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異世界でもお米が食べたい  作者: 善鬼
第4章  帝国未踏域_悪龍討伐編
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永久の誓い

 この世界の結婚用の礼装は、基本的に白だ。そこに、自分の適性に対応した色を入れるらしい。知らなかった。


 地属性のロゼは、白のドレスに金糸での刺繍がされているのだとか。どんな感じになっているだろうか。とても気になる。


 そして、問題になったのはオレの適性に対応する色だ。適性とは精霊との親和性。爆破の精霊は新しく生まれたばかり。適性を持つのはオレだけだ。

 もちろん、対応する色はまだ決まっていない。


 そこで、お針子さん達に爆破の魔術を見せたり、色々と話し合った結果、オレの色は暗い赤になった。

 赤銅色というらしい。暗いのに艶があるような不思議な感じだ。あまり見たことがない。


 ただ、白と暗い赤が合うのかどうか、少し不安だったのだが、そこはさすが本職の方々、完成した礼装は、とても恰好いいものに仕上がっていた。


 問題はむしろ、オレが着こなせるかどうかだ。衣装に負けそう。きっちりとした白が似合う日本人って少なくない?


「せめて、ロゼの隣に立っても見劣りにしませんように……」


 家の寝室でポツリと呟く。まあ、見た目はロゼの圧勝だと思うけど。


 貿易都市に帰ってきて、もう2週間ほどが経過した。現在の時間帯は夜。寝る直前だ。


「どうかしたのか?」


 隣にいたロゼが、オレの呟きに反応する。内容までは聞き取れなかったようだ。


「いや、明日の式は緊張するなあ、って思って」


「ふふふ。確かに。私も少し胸が高鳴っているな」


 ロゼは嬉しそうに笑っている。


 この2週間は慌ただしく過ぎて行った。礼装を作ったり、結婚の諸々の準備をしたり、溜まっていた仕事をこなしたりであっという間だ。


 明日はもう儀式の当日だ。


「寝ようか。明日は早いし」


「ああ、そうだな。おやすみ、コウ」


「うん。おやすみ、ロゼ」


 ふわふわとした感覚を抱えたまま、ロゼと一緒に眠る。明日は忙しい。





 翌朝。ロゼと2人で家を出る。向かう先は孤児院だ。ギルバートさんとアリシアさんが場所を貸してくれることになった。

 子供達も、昨日から会場の準備を手伝ってくれている。


 2人で、春に近づいた陽気の中を歩く。孤児院の前まで来ると、いつもよりも賑やかだ。ざわざわと様々な行動音が聞こえてくる。


「もう準備は始まってるみたいだね」


「そのようだ。私達も急ぐとしよう」


 敷地内に足を踏み入れる。


 少し進むと、建物の中で指揮を執っていたアリシアさんがオレ達2人に気付いた。手招きされる。近くには、娘のイルシアもいた。


「来たわね2人とも。早く着替えるわよ。イルシア、ロゼッタちゃんの準備を手伝ってね」


「うん!」


 ちゃんと返事をする間もなく背中を押されて移動する。力が強い。


「リックー!ちょっと来てちょうだーい!」


 オレを押しながら、アリシアさんが声を上げる。その声にリックが文字通り飛んできた。


「来たよ!」


「コーサク君の準備を手伝ってあげて」


「分かった!コーサクさん、こっちっす!」


 リックに部屋に案内される。ロゼとは少しの間お別れだ。


「じゃあ、ロゼ。また」


「ふふふ。ああ、また」


 オレに割り当てられた部屋に入る。そう広くはないが、男1人が着替えるなら十分だ。

 リックに手伝ってもらいながら着替えをする。オレ専用に作った礼装は、身体にぴったりすぎて、1人では着難いのだ。


「ありがとう、リック」


「いえいえっす」


 礼装に身を包み、髪を整える。そう時間は掛からずに、オレの準備は終わった。


「……動き辛い」


 礼装が体を締め付けてくる。高級な肌触りの良い生地は、大きく動いたら破けてしまいそうだ。


「これ着てる間は戦えないね」


「新郎が戦う場面はないっすよ!」


 オレの言葉に、リックが笑いながら突っ込む。常に戦えるような体勢でいるのは、オレの癖みたいなものだ。

 いつも身に着けている魔道具達も外してしまったので、何だか落ち着かない。


「じゃあ、コーサクさん。自分は準備に戻るっす!」


「了解。ありがとう」


 そう言って、リックは慌ただしく出て行った。残されたオレは暇だ。準備を手伝いたかったのだが、昨日の時点で却下されてしまった。


 ロゼと比べて、オレの準備はすぐに終わるのだから、料理の手伝いくらいはしたかったのだが。

 みんなで料理をしているのに、自分が参加していないのは、何だか変な感じがする。


 落ち着かない緊張感に耐えながら、式の動きを思い描いていると、急に部屋の扉が開いた。扉から顔を出したのはガルガン親方だ。


