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異世界でもお米が食べたい  作者: 善鬼
第5章  海洋魔境_異郷奔走編
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 揺れる甲板の上で目を閉じる。太陽の光は温かいのに手足が冷たい。


 体が震える。感じる強大な魔力と責任重大な役割に、恐怖と緊張が足元から上がってくる。


 その怯えを吐き出して、自分のリズムを取り戻すように深呼吸をする。


「ふう~……」


 目を開ける。視界いっぱいの深く青い海。その上で、6隻の船が揺れていた。オレが乗る船を中心に、5隻の船が囲んでいる。互いの距離はかなり近い。


 太陽の光を反射する海面は見通せないが、その先に、確実に管理者たる鯨がいるのが分かる。その非常識な魔力を感じる。


「コーサク、準備はいいか?」


 話し掛けてきたのはカルロスさん。その隻眼には、オレへの期待が浮かんでいる。

 その問いに、少しの強がりを含んだ笑みで答える。


「ええ、大丈夫です。いつでもいいですよ」


 いつだって、やれることをやるだけだ。


 オレの答えに、カルロスさんは不敵に笑う。


「そうか。それなら進むとしよう。ガイ!結界を張れ!」


「了解!」


 カルロスさんの指示に船の技師が応える。数瞬後に、オレの感覚が魔力を捉えた。船の中心に設置された、特級の魔石が唸りを上げる。


 魔力が走る。周りを囲む5隻へと魔力の経路が繋がる。各船に搭載された魔道具たちが、お互いに連結される。

 もし魔力が可視化できれば、その姿は五芒星に見えるだろう。


 そして、繋がった魔道具たちが、その機能を発揮する。


 魔力による壁が、集合した船たちを包み込む。出来上がったそれは、オレ的に名付けるのなら『六連結防壁:船用結界』だろうか。


 その結界の完成を確認したカルロスさんが、大きく息を吸い込んだ。


「全船、前進!!誰も見たことがない場所に、俺たちが一番乗りだ!!行くぞぉ!!」


「「「「「おうっ!!」」」」」


 6隻の船が走り出す。未踏の地へ向けて、脇目も振らずに突き進む。


 船に乗っている全員が、楽しそうに笑っていた。誰も彼もが無邪気な笑みだ。


「なあ、コーサク。俺の船の奴らは、いい馬鹿ばかりだろう?」


 唇を吊り上げて、カルロスさんが嬉しそうに笑う。ここでは馬鹿が褒め言葉らしい。


「はは、そうですね。頼もしい限りですよ」


 ああ、本心だ。夢を追う者たちは、素晴らしい馬鹿である。


 そして、オレも馬鹿だ。知っている。ずっと分かっている。それでも、止まれないのだから救えない。


 開き直った思考に、自然と笑みがこぼれる。さあ、オレの仕事をしよう。


 ――ボム、起きろ。オレ達の出番だ。


 オレの声に、魔核に眠る精霊が応える。


『おはよう。僕の宿主よ。ふふふ。今日も君の感情は心地良いねえ』


 オレの精霊もご機嫌のようだ。何よりである。


 ふわりと、ボムが姿を現す。オレだけに見る魔力の歪んだ人型。衝撃を押し込んだような異形だ。


 そして、ボムが姿を現すと同時に、海底から上昇してくる魔力を感じた。


『来たねえ』


 龍種と同等の魔力を持つ巨体が海面を目指して上がってくる。膨大な量の海水を押し退けて、だ。


「カルロスさん、来ます!」


「総員、揺れに備えろ!!落ちるなよ!!」


「「「「「おうっ!!」」」」」


 カルロスさんの指示により、全員が揺れに備える。


 そして、その巨体が姿を見せた。


 前方の海面が一瞬黒く染まり、爆発したように割れた。火山の噴火のような勢いで、膨大な水が弾き飛ぶ。


 現れた余波だけで、見上げる程の大波が発生した。壁のような波が、船を守る結界へと押し寄せる。


「ぐ……っ!」


 水の重い衝突音が響く。激しく揺れる船に、ひたすら手すりに摑まることしかできない。


 無理矢理顔を上げれば、頭上の結界の上を流れていく大量の海水が見えた。その光景に顔が引き攣る。


「もうちょっと、気を遣って登場して欲しいもんだ……!」


 絶対的な強者に、オレらの気持ちは分かんねえんだろうけどなあ!


 ぐわんぐわんと揺れる船の上で何とかバランスを取り、出現した相手を見る。


 デカい。黒い。馬鹿デカい。


 小山のような頭部を海上に出し、悠々とこちらを観察している。小さ目の船くらいある黒い目に、背中がぞわぞわする。

 ちょっと、いや、かなり怖い。目、デカくね?


