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異世界でもお米が食べたい  作者: 善鬼
第4章  帝国未踏域_悪龍討伐編
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挨拶回り

 ボムがくれた精霊の祝福の件で少し慌てたが、予定通り帰還の挨拶回りに出ることにした。


 それなりに歩くことになるので、オレ1人で出発だ。ロゼとタローは留守番である。


「じゃあ、いってきます」


「いってらっしゃい」


「わふ」


 ロゼとタローに見送られて家を出る。うん。いいな。見送ってくれる人がいるのは幸せなことだ。


 温かな感動を噛み締めながら石畳の道を歩く。見上げれば天候は曇り。それでも、寒さはかなり和らいでいる。

 流れてくる風にも身を切るような鋭さはない。貿易都市の短い冬は、もうすぐ終わりだろう。また春が来る。


「春になったら、山菜でも採りに行こうかな」


 旬の味覚だ。肉が苦手になったロゼも、野菜類なら食べられる。上手く料理することにしよう。

 タローは微妙な顔をするかもしれないけど。そこは、あとで新鮮な内臓でもあげることにする。


 色々と考えながら歩く。目指す先は都市の市場だ。


 最初に挨拶に行くのは孤児院の予定だ。アリシアさんにロゼがお世話になったお礼をしなければならない。

 その手土産を買いに行こうと思う。


 帝都で何か買えれば良かったけど、今この時代に、お土産に出来るような銘菓などはない。商人以外では、国を越えて移動する人はほとんどいないのだ。


 実用的なものを買うにしても、孤児院で使う分を考えればそれなりの量になる。

 オレの改造馬車は、積載量が多い訳ではない。それに、あまり買い過ぎると帝都を出るときに税金が酷いことになるのだ。


 オレは商人ではないので、盛大にふっかけられることになったはずだ。


 ……まあ、一番大きな理由はお金がなかったからだけど。帝都で使い過ぎた。必要経費だったけどな。


 さて、そんな訳で、お土産はこの都市で購入する必要がある。何を買っていけば喜ばれるだろうか。


「……肉?」


 肉か?


 別にアリシアさんが肉好きな訳ではない。肉が好きなのは、孤児院の子供達だ。子供達が好きな順番で言えば、一番、肉。二番、甘い物。三番、遊び道具。かな?


 アリシアさんは、子供達が喜ぶ姿を見て喜ぶ母性の塊みたいな人なので、お土産の対象も自然と子供達になる。


「そうなると、やっぱり肉か」


 手頃ないい肉は売ってるかな?


