かぼちゃのケーキ
リックが皆を中庭に呼んできて来てくれた。先頭には青い髪の少女がいる。
「こんにちは、イルシア」
「こんにちは、コーサクさん。いつもありがとうございます」
「いや、リックにも言ったけど、余らせただけだから気にしないで」
「いいえ、いつも色々いただいていますから。ほら、あなた達もちゃんとお礼を言うのよ?」
「「「「「ありがとうございまーす」」」」」
イルシアは孤児院を運営しているグラスト商会会長のギルバートさんの娘さんだ。ギルバートさんは山賊の頭にしか見えない風貌なので、イルシアは母親似で良かったと思う。
「アリシアさんは?」
「母は今日、孤児院の生活必需品の交渉で出かけています。帰ってくるのは夕方ですね」
「そっか。じゃあアリシアさんの分は取っておくとして、料理始めようか」
「はい、今日は何を作るのですか?」
「今日はカボチャのケーキだね」
レッツクッキングっと。
オレ専用の防壁の魔道具を2つ起動する。作用する面を反転させて直径1mの半球を2つ出す。
でかいお椀の様になった防壁に油分を集めた牛乳とメタリックかぼちゃの中身をそれぞれ入れる。入れた後は防壁を球体にした。
「じゃあ、風が得意な子はリックの方に、火が得意な子はイルシアの方に集まってー」
リックは風が、イルシアは火がそれぞれ得意属性だ。
「よーし、リック組は牛乳かき混ぜてー。イルシア組はかぼちゃ温めてー。スタート」
「「「「『回して!』」」」」
「「「「『温めて!』」」」」
子供達の詠唱が響く。リックとイルシアには子供達の未熟な魔術を制御してもらっている。
球体状の防壁の中で、風によって牛乳が渦を巻いている。油分が高いので、徐々に固まってきている。
かぼちゃの方は見た目に変化があまり無いが、魔道具が防壁内の温度が上がっていることを教えてくれる。
牛乳が良い感じに生クリームになり、かぼちゃも火が通ったようだ。かぼちゃの防壁の上部を開く、湯気とかぼちゃの匂いが広がった。子供達から歓声が上がった。
生クリームが入った防壁をかぼちゃの上に移動させて、防壁の下部に穴を開けた。かぼちゃの上に生クリームが流れていく。少し生クリームを残して防壁を再び閉じた。
かぼちゃと生クリームが入った防壁に卵と砂糖、小麦粉を追加して、もう1回球体に変える。
「リック組はもう1回混ぜてー」
「「「「はーい」」」」
目の前で、かぼちゃケーキの材料が混ざっていく、マーブル模様だったものが一色になり、ケーキの生地が出来上がった。
防壁の形を変える。球体から円柱に。
「おし。イルシア組温めてー」
「「「「はーい」」」」
目の前で、ケーキの生地が焼けていく。防壁の性質上、匂いは分からないが、少しずつ膨らみ、表面には焼き目が付いていく。
良い焼き色になったので、完成だろう。
「魔術とめてー」
加熱を止めてもらい、下部以外の防壁を解除する。途端にかぼちゃケーキの甘い匂いが広がった。
「ふぁあああ」
「おなかすいたー!」
「おいしそー!」
「キャー!」
皆で協力してケーキを切って皿に並べ、最後に残った生クリームをトッピングした。では、食べるか。
中庭に並べたテーブルにかぼちゃケーキが乗り、全員が席に着いた。
「では、まずコーサクさんに感謝を。ありがとうございます」
「「「「ありがとうございます!」」」」
「どういたしまして」
「それでは。精霊と全ての恵みに感謝します」
「「「「感謝します!」」」
この世界式の食事の文言を唱え終わり、おやつタイムが始まった。子供達は勢い良くかぼちゃケーキを食べている。
オレも食うか。いただきます。
まずは一口。口に入れた瞬間にかぼちゃの味が広がる。俺がかぼちゃだ!と主張してくる。舌触りは良い。魔術で思いっきり混ぜたからか、なめらかだ。かぼちゃの甘味も良い感じだ。
ただ、ちょっと重い。腹に溜まる感じはする。まあ、重めの食感と濃いかぼちゃの味に対して、上に乗せた生クリームが良いアクセントになっている。
総評すると、美味しい。良い出来だと思う。ただ、今日の夕食を食べきれない子がいないか心配だ。
「おいしい!」
「あまっ!」
「むー!」
「おかわりー!」
子供達も喜んでいる。まあ、成功だろう。残念、おかわりは無いよ。
その後は、子供達と一緒に片づけをした。机を運ぶときにリックとイルシアの手が重なって、お互い顔を赤くしたのを見て、あまりの青春っぷりにぞわぞわしたり、子供達の突撃をもう1回くらったりしたが、すぐに終わった。
やはり、魔道具で防壁使って料理すると、洗い物が少なくて楽だよね。
「今日はありがとうございましたっす」
「また、来てくださいね」
「またねー」
「またきてねー」
「ばいばい」
皆に見送られて、孤児院を後にした。