『うん。やっぱり管理者だね。話は出来るよ』


 オレの内心に関係なく、ボムが話し掛けてくる。この恐怖心は伝わっていないらしい。


 いや、まあ、怖くても行くんですけど。


「ふうう……。よし!カルロスさん、行って来ます!」


「ああ、頼んだ」


 カルロスさんは、揺れる船の上で仁王立ちだ。かっけえ。


 さて、行くとしよう。カルロスさんの信頼に応えよう。そのために、船の舳先へと歩きつつ、魔道具を起動する。


「魔道具使うの久しぶりだなあ。『防壁』展開っと」


 燃料用の魔石から魔力を引き出して、半透明な足場が空中に生まれる。


 舳先から、その足場に飛び乗る。あとはこのまま空を進むだけだ。


「じゃあ、ボム。行くか」


『そうだね』


 そうして、オレは魔力の足場の上を走り出した。


 たまに風に押されつつ、空中を駆ける。傍目にはオレ1人。オレの主観ではボムと2人。1人じゃなくて良かったと思う。


 1人だと心細過ぎるくらいに、目の前の鯨の魔力は膨大だ。これだと、他の人は近づくのも辛いだろう。

 濃すぎる魔力に調子を崩すと思う。


 ボートで来なくて良かったな。たぶん、漕ぐ人が倒れてた。単身で出て来て正解だ。


 少しずつ、黒い巨体が近づく。


 それにしても、迫力がすごい。体の大部分は海の中なので良く分からないが、全長1キロメートルとかありそう。

 やばい。存在感が半端ない。


「悪龍とは比べ物にならないな……」


『あの龍は意識がなかったからね』


 そういうものらしい。悪龍は魔力こそ多かったが、動きは鈍いし、知性も感じなかった。


 だけど、目の前の鯨は違う。その巨大な瞳には、確かに知性の輝きが見える。


 戦った場合、勝てそうな気がしない。海に潜られた時点でどうしようもないし。


 そんなことを考えている内に、鯨の前に着いた。具体的に言うと、その馬鹿デカい黒い目の前まで来た。


 さて、自分よりデカい目に見つめらたら、どう感じると思う?


「めっちゃ怖え……」


 超怖え。オレの生き物としての本能が、やめとけよって騒いでいる。さっきから、鳥肌が止まらない。

 足、ガクガクなんだけど。


 そんなオレに構わずに、ボムが呑気に手を振り始めた。


『やあ、こんにちは。元気~?』


 フレンドリー……。え、大丈夫?こちらの方、超年上じゃない?ため口でOK?


 ボムの言葉に、鯨の瞳孔が細かく動いた。そして、触れられそうな程の魔力が吹き付ける。

 自然と顔が引き攣った。これ、怒ってない?


『良く来たな、若き精霊とその宿主よ。だって。怒ってないよ』


 セーフ……?なら、大丈夫か。ボム、ここを通っていいか聞いてくれ。


『分かった。ねえ、向こうの陸地に行きたいんだけど、通ってもいいかい?』


 再び魔力が吹く。これで駄目だって言われたら帰るしかないんだけど。果たしてどうなるか。


『うん、ふんふんふん。分かった』


 顔も表情も見えないが、ボムが頷いている。何て?


『我は管理者。ただ世界の均衡を保つのみ。姿を見せたのは、海を往く者への興味のためだ。人が星の子として在る限り、我が危害を加えることはない。己が生を謳歌するといい。だって』


「あ~……通っていいってことだよな?」


『そうだね』


 通行の許可は貰えた。でも、危害を加えないって言われても、船は沈んでるんだけど。もう、スケールが違う感じ?体を動かしたら勝手に沈んだみたいな認識なの?


『うん、分かった。じゃあね』


 鯨に向かって、ボムが再び手を振る。


「何だって?」


『帰るって』


 そのボムの言葉と同時に、巨体が動き出した。急な動きに風が巻き起こる。


 そして、当然、巨体が潜り始めれば波が立つ。出て来た時よりはマシだが、それでも大きな波が発生した。


 まだ、オレが近くにいるのに。


「もう少し気を遣ってくれよ!『防壁:結界』!」


 沈んでいく巨体と、襲ってくる波に向かって叫ぶ。結界が展開した瞬間に、大波がぶつかってきた。


 結界が軋む。ガンガン減っていく魔石の魔力に、冷や汗が止まらない。


『お~、すごいねえ』


 まるで海の中にいるような光景に、ボムが呑気に声を上げる。残念ながら、オレにはそんな余裕はない。


 それでも、何とかなった。波は収まり、結界から海水が流れ落ちていく。水滴が太陽光を反射して眩しい。


「はあ~……緊張した。ボム、ありがとう」


『どういたしまして』


 鯨の姿はもう見えない。遥か海の底へ潜っている。もう、二度と合わないことを祈りたい。


 ……帰りに、また出て来たりしないよな?


