欲しいのは金じゃなく情報
今日はリードさんから追加で依頼を受けた魔道具の納品日。なのだが、オレはまだ日が昇る前から起きている。その理由は。
「いだだだだだっ」
痛い。全身が筋肉痛だ。昨日子供達の猛攻を防ぐために使用した身体強化の反動だ。怪我をさせないように時々無理な動きをしたので、いつもより体の状態がひどい。
さっきまで寝ていたんだが、寝返りを打とうとして痛みで目が覚めたようだ。
ベットの上で仰向けから動けない。
「痛え。動けねえ。でもこのままじゃ寝れないな」
風呂に入って、ストレッチして湿布貼ろう。
「いでででででで」
体をぎこちなく動かしながら風呂場に向かう。体を動かす度に痛い。
なんとか風呂に入って体をほぐし、湿布まで貼った。湿布に使っている薬草の匂いが全身からする。
眠気も無くなってしまったので、そのままお茶をいれてパンとブルーベリージャムで朝食にした。外は白み始めて、鳥の鳴き声も聞こえて来ている。
朝食の洗い物まで済ませれば、もう外は明るくなっていた。この世界の人々は、日が昇れば起きて、日が沈めば眠る生活をしているので、リードさんの商会も活動を始めているだろう。移動時間を考えれば、訪問する時間に早すぎることはないはずだ。
荷車に魔道具を載せて、リードさんの商会に出発した。体はまだ痛い。
リードさんの商会に着いた。動き始めたばかりだろう商会は、人と物の動きが忙しない。
「いらっしゃいませ。コーサクさん。朝早くからありがとうございます」
「おはようございます。リードさん。ご依頼の品です」
リードさんが直々に出迎えてくれた。満面の笑みで、今にも揉み手しそうだ。
「ええ。確かに。ありがとうございます。これで先方もお喜びいただけるでしょう。」
さて、納品は終わったが、前回商会の総力を上げると言ったお米の情報は出てくるのだろうか?
「ところで、コーサクさん。ここだけの話ですが、この魔道具をお売りする帝国貴族のさるお方というのは、帝国の3大貴族であるガーディア家の次期当主様なのですよ」
「そうなのですか」
おっと、全然お米と関係ない情報が来たぞ。貴族の情報なんて欲しくないんだけど。というか「ここだけの話」って詐欺のときに良く使われない?
「ええ。ええ。その次期当主様は王太子様と同年代で仲も良く、最近では王太子に贈る魔物を捕らえるために、戦闘用の魔道具を集めていらっしゃいます」
「はあ」
魔物を、贈る? ああっと、確か帝国ではワイバーンを捕まえて調教して、竜騎士! とかやってた気がする。それか?
「ですので、今は戦闘に使える魔道具が値上がりしておりまして。コーサクさんの性能の良い魔道具なら、とても良い金額で販売できると思うのです」
長々と話されたが、結局もっと魔道具を作って売ってくれってことだろ? しかも貴族に? 答えは考えるまでもなく「NO」だ。
オレの第一目的はお米の情報だって何回も言ってるだろ。
「これ以上売るつもりは「おお!そうでした。当商会でご依頼の件について調べたものがありましてな」
いやあ、情報を集めるのには苦労しました。と言いながらリードさんがオレに紙の束を手渡してきた。
また、オレの話を遮りやがったなコイツ。このタイミングで調査結果を出すのはオレを情報で釣ろうとしているのが丸分かりだろう。
とはいえ、お米の情報がもらえるならその全てに目を瞑ってもいい。魔道具だって作ってやる。
リードさんに気づかれないように魔道具を発動する。身体強化『頭:中』
ぱらぱらと紙をめくり、その内容を頭の中に取り込む。強化された脳は取り込んだ内容を無意識的に読み、内容を精査する。身体強化を使った速読だ。
読み終わった。これは帝国国内の植物について記載されていた。とても詳細な内容になっている。これを一から調査したのなら、それは大変な労力だろう。だが、オレはこの情報を知っている。
この資料の内容は全て、帝国で発売された本「帝国植物図鑑」に記載されているものだ。当然、オレはその本を読み終わっている。写本なら、オレの魔道具1個より安く手に入る。
だからこの資料はオレにとって意味がない。
なによりイラつくのは、この内容を帝国の図鑑の写本としてではなく、自分の商会で調査したもののようにオレに渡したことだ。
ふざけんなよ。
気分が冷めていく。
オレは読み終わったのを見て、リードさんが話しかけて来る。
「そこで、コーサクさんには追加で魔道具を作っていただきたいと「断ります」
今度はこちらがリードを遮り声を上げる。
「これ以上売るつもりはありません。来月以降の契約の更新もしません。今までお世話になりました」
「ちょ、ちょっとお待ちください!」
慌てるリードの止める声を無視して、さっさと商会を後にした。