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7.マルトの出発とレヴェールの話


男爵家にきて三日目の朝、マルトの見送りをすることになった。

なんでも全寮制の初等学校を家の行事のためにということでさぼって滞在していたらしく、さすがにこれ以上は欠席するとまずいらしい。

ガードス卿としても食事会は結局中止になったものの子供世代同士の交流は十分深められたと判断したようである。

マルトは常にレヴェールについているのかと思っていたが、どうやら初等学校がない時やこういった行事の時限定でレヴェールについているようだ。

職場体験のようなものだろうか。

だとすると普段はべつの護衛が付いていそうなものなので、昨日も危なくなったらその人が割り込む手筈だったのかもしれない。

他家の事情についてあまり込み入ったことを聞くのは憚れるので、永遠に謎のままだが。


「それでは行ってまいります。つぎに皆様にお会いするのは新年の東方諸侯会議のころになるでしょう」


マルトはレヴェールに向き合った。


「レヴェール様、次に会うまでに最低限暴漢にあっても腰をぬかさないようにしていただけるとこちらとしてはやりやすいです。主に割く意識の割合が少しでも減らせれば戦いに集中できますから。自衛も貴族のたしなみです」

「うっ、分かっているわ。今回のことで護身術の先生が本格的に教えてくれることになったから」

「それはよかった。そしてアズモンド君、今回は本当に助かりました。貴方のおかげで三人相手にしては苦戦せずに済みました。今の年齢であれほど動けるのは僕が知っている限りでは三人ほどしかいません。男爵家の敷地内にいる限りにおいては危険はないと思いますが、レヴェール様をお願いします」


俺みたいに転生したわけでもないのに大人二人を倒せる幼児が三人もいるのか。

この世界はつくづく規格外である。

マルトはレヴェールに聞こえないように俺に耳打ちした。


「初日よりだいぶ打ち解けはしたと思いますが引き続きお願いします。まあ、あまり仲良くしすぎるのも困りますが」


マルトは送迎用の馬車に乗り込み、去っていった。

仲良くなりすぎるのも困るか。

将来レヴェールに仕えることになるマルトとしてはあまり俺とレヴェールが仲良くなりすぎて、レヴェールに傷が付くと困るというわけか。

一歳児に言うことではないし、七歳の人間が言うことでもないと思うが。


「レイモンド、マルトはあなたに何を言ったの?」

「ヒミツ!」


こんな事を本人に言うわけにはいかない。

だがマルトの心配するようなことは少なくとも数年はないだろう。

初対面の印象がだいぶ悪かったこともあるが、この年齢における三から四歳差というのは絶対的だからだ。

レヴェールからみたら俺は現状おこちゃまにしか見えないだろう。

この時代の結婚が視野になる頃になっても十五歳と十二歳、恋愛対象になるかは微妙だ。

そもそも俺がアズモンドと同程度は活躍していないと結婚自体を家に許されないだろうが。

あれ?そういえば最初、レヴェールの好感度をあげておいて、将来に生かそうと思っていたが無駄な努力だったのでは?

努力というほどのことはしていないのに、、徒労に終わったような気分だ。


ーーーー


今日はあいにく午後からは雨らしい。

この世界では魔法技術の発展によって現代技術に勝るとも劣らない精度で天気予報が可能なようだ。

どうにも分野によって技術の発展の仕方にむらがある気がするが、農業や戦争にかかわるところから発展していったのかもしれない。


そういうこともあってか出発は今日も見送られた。

それよりももう一個の理由の林道の調査がまだ完全でないということのほうが大きいかもしれないが。

なんでも本来もっと山奥に生息するはずの魔獣が人の生息圏まで下りてきていたが、原因はわかっていないのだそうだ。

人間の通るような道や移住区の周りの掃討は終了したので、今日の午前中に最終確認したら閉鎖を解く手筈らしい。

以上の二つの理由と、俺とリフィアには特に時間的成約はないしアズモンドにしても男爵に一筆書てもらえればまだ大丈夫ということから、我が家への帰還は明日になったのだった。




アズモンドは言わずもが調査の手伝いで、リフィアも何か用事があるそうなので今日の俺はフリーである。

どうせ暇なのだから昨日は途中で帰ることになったことだし改めて町を見に行っていいかと聞くと、リフィアに泣かれた。

いきなり号泣である。


いわく、昨日の私が言ったことは全く理解してなかったのか。

昨日の今日でそんなことを言い出すなんて思わなかった。

危険性も私達の心配も何もわかっていないじゃないか。


リフィアをなだめながら聞いたことだがおよそこういう内容だった。

昨日の人攫いのときのことは大人たちに説明する手間を省くために、マルトが一人で撃退したと説明したので、リフィアからすれば何の力も持たない子供が昨日の襲撃に対して何も感じず、また同じ過ちを繰り返そうとしていると映ったのだろう。

まあ、泣きたくもなるかもしれないな。


というわけで俺はまたもやプレイルームに行くことになった。

外に出れない以上そこくらいしか行ける場所がない。

かってに人の家の中をウロウロするのもどうかと思うし。

さて本でも読もうか。

せっかくレヴェールに読む順番を教えてもらったことだしな。

もしくは昨日の反省を兼ねて錬金術の練習をするのもいいかもしれない。

現状の少ない魔力と体力で、できるだけ戦えるように考えたつもりだったが、陸に戦闘訓練も受けていない相手にあのざまだと今後困ることになりそうだ。

とはいっても室内であまり派手なことはできないので、やっぱり今日は本を読むことにしようかな。

それにあまり他人に手の内をさらすものじゃない。


「失礼します。お迎えに上がりました」

「はーい」


おお、来たか。

流石にもうすぐ二歳の俺をあまり長時間一人にはしておけないということで今日はメイドさんが一人俺についてくれるという話になっているらしい。

ガチャリ、ドアが開く。

そこに立っていたのは初日俺たちを案内してくれたルビィだった。


「おはようございます。参りましょうか」

「う、うん」


まさか十人以上いるメイドの中から二回連続この人を引き当てたのか?

