイ焼いてる間に皿洗いすっか。


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〇ルヴィ視点の物語 : 『狩人ルヴィの故郷復興記』

シリーズ外作品 〇短編 : 光闇の女神と男子高校生な勇者たち
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