 お土産用の肉を求めて、オレは市場に向かって足を進めた。





 ずっしりとした重さを感じながら孤児院を目指して歩く。


「肉が、重い……」


 肉は無事に購入することができた。兎の魔物の肉だ。角兎じゃない種類。大兎と呼ばれる魔物のものだ。


 その名の通りデカい。通常の個体でも、大人になれば2メートルを超える。大きい個体になれば3メートルとかになったりする。実際に出会うと怖い。


 その肉は美味いが、巨体に似合わず逃げ足がとても速いので、中々市場に出回らない。今日買えたのは、とてもラッキーだった。


 これでみんな喜んでくれるだろう。いいお土産だと思う。


 ただ……重い。


「はあ、荷車持ってくればよかった……」


 少し前なら身体強化を発動して運べただろうが、今は厳しい。素の肉体性能のみで、キロ単位の肉を持ち歩く必要がある。重労働だ。


「……薄くなら、身体強化使えるかな」


 胸の奥に意識を向ける。薄く、うすーく、汲み出した魔力を全身に回す。


「……気持ち軽くなった?」


 身体強化は発動している。効果は……ないよりはマシ、という感じだ。


 これまでの基準で言えば、身体強化『微弱』というくらい?う~ん。微妙。


「まあ、いいか。行こう」


 魔核が治ってくれば、身体強化も使えるようになるだろう。


 少しだけ軽くなった足で、孤児院に向かって歩いた。



 息を上げながら歩き、孤児院の前まで着いた。中からは、子供達の元気な笑い声がする。


「さて、アリシアさんはいるかな」


 孤児院の敷地に足を踏み入れる。騒がしい気配のする中庭に向かって歩いていると、横から若い男女の声がした。


「コーサクさん!お久しぶりっす!」


「お久しぶりです!」


 視線をずらせば、そこにいたのはリックとイルシアだ。2人並んで、オレの方へ駆けてくる。久しぶりに会うが元気そうだ。仲も良さそうで何より。


「2人とも久しぶり……身長伸びた?」


 なんとなく大きくなった気がする。


「伸びたっすよ!」


「私も少しだけ」


「おお~」


 さすが成長期。少し見ない間に成長してる。顔も大人びて来ているようだ。いいことだね。


「ああ、リック。これお土産。大兎の肉。みんなで食べて」


 リックに肉を渡す。ようやくこの重さから解放だ。けっこう疲れた。


「本当っすか!ありがとうございます!みんな喜ぶっす!」


「コーサクさん、ありがとうございます!」


 喜んでもらえたなら何より。


「ロゼがお世話になったからね。そのお礼。アリシアさんはいる?」


「中庭にいるっすよ」


「一緒に行きましょう」


 3人並んで中庭まで歩く。オレの右にはイルシア。左にはリックだ。なんか挟まれた。

 丁度いいので、2人にもお礼を言っておこう。2人とも、色々とロゼを助けてくれたようなのだ。


「2人とも、オレのいない間、ロゼを気にかけてくれてありがとう」


「いえいえ、私はロゼッタさんと色々お話できて楽しかったですよ」


「他の子も喜んでたっす」


 両側の2人は楽しそうに笑っている。そっか。それなら良い。何だかオレまで嬉しくなる。

 それにしても。


「ロゼは人気者だね」


 オレは小さい子達にも呼び捨てにされて遊ばれてるのに。この差は何だろうか。


「ふふふ」


 内心首を傾げていると、右から笑い声がした。横を向くと、イルシアがアリシアさん譲りの青い髪を揺らして笑っている。

 楽しそうでなりよりだけど、何か笑うところあった?


「イルシア、どうかした?」


「いえ。コーサクさんがロゼッタさんのことを、ロゼって呼ぶの、いいなあって思っただけです。愛称で呼び合うのって素敵ですよね」


「そう?」


「……っ!」


 何かそう言われると少し恥ずかしい。それはそうと、イルシアの言葉に、オレの左を歩くリックがビクッ、と反応した。


 横目で見ると、少し顔が赤い。何で?


「ふふっ」


 オレの右ではイルシアが微笑みながら歩き、左ではリックが少しぎこちなく歩いている。


「んん?」


 よく分からない。オレのいない2ヶ月の間に、この2人に何かあったのだろうか。



 リックとイルシア、2人の仲の進展も気にはなるが、今日来た目的はアリシアさんへのお礼だ。

 オレがいない間に何があったかにはついては、後でリックを捕まえて聞き出そう。


 3人で中庭に入ると、オレ達に気付いた子供達がこちらを向く。視線が熱い。オレを見て、一瞬だけみんなの動きが止まる。


 近くにいたマルコが息を吸い込んだのが見えた。耳塞いでもいい?