「おう、コーサク。着替えは終わったみてえだな」


「親方、おはようございます。見ての通りですよ」


「はは、中々似合ってるじゃねえか」


 親方が、部屋に置いてあった椅子にどかりと座る。


「酒が入る前に顔を出しておこうと思ってな。酔ってちゃ、祝いの言葉も出せねえからな。先に言っておくぜ、おめでとう」


 親方の言葉に胸が熱くなる。


「ありがとうございます」


「俺は、お前に身を固めるつもりはねえもんだと思ってた。まあ、色々あったんだろうがよ。詳しくは聞かねえ。目出てえもんには変わりねえからよ。頑張れよ、コーサク」


「はい、もちろんです」


 頑張るのは既に決めている。オレはこの命を懸けても、家族を守ってみせる。


「しかし、俺も呼ばれるとは思ってもみなかったぜ」


「ははは。オレもロゼも、呼べる家族はいませんからね」


 貿易都市周辺での結婚の儀式は、普通は身内だけで行われる。血の繋がりのない者は、ほとんど招待しないのが基本だ。


 他国の貴族達は大々的に行うし、小さな村であれば村全体で祝うみたいだけど。


 オレもロゼも、呼べる家族はいない。オレの家族はあっちの世界だし、ロゼは家から出ている。デュークさんを呼ぶ訳にもいかない。


 そんな状況なので、ロゼと話し合った結果、お世話になった人達を呼ぶことにしたのだ。ギルバートさんとアリシアさんも賛成してくれた。

 とても賑やかな式になると思う。


 さて、親方にはお礼をしなければならない。


「親方、オレたちの指輪の件、どうもありがとうございました」


 式でお互いに渡す指輪は、親方が作ってくれた。かなり力を入れてくれたらしい。


「おう。いい仕上がりだからな。長く使えよ。翼竜に踏まれても壊れねえぜ」


「ありがとうございます。ちゃんと気を付けて使いますよ」


 オレもロゼも戦う身だ。それを踏まえて親方が作ってくれた指輪は、余計な装飾がほとんどない。

 緻密な模様が彫られた、細くも頑丈な逸品だ。貴重な鉱石が使用されているらしい。親方は詳しくは教えてくれなかったけど。

 結婚の祝いだということで、親方がただで作ってくれたので、値段も知らないのだ。実はかなり高価なものなのではないかと、少しビクビクしている。


「んじゃあ、俺は戻るぜ。その内ギルバートが呼びに来るだろうよ」


 親方が腰を上げ、部屋を出て行く。


 再び1人になった部屋で目を閉じる。聞こえるざわめきに意識を溶かしながら、次に扉が開くときを待った。




 扉が開く音に目を開ける。


「コーサク、いるか」


 入ってきたのはギルバートさんだ。礼服をきっちと着こみ、髪を固めている。その服装と、迫力のある人相により、裏の組織のトップのような存在感がある。強そう。


「こっちの準備は出来た。段取りは憶えているか?」


「ええ、大丈夫ですよ」


 オレがしなければならないことは、そう多くない。内容は昨日までに頭に入れている。緊張はしているが、まあ、たぶん大丈夫だ。

 魔物と戦うことに比べれば、命の懸かっていない状況は楽なものだ。


「よし。なら行くぞ」


「はい」


 ギルバートさんに先導されて部屋を出る。聞こえるざわめきが大きくなった。もう盛り上がっているようだ。


 向かう先は中庭だ。招待した人数が多いので、会場は屋外である。


 中庭に出る手前でギルバートさんが立ち止まる。


「少し待て。もうすぐアリシアが連れてくる」


「分かりました」


 足を止める。目の前には中庭に繋がる扉がある。その閉じた扉の隙間からは、外の光と、聞き覚えのある声たちが入ってくる。


 細い光の中に舞う埃たちをぼんやりと眺めていると、背後から数人分の足音がした。

 その気配に振り返る。


 ロゼが、そこにいた。


 白いドレスに身を包み、こちらに歩いてくる。

 ようやく見ることができた白いドレスは、金糸で複雑な刺繍がされている。植物のような、舞う風のような、温かさのある模様だ。


「――」


 顔には薄く化粧がされている。薄紅色に染まった頬と、鮮やかな唇に目が引き寄せられた。

 赤みのある金色の髪は、冠のように編み上げられている。


 目が離せなかった。いつもよりも魅力的なその姿に声も出ない。


「ふふふ。コウ、似合っているぞ」


 いつの間にか至近距離にいたロゼの唇が開く。


「あ、ああ、うん、ええと……」


 微笑みを浮かべた顔に意識が引っ張られる。頭と舌が上手く回らない。


「……ロゼも、綺麗だ」


「ふふ、ありがとう」


 もっと言葉を重ねたかったのに、上手い褒め言葉が出てこない。さっきまで、魔物と戦うのに比べれば楽だと嘯いていた自分はどこに行ったのか。


 それでも、オレの下手くそな褒め言葉に、ロゼは幸せそうに笑ってくれた。


