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異世界でもお米が食べたい  作者: 善鬼
第1章  自由貿易都市_氷龍飛来編
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食料品最大手

 魔道具の作成依頼があったので、オレは今、依頼人と向き合っている。


「リューリック商会がオレに依頼なんて珍しいですね。お抱えの魔道具職人もいらっしゃるのに。しかも副商会長が直々になんて」


「どこの誰が作っていようと、良いものがあれば取り入れるべきでしょう。新しい波に乗り遅れた商人は沈むのみです。行動の速さは我が商会の伝統ですよ」


 朗らかに笑いながら商いの厳しさを口にするのは、渋い中年のジルさん。銀色の髪をきれいに後ろに流した格好いいリューリック商会のNo.2だ。

 どこの分野でも基本弱肉強食なのがこの世界だ。


「さすがですね。ご依頼はどんな魔道具でしょう」


 リューリック商会は食品関係を扱う商会のトップだ。エイドルに育ててもらっている珍しい果物や薬草、オレが作った醤油や味噌を少量買ってもらっている。

 魔道具だと、ガルガン工房と合作した船用の大型冷蔵庫を納品したことがあるけど、それだろうか?


「ご依頼したいのは、ネズミと虫の侵入を防ぐことができる魔道具です。ネズミは私達にとって天敵ですから対策は常にしているのですが、完全に被害を防ぐことは難しいのです」


 それはそうだ。食べ物を扱う人達にとってネズミは死ぬほど憎い害獣だ。どこからでも入って来て、食料を食い荒らし、エサがあるだけ増え続ける。


「コーサクさんが作っている結界型の虫除け魔道具はとても性能が良いものですから、ネズミ除けのものも、ぜひ作っていただきたいのです」


 虫除けの魔道具は、防壁の魔道具の特化型だ。防壁で防ぐ条件を虫のサイズに限定している。結界状にした防壁内には虫サイズのものは単体では入れない。人が持てば通れる。

 対虫に限定し強度を最低限にすることで、少ない魔力によっても長時間稼働することができる自信作だ。

 主に冒険者に良く売れる。在庫も家に結構ある。

 森の中だと毒虫とか良くいるからね。オレも使わないと森の中では安心して寝れない。


「そうですね。虫除けの魔道具の設定を変えればネズミ用にも使えます。ただし、魔力の消費量は上がりますね。3倍くらいです」


「ふむ。あの魔道具の3倍程度でしたら問題はありません。十分消費は少ないですね。まずは商会内の倉庫から設置していただきたいのですが、どのくらいかかりますか?」


「あの倉庫でしたら間隔を空けて10台設置すれば良いでしょう。お値段は全部でこれくらいですね。あの広さでしたら今日でも設置できますよ。」


「ええ。分かりました。設置も今日でお願いします。商談成立ですな」


 ジルさんから差し出された手を握って握手した。オレの魔道具の値段は相場に比べれば値切られない程に安い。ジルさんはさすがの即断即決だ。そのために権限があるジルが来たんだろうか。


「魔道具を準備して向かいますね」


「ええ、それでは商会でお待ちしております」


 ジルさんを見送り、魔道具の準備をする。在庫の魔道具も設定を変更し、お互いに干渉しないように連結できるよう魔術式を追加した。

 魔道具を取り付ける金具類も荷車に載せて、リューリック商会に出発する。



 リューリック商会では、食料を満杯にした馬車が頻繁に出入りし、商会員が忙しく荷物のチェックや積み下ろしをしていた。慌ただしさは戦場のようだ。

 邪魔にならないように商会の中に入って受付に向かう。


 まずはジルにこれから魔道具を設置することを伝えないとない……。


「あら、コーサクさん、いらっしゃい」


 急に横から聞こえて来た聞き覚えのある声に慌てて振り向いた。


「っこんにちは、リリーナさん」


 振り向くとそこにいたのは少女だ。輝く金髪は腰まで届き、高価そうなドレスを着ているが、ドレスよりも目を引くほどの美貌をしている。


「ふふふ、驚きすぎではないかしら?魔物に話しかけられたような動きだったわよ?」


「ははは。考え事をしていたのと、リリーナさんの美しさに当てられたからですよ」


 まあ、うれしい。そう言って彼女は微笑む。いつ見ても“寸分の狂いもないほど完璧な微笑み”だ。だが、オレにはどうしても、細められた彼女の目が笑っているように見えない。