「コーサクだー!!」

「生きてたー!!」

「ひさしぶりー!!」


 大音量。そして飛んでくる子供たち。身体強化できないからなあ。相手をしていたら、比喩表現じゃなく骨が折れそう。


 という訳で、オレから意識を逸らしてもらいたいと思う。短く息を吸って叫ぶ。


「リックがデカい肉を持ってるぞ!みんな見せてもらえ!」


「ええ!?」


 リックが隣で驚いた声を出す。うん、ごめん。そして、後はよろしく。


「おにくー!?」

「おおきいのー?」

「すげー!!」


「う、うわ、ちょっと!!」


 チビッ子たちがリックに向かって突撃する。これでよし。しばらく気は引けるだろう。今の内にアリシアさんの所へ行こう。


 子供達に囲まれるリックを置いて、アリシアさんの元へ足を進める。イルシアはリックの傍に残ったようだ。


 オレの視線の先では、アリシアさんが楽しそうに、オレと背後のリック達を眺めている。


「こんにちは、アリシアさん」


「ええ、こんにちは。無事に帰って来て良かったわ」


 アリシアさんが微笑む。


「はい。何とか。アリシアさん。オレのいない間、ロゼの手助けをしてくれてありがとうございました」


 お礼を言って頭を下げる。ロゼから聞いた話だと、とてもお世話になったようだ。


「ふふふ。ロゼッタちゃんに言ったけど、気にしなくいいわよ。私も楽しかったから。娘がもう1人増えたみたいだったわ」


 何の苦労もなかったように、アリシアさんが言う。その余裕が頼もしい。


「それでも、ありがとうございます。お土産に大兎の肉を持ってきたので、みんなで食べてください」


「ふふふ、ありがとう。それでみんな盛り上がっているのね?」


 背後をチラリと見ると、何人かの子供達が浮き上がっていた。リックの風の魔術だろう。楽しそうな歓声が聞こえる。平和だな。


「ああ、そうそう、コーサク君。うちの夫がコーサク君に用事があるそうよ。今日はもう少ししたら、ここに顔を出す予定だったから、少し待っていてくれるかしら?」


「ええ、はい。大丈夫です。待ちます」


 元々、ギルバートさんに会いにグラスト商会には顔を出すつもりだった。


 ギルバートさんの用事はあれかな。ロゼとの結婚の儀式の話かな?ギルバートさんには立会人をお願いしてるし。

 帰ってきたら、日程の調整をしようとも話していた。




 子供達の行動は、デカい塊肉を見るというものから、リックに飛ばしてもらうものへと移行している。楽しそうだ。


 その光景を眺めながらアリシアさんと雑談していると、ギルバートさんが姿を見せた。


 オレの姿を見つけて、笑いながら近づいてくる。相変わらず、その顔は怖い。獲物を見つけた山賊の頭に見える表情だ。顔に走った傷跡がいい感じ。


「ギルバートさん、こんにちは」


「おう、無事でよかったな」


 ギルバートさんが嬉しそうに、オレの肩を叩く。痛いです。いや、本当に。


「よし!じゃあ、行くか!」


「はい?うおっ!?」


 ギルバートさんに担ぎ上げられる。え、なに?


 疑問だらけのオレを気にせずに、ギルバートさんが歩き出す。


「ええと、どこに行くんですか?」


「服屋だ」


 服屋?


「コーサク、お前まだ結婚用の礼装を仕立ててないだろ。さっさと作るぞ」


「え、あ、はい」


 確かにまだ作ってない。帝国に行く前に注文しようと思っていたが、ちょうど注文が立て込んでいて、採寸もできなかったのだ。


 ロゼの分はもう出来上がっているらしい。見せてくれなかったけど。本番を楽しみにしておけ、とのことだ。


 まあ、それはさておき。


「分かりました。分かったので……降ろしてもらってもいいですか?自分で歩きます」


 誰かに担がれて礼装を仕立てに行く新郎なんて、恰好が悪すぎる。


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〇コーサクの過去編 : 『ある爆弾魔の放浪記』  

〇ルヴィ視点の物語 : 『狩人ルヴィの故郷復興記』

シリーズ外作品 〇短編 : 光闇の女神と男子高校生な勇者たち
― 新着の感想 ―
[一言] 自分で書く スコッパーなら一度は考えるが、現実はそう簡単じゃない。 駄作をただ書くだけなら簡単にできる。しかし自分が読みたい物語を一定以上の質で書くということはとても難しい。 技量をもつ誰…
[一言] 後書きを読んでの感想 『 オレの願い 』 いいですね~。 さて、この物語はどういう風になっていくのか楽しみです。 では、また気が向いたら感想を書きます!!
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