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異世界でもお米が食べたい  作者: 善鬼
第5章  海洋魔境_異郷奔走編
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信頼を得る方法

 (おさ)がいるという建物に入り、玄関で靴の汚れを落として進む。通されたのは広い部屋。

 集会用に使われているのだろうか。板張りの床には、毛皮を加工した1人用の敷物がいくつも並んでいる。


 部屋の中は陽が差し込んで明るく照らされていた。木枠の窓には荒いガラスのようなものが挟まっている。

 目を凝らすと、巨大な虫の羽のように見えた。付近には、飛ぶ虫型の魔物が生息しているのだろうか。


 ……ここの主要食材に虫肉が入っていないことを祈りたい。


 美味いとか、美味くないとか以前に、虫は食品カテゴリに入っていないのだ。


 脳裏に浮かんだグロい料理を振り払いつつ、室内の観察を続ける。


 壁際には魔物の牙や角が飾られている。大きさから上級の魔物の物もありそうだ。この島は、大型の魔物が生息できるくらいには広いのだろう。


 そして、部屋の中央に目を向ける。


 そこには、一人の老人が胡坐をかいて座っていた。老いてなお、その体は分厚い。髪も髭も白くなった顔を中で、琥珀のような目が光っている。この人が長だろう。


 オレ達8人が部屋に入ったことを確認して、長が重々しく口を開く。


「座れ」


 顎でしゃくられたのは、床にある毛皮の敷物。


「失礼する」


 カルロスさんが、長の真ん前の敷物に腰を下ろした。オレ達も思い思いに座っていく。


 オレ達をじっと見つめていたグルガーさんも、長の隣にどかりと座った。2人とも眼光が鋭いので威圧感がある。

 長とグルガーさんは、目元がそっくりだった。確かな血の繋がりを感じる。親子にしては歳が離れているように見える。孫なんだろうか。


 部屋の中で座っていないのは2人。オレ達の後ろ、入り口のところに2人立ったままだ。警戒はされているようだ。まあ、そのくらいは当然だろう。


 全員が座ったのを確認した長が、カルロスを睨み付けるように見つめて声を上げる。


「この村に何しに来た」


 ……あまり歓迎されていないような感じだ。機嫌が悪そうに見える。


 そんな威圧的な状況を気にもかけていないように、カルロスさんは話し出した。


「私の名はカルロスだ。よろしく頼む、長殿。我々はこの村を目指して来た訳ではない。海を越えた結果、ここに辿り着いたのだ。あなた達に危害を加えるつもりは一切ない」


 カルロスさんの言葉に、長は視線を鋭くした。嘘は許さんと、その目が語っている。


「なにもする気はねえと?」


「ああ、この住人を傷付けることはないと約束しよう。だが、取引はさせてもらいたい。物と物の交換だ」


 長が鼻に皺を寄せた。ここには商売の概念があるのだろうか。


「……この村に、欲しいものでもあんのか」


 理解はしてくれたようだ。その上で、不信感がマシマシである。


「それを含めて話し合いをさせてもらいたい。我々が持って来た荷物に、貴方達の役に立ちそうな品もある」


 パッと思い浮かぶのは魔道具だな。この里ではまだ見ていない。魔道具はあれば便利だ。オレが保証しよう。

 一回使ったら手放せなくなるよ。


 だが、長の答えは否だった。


「無理だな」


 鋭く光る目が、カルロスさんを睨み付ける。小型の魔物なら、その視線だけで追っ払えそうだ。横から見ていても怖い。


「余所者は信じられねえ」


 手厳しい。だけど事実か。長は村を守る立場だ。急に現れた怪しい者達を簡単に受け入れる訳にはいかないのだろう。


 だけど、カルロさんは引くつもりがないようだ。


「では、信頼を得る方法を教えてもらえないだろうか」


 隻眼の顔に揺るぎない笑みを浮かべて、カルロスさんが提案する。


 長はしばらくその変わることのない笑みを睨み付けてから口を開いた。


「……なら、――を追い払ってみせろ。そしたら話を聞いてやる。グルガー。後はお前が仕切れ」


「ああ」


 聞いたことのない名詞が出た。追い払えということは、魔物だろうか。


 疑問を頭に浮かべていると、名指しされたグルガーさんが立ち上がった。


「来い。――の死体を見せてやる」


 それだけ言って、部屋の外へと歩いて行った。


 なんというか、長もグルガーさんも、言葉が少なすぎやしないか。もうちょっと説明が欲しいよ。




 とりあえず、グルガーさんに連れられて里の中を歩く。視線の多さは相変わらず。だけど、長の屋敷から出てきてからは警戒の眼差しは減った気がする。

 追い出されない程度には話ができると判断されたのだろうか。


 しばらく歩くと、広場のような場所に着いた。なんか祭壇っぽいものが中央に設置されている。


 そして、その広場の隅に何かの死体が置いてあった。


「トカゲ……?」


 トカゲ。トカゲだ。黒に近い色をしているが、トカゲだろう。当然のように魔物だ。3メートルくらいある。

 これはもう恐竜と呼んだ方がいいかもしれない。顔面の凶悪さがヤバい。


 そのトカゲの前に立ったグルガーさんが一言だけ喋った。


「走竜だ」


 とりあえず、名前と姿は一致した。それで、どうすればいいのだろうか?


 ちょっと困っていると、リコが近寄ってきた。


「最近、湿地の方で増えてるのよね。見つけたら狩ってるけど、逃げ足速いのよ、コイツら」


 確かに、ぬかるんだ地面だと走り辛いよな。四足歩行の方が有利か。


「なんでも食べちゃうから、地龍様への捧げものができなくて困ってたのよね」


 雑食なの? このトカゲ。というか、地龍? 地の龍?


「え、龍とかいるの? この辺に?」


「いるわよ? 村を出て、ずうっと向こう。地龍様に捧げものを持っていくのが、長の役目なのよ?」


 びっくり。よく分からん風習が出て来た。すげえな、長。そりゃ眼光も鋭くなるわ。龍の前に立つなんて、普通の人じゃ無理だぞ。

 魔力が濃すぎて、意識を保つのもやっとじゃないか?


「長、すごいな……。ええと、捧げものって何を持っていくの?」


 龍って食事いらないんじゃなかった?


「魚とか、野草とか、いろいろ? ちょうど、あそこに置いてあるわよ」


 リコが指を指した先は、広場の中央にある祭壇だ。確かに、色々な物が置いてある。


 干した魚と肉。何かの葉。萎れた木の実。茶色い粒。赤い小さな果物。地龍はこれを食べるんだろうか。


「…………ん? あれ?」


 何か、凄まじい既視感が頭を刺した。茶色い、粒?


 思わず二度見する。











 あれ、お米じゃね?


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