いや、違うか。

たぶん俺たちの担当が決まっているんだろうな。

喋りながら歩く。


「あ、あの」

「なにか?」

「ママとなにかあったの?」

「・・・・・いえ、なにも」


いや、絶対何かあっただろ!

まあ、あったとしてもわざわざ当事者の息子に話すようなことはしないか。


「仲直りしてね」

「別に喧嘩をしているわけではありません」

「じゃあなに?」

「何もありません。あったとしてもレイモンド様に言うようなことではありません」


そこから何度聞いても何もない、あっても喋らないを繰り返すばかりで拉致があかない。


「着きましたね」


ルビィがプレイルームのドアをノックして開いたところ中には先客がいた。

ちょうどいい、レヴェールの言うことなら聞くだろう。


「じゃあレヴェールに説明してよ」

「は?」

「え?何ですか?」

「ルビィがママと喧嘩しているみたいなんだ」

「リフィアお姉様と?本当ですかルビィ」

「いえ、喧嘩なんて・・・」

「じゃあ何ですか?私に隠し事をするつもりですか?」

「いえ、レヴェール様には関係のない話なので」

「私の家の使用人と私の叔母に関することなのに私に関係がないと?」

「いえ、ですが」

「そもそもその話が私に関係があるかは私が判断することです。貴方が決めることではありません」


レヴェールの剣幕にルビィはため息をつくと諦めたように目を伏せた。


「分かりました、お話します。その前に長い話になるので紅茶でも入れましょう。少し待っていてください」


ルビィが給湯室に行ってしまった。

長い話か。思っていたよりも何か深い事情があるのかもしれない。


「なにかしってる?」

「ルビィとリフィアお姉様のことですか?いえ、私に物心ついた時にはもうリフィアお姉様はいらっしゃいませんでしたから」


まあそうなるよな。

レヴェールはリフィアに初めましてと言っていたし、俺が生まれてからは一回も男爵家にリフィアは来ていなかったから、最後にリフィアとルビィが会ったのは少なくともレヴェールが一歳の頃といったところだろう。

覚えていないのも当然か。


「そっかあ。きょうのレヴェール、かわいいね」


一昨日はドレス、昨日は町を歩き回るために動きやすい恰好だったので、今日の白いブラウスに紺のひざ下までのスカートという格好は非常に女の子らしくてかわいらしかった。

レヴェールは少し顔を赤らめて、驚いたような顔をした。


「な、なにを言い出すのですか、急に」

「しふく、はじめてみたからしんせんだなあ」

「しふく?ああ服ですか」


レヴェールはその場でくるりと回って見せた。


「おじい様が選んでくださったのです。女の子はおしとやかな恰好をするべきだと。ふふふ、リフィアお姉様は絶対してくれなかったそうですよ」


ああ、なるほど。その反動で今レヴェールに女の子っぽい服を着させたがっているわけか。

リフィアは家を抜け出して散策に行くくらいだからそういう服は嫌がっていたのも何となく想像がつく。


「それであまりにお転婆だから本を読ませることにしたそうです。その間はイスに座っていられるからと。結局お転婆なのは直らなかったそうですが読み終わるたびに買い与えていたそうですよ」


あー、そう言う経緯で本が溜まっていったのか。


「ギルネは?ふくえらばないの?」


義父に娘の服を決められていたら反発しそうなものだが。


「まさか。お母様はおじい様が決めたことに意見するようなことは絶対しません。というかできないのでしょうね」

「なんで?」

「お母様はハリド領の林業の流通を委託されているマユーズ商会の出身だからです」


あぁー、男爵の反感を買ったら実家の危機ってことか。

この時代はそういうところズブズブだよな。

ハリド男爵に関して言えば個人的に勘に触ったからと言って、いきなり取引をやめにしたりはしないと思うけど万一ということもあるか。


レヴェールは俺の手を取ると意地の悪い笑みを浮かべた。


「だから、もし貴方が内に婿に来るようなことになったら貴方も大変でしょうね」

「え?」

「ふふふ、なんでもありません」


婿に取るってそういうことだよな?

いや、からかってるだけか?


レヴェールの真意がわからずに戸惑っているとルビィが戻ってきた。

それを見てレヴェールは何の気負いもない自然な動作で俺の手を放す。

やっぱりからかわれただけか。ちくしょう。

ルビィに手を握っているところを見られて照れてる感じじゃなかったもんな。

もし意識してるならこうはいかないはずだ。


「お待たせしました。すいません、気が利かず。足が届かなかったのですね」


ルビィは机に紅茶を置くと俺を抱き上げてイスに乗せた。

別に椅子に座れないから立って待っていた訳ではなかったが。

レヴェールが席についてルビィにも座るように促した。

ルビィは全員分の紅茶をつぎ終わるとゆっくりと話し始める。


「さて、どこから話しましょうか。そうですね、まずは私がこの家に来た時のことからにしましょうか。あれは私とリフィア様が3歳の時でした」


ルビィは楽しかった過去を思い出すような悲しい顔をしていた。

この感じ、無理に聞き出していいことじゃなかった気がする。


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