 嫌な未来予想を振り払う。船の正体が分かったなら、もう来ないだろう。ただの興味だって言ってたし。


 さて、オレも船に戻るとしよう。




 行きと同じように、防壁の足場を走って戻ると、船は大盛り上がりだった。


 船に降りると、船員たちに囲まれて、体をバンバン叩かれる。


「すげえな、アンタ!!」

「良くやってくれた!!」

「これで陸まで行けるぜ!!」

「変な奴だと思ってて悪かったな!!」


「え、ちょ、いた、いや、本当に痛い」


 揉みくちゃにしてくるむさ苦しい男達の押し退けて、何とか離脱する。いや、マジでいてえ。

 背中赤くなってるよ、これ。


 そんな、体の痛みに悶えているオレの前に、カルロスさんが歩いて来た。


「コーサク、良くやってくれた」


「ええ、何とか。でも、たぶんオレがいなくても通れましたよ。ただ、こっちが気になっただけみたいなんで。大波の対策だけで行けたと思います」


 オレ、あんまりいらなかったな。


「はっはっは、何を言っているんだ」


 カルロスさんが笑う。


「“たぶん行ける”が“確実に行ける”になったんだ。それだけで、十分過ぎる働きに決まってる」


 片目を細めて、笑みを作る。男らしい笑みに、黒い眼帯が良く似合っていた。格好いいっすね。


「……なら、良かったです」


 オレの笑みを見届けて、カルロスさんが声を張る。


「総員、配置に着け!!全船、前進!!」


「「「「「おうっ!!」」」」」


 一つの生き物のように、船員たちが動き回る。当たり前のように船は進み始める。目指す先は、未踏の陸地。


 さて、いったい何があるだろうか。







 陸地が近づく。豊かな木々と、綺麗な砂浜が見える。当然ながら、港はない。


「全船、停止!!」


 かなり手前で船が止まる。帆は畳まれ、ジャラジャラと錨が降ろされた。


 あまり浅いところまで船で入ると、座礁して出られなくなるらしい。ここからはボートで陸まで行くとのことだ。


 カルロスさんが、その人選をしていた。その場所へ近づくと、隻眼と目が合う。


「コーサクは行くか?」


「ええ、もちろん。けっこう役に立ちますよ」


「それなら一緒に来い」


 カルロスさんに手招きされ、10人くらいが乗れるボートへ降りる。小さいので揺れが酷い。慌てて腰を下ろした。

 素人が突っ立っていても邪魔だろう。


 そして、オレの隣に来たのはカルロスさんだ。


「……カルロスさんも行くんですか?」


 何があるのか分からないのに。危なくない?


「当然だろう?」


 カルロスさんがニヤリと笑う。当然らしい。その隻眼には、純粋な好奇心が浮かんでいる。


「よし、行くぞ!」


 ボートが進む。乗っているのは8人だ。まずは様子見である。


 4人の船員たちが、ボートを漕ぐ。強化した腕力により、ボートは勢いよく陸に向かって進んで行った。




 10分ほどで陸地に到着。ボートは砂浜に押し上げて、流されないようにした。当然、オレ以外の人が。


 8人で砂浜を歩く。柔らかい砂に顔を出している貝殻は、見たことがないものが多い。


 目線を上げれば、砂浜の奥には濃い森林。見た感じ、何もいないように見える。ああ、見た目だけは(・・・・・・)


「あ~、カルロスさん。何かいます」


「そうか。魔物か?」


 オレたちを窺う魔力に集中する。この感じは、魔物じゃなくて――


 ヒュンッ、と何かが飛んでくる。オレ達の前方の砂に、乾いた音を立てて突き刺さったのは。


「矢ですね……」


「矢だな」


 どう見ても矢だ。


 オレ達がその矢を見たのと同時に、魔力が動く。そして、木々の後ろから、ぞろぞろと顔を出したのは。


「原住民の方ですかねえ」


「そのようだ」


 何だかカラフルな衣装を身に纏った方々だ。30人くらい?手には剣とか槍。あと弓。だいぶ警戒されている。


 その内の1人、一番大きな魔力を持っている人が前に出てきた。ゴツい男の人だ。強そう。その人が口を開く。


「――!――――!――!」


 何語かなあ、これ。


「……コーサク、何て言ったか分かるか?」


「いえ、すみません。分からないです。でも、こういうときは、言葉が分からなくても、敵意がないことを頑張って伝えるもんじゃないですか?オレは昔そうしました」


 ルヴィに初めて会ったときとか。


「そうか……。それなら、やってみるとしよう」


 カルロスさんが、両手を上げて口を開く。


「あ~、俺たちに戦う意思はない。どうか冷静に話を聞いてくれ」


「――!」


 ヒュン、ドス。


 再び足元に刺さる矢。カルロスさんの隻眼がオレを見る。


「……駄目なときもあります」


「……それはそうだろうな」


 諦めて、全員で黙って両手を上げることにした。


 さて、どうなるんだろうか。


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〇コーサクの過去編 : 『ある爆弾魔の放浪記』  

〇ルヴィ視点の物語 : 『狩人ルヴィの故郷復興記』

シリーズ外作品 〇短編 : 光闇の女神と男子高校生な勇者たち
― 新着の感想 ―
[一言] 様子→様子見じゃ? (最後の方
[良い点] 未知の島、大陸?原住民もいるし大陸なら歴史的大発見!? 今度こそお米は食べられるのか! [気になる点] 続きです(^-^) [一言] この陸地が新大陸ならカルロスさん歴史に名を残すレベルの…
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