閑話 狩人の奮闘
ルヴィ視点です。
村を復興する。コーサクにはそう言ったが、やるべきことが山積みだ。
まず、第一に人手が必要だ。さすがに俺一人では手が回らない。魔物に潰された家の建て直しに、畑作りにと、専門的な知識を持った人間がいる。
村の復興に関して、狩人の俺に出来ることはそう多くない。これまでの反省をいかして、村の防衛を強化するくらいだ。
周囲の魔物を狩っているだけでは、村の復興は進まない。
そして、第二に、村への移住者が必要だ。いくら家を建てても、住む人間がいないとどうしようもない。
できれば、移住を望む人間が専門的な知識を持っていればいいのだが、そうそう上手くはいかないだろう。
第三は金だ。人を雇うにも、資材を買うにも金がかかる。畑ができるまでは、食べるものも買わなければならない。
考えれば考えるほどに金は必要だ。
第四は、知識か。俺には学がない。文字も簡単な単語を繋げられるくらいだ。これもどうにかする必要がある。
「先が長い……」
実際困っている。今更になって、村長の苦労が身にしみて分かった。
「ふう、ギルドに行くか」
とりあえず、今は冒険者として活動している。金を貯めるためと、伝手を作るためだ。引退間際の冒険者は、定住する場所を探していることも多い。
だから、森での偵察役として顔を売りつつ、村へ来てくれそうな人を探している。
今日も働きに行くとしよう。
夕方。家へと向かって歩く。今日は収穫がほとんどなかった。潰れた村をこれから立て直すと聞いて、首を縦に振る人間はそういない。
最後まで話を聞いてもらえただけでも良い方だ。
溜息を吐きながら歩き、家に着いた。コーサクから譲ってもらった家だ。
家に入り、軽く汚れを落とす。そして、足を進める先は台所だ。
コーサクが俺にくれた物は3つ。1つはこの家。2つ目はいくつかの魔道具。そして、3つ目は、料理のレシピだ。
魔道具は、村の復興作業や生活に必要な物だった。買うとなれば、それなりの値になる。実際に作業を始めれば、とても役に立つはずだ。
料理のレシピは、あの村の料理の作り方を、コーサクが覚えている限り書いてくれたものだ。
かつての懐かしい料理が並んでいる。
そのレシピを読みながら、見よう見まねで夕食を作る。出来上がったものを味見するが、パルメさんやコーサクが作ったものとは程遠い味だ。
レシピの文字を理解しきれていないのと、元々料理が得意ではないのが原因だと思う。
その、ふた味ほど足りない料理を食べながら、これからのことを考える。
コーサクは、そのうち家族を連れて村に顔を出すと言っていた。あいつのことだ。本当に来るつもりなのだろう。
まだ子供は産まれていないとも言っていた。来るとすれば、ある程度子供が大きくなってから。数年は後のはずだ。
それまでに、村を形にすることを目標にする。
コーサクの前で宣言した通り、俺は村を復興する。そう決めて、夕食の残り一切れを口に放り込んだ。
翌日も冒険者ギルドへ行くために家を出る。だが、その日はいつもと違った。
「……なんだ?」
道端に誰か倒れている。小さく細い体。子供だろうか。服はそれなりに良いものに見える。
うつ伏せなので顔は見えないが、狩人としての感覚が、生きていることを知らせてくる。
少しだけ警戒しながら近づき、声を掛けた。病人だったら、治療院に連れて行かなければならない。
「おい、大丈夫か?」
「……た」
小さく声がした。意識はあるようだ。膝を付いて、耳を澄ませる。
「おなか……すきました」
……少なくとも、病人ではないようだ。
目の前に、俺の昼飯用のパンを頬張る行き倒れがいる。
「むぐ、むぐ」
いつから食べていなかったのか、パンはあっという間に小さな口の中に消えていく。
「水、飲むか?」
「むぐ!む、ん。ありがとうございます!」
ごぐごぐと音を立てて水筒の水を飲むその喉は、白く細い。
「ぷは、ありがとうございました。もう2日も何も食べてなくて」
無防備に笑うその顔は小さい。髪は短く切り揃えられ、身に纏っているのは男物の服だ。
「ああー……一応、何で倒れていたか聞いてもいいか?」
他でまた倒れられても困る。
「え~と、はい」
その高い声が少し暗くなる。
「え、と。僕は帝都に働きに来たのですが、あの、着いたら働き先がなくなってて……」
「ああ」
新しい皇帝になってから、不正を働いていた貴族や、大商人が次々と罰を受けるようになった。
潰れた店も多い。働き先は、その内の1つだったのだろう。
新しい皇帝によって、あの村周辺を治めていた領主も変わることになった。俺の復讐の相手はもういない。影響は大きいが、良いことではあるのだと思う。
「それで、その、住み込みで働かせてもらえるはずだったので、お金もあまり持ってなくてですね。宿も取れずに、空腹で倒れていたところを、貴方が助けてくれました。ありがとうございます。パン、美味しかったです」
「……どういたしまして」
俺がパンを食わせたところで、問題は何も解決していないが……。
「これからどうするんだ?」
「え~と、とりあえず、雇ってもらえるところを探してみようと思います。これでも、読み書きは得意なのです」
それだと、仕事先が見つかるまで何も食えないだろう。
そのことを口にしようとしたとき、別の音が俺の声を遮った。
くううぅぅ。
目の前の人物が、バッと腹を押さえる。
「あ、あはは……」
……どうやら、パンだけでは足りなかったようだ。
その姿に、コーサクのことを思い出した。あいつも、最初に会ったときは、急に腹を鳴らしたものだ。
何だか急におかしくなった。笑いがこみ上げてくる。
「ぷ、はははは!」
腹の底から笑ったのはいつ以来だろうか。
「ははは、はあ。そうだな。飯、おごってやるよ」
「はい?」
不思議そうに首を傾げる姿に、更に言葉を重ねる。
「ちょうど、読み書きを教えてくれる人を探してたんだ。飯を食いながら、少し話を聞いてくれよ」
「え、あ、はい!」
飯に釣られたのか、仕事の気配を感じたのか、元気の良い返事だ。
「ああ、俺はルヴィだ。よろしく」
「僕はエミリー……じゃなかった、エミリオです!よろしくお願いします!」
エミリオを連れて飯屋に移動する。
それにしても、華奢な身体、高い声、骨格と、どう見ても男のふりをする少女なのだが、指摘してもいいんだろうか。




