かぼちゃの消費先
レックスを見送って、今日の予定を考える。
リードさんから依頼があった魔道具は明日が納期だ。昨日の時点で完成しているが、早く納品してオレの魔道具作成スピードがバレると、また無茶を言われかねない。納品は明日で良いだろう。
今日はメタリックかぼちゃを消費したいと思う。
という訳で、孤児院の前に来た。
この孤児院はリックが所属するグラスト商会が運営している。リックや商会長のギルバートさんに頼まれてたまに手伝いに来たりする。
さて、この先は気合を入れなければならない。全力を尽くす覚悟が必要だ。
メタリックかぼちゃと諸々に食材を載せた荷車を引きながら、入り口のアーチをくぐった。
荷物を置くために中庭に向かっていると、リックと子供達の声がした。どうやら中庭でリックが勉強を教えているらしい。
中庭に入ると、リックと10人ほどの子供がいた。
退屈そうにリックの話を聞いていた1人が、荷車の音に反応してこちらを振り返った。
目が合った。やばい。
「コーサクだあー!」
その声に反応して、残りの子供達もぐりんとこちらを向いた。やばい。
「コーサクー!」
「おやつー!」
「今日は何食べるのー?」
「キャー!」
子供達が奇声を上げながら、“身体強化を全力で使って”突っ込んでくる。やばいって。
「身体強化『全身:中』発動!」
急いで身体強化を発動し、オレに向かって飛んでくる子供達をさばいていく。
「はっ! よっ! とりゃ! はあ! ぐほっ。そりゃ! たあ! そいや! げふ」
向かってくる子供達を怪我をしないように投げて、投げて、投げる。たまに間に合わずに食らう。鳩尾にクリーンヒットぉ。
子供達の波状攻撃には勝てず、最終的には体に登られて倒された。疲れた。この時点で身体強化の副作用による明日の筋肉痛が確定した。つらい。
「おやつなにー?」
「おきてー」
「遊んでー?」
「もう一回! もう一回やろー!」
「キャー!」
無理。無理だよう。これ以上は明日動けなくなるよ。げふっ! 腹の上で跳ねないでー!
そういえば、ずっと奇声しか上げてない子いない? 人語を解してなくない?大丈夫?
「こらー。皆コーサクさんに無理いったらダメだろ。いらっしゃいっす、コーサクさん」
リックがオレの上から子供をどけながらそう言った。助けるのが遅いよリック。
「今日はどうしたんすか? コーサクさん」
「勉強の邪魔して悪いね。あれ買ったんだけど、食いきれないからお裾分け」
台車の上で存在感を出す、メタリックかぼちゃを指さす。
「もう終わるところだったんで、大丈夫っすよ。鋼鉄瓜っすか。いいっすね。孤児院の運営費はいつでも十分とは言えないんで、食料の寄付は歓迎っすよ。ありがとうございます」
「本当に消費に困っただけだから気にしないで。とりあえず、料理の手は借りるよ」
「うす。もちろんっすよ。じゃあ、イルシア呼んでくるんで、子供達の相手を頼むっす。行ってくるっす」
え? マジで?
リックはさっさと孤児院の建物に入ってしまった。振り向くと子供達がキラキラとした目でこちらを見ている。
「おーし、お前ら落ち着けー。あれだ。前作ってやった紙芝居があるだろ? あれ読んでやるから持って来るんだ。読み終わったらおやつ作るぞー」
再び飛び掛かってきそうな子供達を紙芝居とおやつで牽制する。
「持って来るー!」
「か、み、し、ば、いー!」
「お、や、つー!」
「キャー!」
意識を逸らすことに成功した。危ねえ。明日、全身湿布男になるところだった。
こっちの世界の人々は、子供時代に身体強化を自然に学ぶ。多少加減に失敗しても子供の軽く柔らかい体は、身体強化の効果もあって、あまり重い怪我をしない。
子供の時に全力で身体強化を使って遊んで、ぶつかって擦りむきながら加減を覚えていくのだ。
なので、子供の相手をするのは大変だ。
子供達が紙芝居を持ってきた。この世界ではまだまだ本が高価で、絵本なんてものもなかったのでオレが作った。この大陸に伝わる昔話なんかを題材に分かりやすいよう簡略化している。
「これ読んでー」
「こっちー」
「これがいい!」
あまり長くないものを適当に選ぶ。題名は「伝説の剣士のはじまり」だ。