 オレはリリーナさんが苦手だ。

 ……オレがリリーナさんに敬語を使うのは取引相手だからだ。10歳近く下の少女にビビッている訳じゃない。


「今日は倉庫にネズミ除けの魔道具を設置してくれるのよね?さっきジルから聞いたわ」


「ええ、その件でジルさんのところに行こうと思っていたところです」


 この商会のNo.2であるジルさんすら呼び捨てにするこの少女は、リューリック商会の若き商会長であり、この都市の4人の代表の1人。

 そして、都市の名前にもなっている創立者リリアナ・リューリックの直系の子孫でもある。

 都市の創立以前から、300年の歴史を持つ商会と従業員達の人生をその細い肩に乗せ、さらに商会の規模を拡大させている彼女は、可憐であろうとも化け物だ。


「ジルなら執務室にいたわね。受付に言えば案内してくれるわ」


「はい。ありがとうございます。では、これで」


 半ば強引に会話を切る。

 最前線で戦う一流の商人達は相手の表情、目線、話し方、体を動かす癖などから、相手が自覚していない心理状況すら把握する。

 オレは、リリーナさんの目が、オレの中を覗き込もうとする目が苦手だ。

 会話が途切れた。さっさと受付に向かうことにして、足を半歩後ろに下げた。


「……ああ、そういえば」


 するり、とリリーナさんがオレのパーソナルスペースに音もなく侵入してくる。反射的に仰け反ってしまった。重心が崩れてリリーナさんにぶつからないと移動できない。

 逃げられない。


「最近、グラスト商会を通じて新しい穀物の取引を始めたと聞いたわ」


 さらに近づいて、笑みを深めて彼女が言う。そばのことだろう。


「そんなものを見つけたのなら、食料を扱う私の商会に噛ませてくれても、いいのでは、ない、かしら?」


 至近距離で囁かれる。その美貌が近くにあるのが落ち着かず、つい彼女の言うことを肯定したくなる。

 だが、駄目だ。


「そばを見つけたのはグラスト商会で、行商人もグラスト商会に連なる人ですからね。オレの一存では何にもできませんよ」


 動揺も迷いも閉じ込めて答える。見つかった商品の権利は最初に見つけた商会にある。その縄張りを無断で荒らすのは、この都市では出禁にされるほどの裏切り行為だ。

 グラスト商会の代わりにオレが答える訳にはいかない。


「ふふふ。それはそうよね」


 軽やかにオレから離れ、くるりと一回転する。


「引き留めてごめんなさいね?出来上がりを楽しみにしているわ」


 スカートの裾を摘まんで優雅にお辞儀をし、リリーナさんは去っていった。最後だけは年相応に楽しそうに見えた。

 結局なんだったんだろうか?


 リリーナさんからは人の上に立つ者としての圧を強く感じる。オレに流れる農民の血か、会社で下っ端だったせいか、無意識的に上位者だと感じてしまっているリリーナさんの頼みは、つい聞いてしましそうになる。なので、リリーナさんとの会話は気を使う必要があって疲れるのだ。

 ……ジルさんのところに向かうとしよう。


 案内されたジルさんの執務室に入る。


「いらっしゃいませ。おや?少し疲れた顔をしていますね?」


「いえ、入り口でリリーナさんとお会いしまして。少しお話していました」


 ジルさんにさっきの出来事を伝える。


「はははは。そうでしたか、我が商会長がご迷惑をお掛けしました。ですが、仲の良いことでなによりです」


「はあ」


 さっきのやり取りに仲が良い要素があったのだろうか?


 釈然としないまま仕事をこなした。あとは実際に使ってもらって様子を見て、細かい設定を調整するとしよう。


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よろしければこちらもどうぞ! 『お米が食べたい』シリーズ作品

〇コーサクの過去編 : 『ある爆弾魔の放浪記』  

〇ルヴィ視点の物語 : 『狩人ルヴィの故郷復興記』

シリーズ外作品 〇短編 : 光闇の女神と男子高校生な勇者たち
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