 そんなオレ達の様子を見ていたギルバートさんが声を上げた。


「よし。2人とも、行くぞ」


「は、はい」


「はい」


 平常心と冷静さを無理やり搔き集めて、返事をする。この先で無様な姿は晒せない。


 ギルバートさんが一つ頷いて、中庭に続く扉に手を掛ける。そのまま、扉を開け放った。


 眩い光が目を焼く。数度瞬きして、ようやく目が慣れる。陽の光が当たる中庭には、料理が並んだテーブルが配置され、見知った人々が談笑していた。


 歩き出したギルバートさんの後を、ロゼと並んで歩く。外に出ると、暖かい陽の光が体を包んだ。


 姿を見せたオレ達に、参列した人々が声を上げる。


「2人ともおめでとー!!」

「おめでとうございます!!」

「おねえちゃんきれー!!」

「があっはっはっは!!」

「おー!!」


 左右から祝福の声を浴びながら、中庭を進む。たまに聞こえる統一感のない叫び声に、いつの間にか頬は緩んでいた。


 軽く左右を見渡せば、既に空っぽになった酒瓶が数本見える。ペースが速い。もう酔っ払いがいるな。


 歓声の中をゆっくりと進みながら、ロゼに話し掛ける。


「賑やかだね」


「ふふふ。私はこの賑やかさが好きだぞ」


 チラリと見たロゼは、嬉しそうに目を細めて笑っている。


「オレも好きだよ」


「ふふ」


 お互いにだけ聞こえる声で話す。そうしている内に、中庭の中心に着いた。そこには、白テーブルクロスが引かれたテーブルが設置されている。

 その上には、同じく白い箱がある。開いた箱には、オレ達の指輪が見えていた。


 ギルバートさんはそのテーブルの向こうへ回り込み、オレとロゼは手前で立ち止まる。


 ギルバートさんが両手を上げて周囲を見渡す。ざわめきが収まる。風と鳥の声だけが聞こえるようになる。


 静寂の中で、ギルバートさんが厳かに言葉を発する。


「誓約の精霊の名の下に、ここに新たな契りを結ぶ」


 ギルバートさんがオレを見る。この世界において、結婚とは精霊への誓いだ。その身が果てようとも、共にいるという強い誓い。


「汝、爆破の精霊の加護を受けし者よ。永久の愛をここに誓うか」


「はい。誓います」


 ロゼの方へ視線が移る。


「汝、地の精霊の加護を受けし者よ。永久の愛をここに誓うか」


「はい。誓います」


 ロゼの綺麗な声が響く。


「ならば、その証を示せ」


 ギルバートさんが、オレ達2人の指輪を指す。


 細く深呼吸をする。少しうるさい心臓を鎮めて、箱からロゼの指輪を取り出す。


 微笑むロゼの左手を取り、その中指に指輪を嵌める。オレの手が少し震えていたのは、きっとロゼ以外には気付かれていない。


 ロゼは少しの間、指輪の嵌った左手を、目を細めて見つめていた。

 そして、ロゼの細い手が、オレの指輪を手に取る。


 ロゼに向かって左手を伸ばす。その指先に、金属の冷たい感触が通っていく。ぴったりと、オレの中指に指輪が嵌った。


 ――。


 微かに、何かの魔力を感じた。一瞬だけの淡い魔力。


 正体は分からない。ただ、誓いが成ったという確信だけが胸に残った。


 ロゼも感じたのだろうか、その目が少し見開かれている。


 ああ、そうだ。ロゼに伝えよう。

 新たに得た誓いが、心を動かす。実感を得た意思が言葉となって溢れる。この幸福を守りたい。


「……ロゼ。オレは、何があっても君達を守るよ。この命に懸けて」


 ロゼが微笑む。




「駄目だ」




 ――?


 予想外の言葉に思考が止まる。その間にロゼが一歩詰めて来る。そのまま、オレの顔へと手を伸ばす。


「守るのなら一緒に、だ」


 意思の籠った空色の瞳が、至近距離でオレを貫く。


「いや、でも……むぐっ!」


 唇を塞がれる。頭を抑えられて動けない。


 君を危険に晒したくない。そんな言葉は、口に出させてもくれなかった。


「「「――!!」」」


 歓声が爆発する。静寂は大音量に破られる。突然の接吻に、観客は大盛り上がりだ。


 それを意識の隅で聞きながら、視界いっぱいに映る愛する人を見る。


 その柔らかさを感じながら、この女性(ひと)には敵わないなあ、とオレは素直に目を閉じた。


第4章 完結


ここまで読んでいただけた皆さん、どうもありがとうございます。


これにて第4章は完結です。


少し閑話を挟んで5章に入ります。


では、また明日。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 昨日この作品を見つけて一気に読みました!4章完結お疲れ様です! 各章毎に主人公が地道に、精神的な成長と戦闘力を伸ばしていくのが読んでて面白かったです! 料理は素人なのでどうしても読み飛…
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