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4.ハリド男爵家

ブックマーク、評価ありがとうございます。

誰も見ていないかもと思っていたので本当に嬉しいです。

お時間がありましたら、感想も書いていただけると幸いです。


魔獣を討伐してから馬車で林道を駆けることおよそ二時間。

林道を抜けるとすぐに丘の上にある巨大な木造の洋館が目に入った。


ハリド男爵領最大の町ウッドビル。

林業や狩猟を生業とする人間の多いここではほとんどの建物が木造で、落ち着いた雰囲気の町である。

なんでも国内でも屈指の木材算出量らしい。

馬車の窓から覗き見ると、住民の服の雰囲気も俺達の住むウォーブマン男爵領フィルドとは違いがある。

恐らくだが農耕や酪農を仕事の中心にしているフィルドでは羊毛や植物性の繊維を加工した衣服が中心で、狩猟が盛んなウッドビルでは獣皮を直接加工したものが多いからであろう。


となりの領でも見てわかるくらいの違いがあるとなると、国内一周旅行にでもいくのも面白いかもしれない。

このくらいの時代では土着の文化が現代より顕著に表れているようである。


ーーーー


到着は遅れたが、何とか日が沈むまでにはハリド男爵家に到着することができた。

馬車が来るのを確認する人員でも用意していたのか、屋敷の正門が開かれておりハリド男爵家の人たちが出迎えに出てきてくれていた。

正面から、縦にも横にもでかい大柄な男性が歩いてきた。

詰め物でもしてるかのような腹の出っ張り方だ。

真っ白なひげと髪の毛がつながっていてサンタみたいだ。

あれがハリド男爵だろう。

執事と思しき人が馬車のドアを開けてくれたので、馬車から降りる。

アズモンドが胸に手をあて軽く頭を下げた。


「よく来たな、アズモンド君!!心待ちにしとったぞ!!ガハハハッ」

「恐縮です、わざわざ閣下自ら出迎えていただけるとは」

「私と君の仲だ!そんな固くならんでよいわ!」


剛毅な笑い方と大きな声。

どうやらハリド男爵は体だけでなく器も大きな人物らしく、堅苦しい挨拶が苦手なようだ。

子供におもちゃを配ったりもしてそうなので、笑い方をフォフォフォに変えて真っ赤な服を着れば完全にサンタになれそうだが、この世界ではサンタなんて文化は無いのが実に惜しい。

男爵の神経が太そうなところは、リフィアに似ている気がする。

よく見たらくりくりの丸くて大きい目なんかリフィアとそっくりで、流石親子と言うべきだろうか。


そんな陽気でご機嫌な男爵の気を引き締めるようにかアズモンドは鋭い声を出した。


「さて、着いてそうそう申し訳ないのですが、火急申し上げたいことがございます」

「なに?それは孫との初対面よりも重要なことかね、アズモンド君」

「はい、至急ことに当たるべき事態です。ウォーブマン男爵にもお声かけお願いしたく存じます」

「ふむ、しょうがない。誰かリフィアたちを案内してやってくれ。私はアズモンド君の話を聞かねばならんようだからな」


そう言うと男爵はアズモンドを連れて洋館に入っていった。




二人を見送るとメイド服の眼鏡をかけた女性が声をかけてきた。


「リフィア様方、ご案内いたします」

「!ルビィじゃない、久しぶりだわ。元気そうでよかった!」

「リフィア様もお元気そうで何よりです。こちらへどうぞ」


ん?

このメイド、リフィアがまだ話そうとしているのをわざとスルーして案内を始めたような。

気のせいだろうか?


メイドに連れられて屋敷に入る。

廊下には獣の剥製や美術品が飾ってある。

絵画よりも木像や陶器なんかの自然を生かしたものが多いようだ。

ふと近くにあった剥製を見てみると日付らしきものがついていた。

もしかしたら男爵が趣味で獲ったものも剥製にして飾っているのだろうか。



黙々と廊下を歩いていく。

というのもリフィアがルビィに話かけようとしても「仕事中なので」とシャットアウトしているからだ。

人によっては気分を害して怒りそうなレベルで愛想がない。

普段からこうなのだとしたら、いくら器の大きそうな男爵でもこんな人間を雇うとは思えないが。


(ママ、ママ)

(どうしたの、レイ?)

(ルビィ、おこってる?)

(怒ってない、と思う。ルビィは小さいころからあまり愛想の良い子じゃなかったし)


そういいながらもリフィアはルビィの態度を気にしているように見受けられる。

ルビィはリフィアより少し年上くらいに見えるから、リフィアが小さいときからいるならルビィもまだ小さかったはずだ。

やはり何か事情があるようである。



客室と思しき部屋に着いた。

手前側にイスと机のある部屋、奥に寝室があってベッドが三つあるのが見える。

外から見ても巨大な家だと思ったが、廊下を歩いたり部屋の中を見るとより一層その印象が強い。


「それでは私はこれで」


ルビィがつっけんどんな様子で言うと、リフィアが呼び止めた。


「ルビィ、待って!仕事が終わったらでいいから少し話せない?私がこの家を出てからお互いに色々あったと思うの」

「遅くなりますので。それに私には特に話すことはありません」


そう淡々と言うとルビィはドアを閉め部屋から出ていってしまった。

ドアを閉める音が無情に響く。

普段明るいリフィアも流石に堪えたようで下唇を噛んでいる。


「ママ、ママ」

「なあに?レイちゃん」


リフィアはしゃがんで俺に目を合わせた。

俺に心配させまいと笑顔を作っているが、無理しているのがバレバレである。

やれやれ。

俺はリフィアの額にキスをした。


「チュ」

「え?」

「いたいの、なおった?」


リフィアは顔をゆがませると俺をきつく抱きしめた。


「ありがとね、レイちゃん。ちょっとだけこうさせて」

「うん、わかった!」


俺はいいこいいこするようにリフィアの髪を優しく撫でた。

リフィアの髪からはいつもの甘い感じのいい匂いがした。

リフィアは母親と言ってもまだ20歳過ぎなのだ。

いくら普段明るく振舞っていたとしても、精神的に多少脆いところがあるのは当たり前かもしれない。

リフィアとルビィの関係はわからないが、ルビィにキツく当たられたことはリフィアにとって相当辛いことだったようだ。


「よし、元気でた。もう大丈夫だよ」


リフィアの顔色はさっきまでと比べると大分回復していた。

リフィアに元気がないとやりずらいので良かった。

額にキスなんて前世の俺なら臭すぎてできないが、こっちだとこれくらいがちょうど良いみたいだ。


できることなら今回の滞在中にリフィアとルビィの関係が少しでも好転すると良いのだが。


ーーーー


コンコン。

部屋で椅子に座って待っていると、ノックの音がした。


「はい」


リフィアがドアを開けると、二十代半ばくらいの女性とその足元に現在の俺よりも少し大きい、5歳くらいの女の子がいた。

その後ろにも7歳くらいの男の子が立っている。

女性と女の子は親子なのか二人そろってウェーブのかかった長い緑色の髪をしていて、おそろいのドレスを着ている。

違うのは女の子のほうだけクリーム色のカチューシャをしていることくらいだろうか。

男の子は柔らかそうな茶色の髪を七三分けにしていて、アズモンドが来ていた礼服を簡素にしたような服を着ている。


「こんばんわ、リフィアちゃん。お久しぶりね」

「あら、お義姉さん。お久しぶりです。ほら、レイも挨拶して」


俺はアズモンドの騎士の挨拶を真似て、胸に手をあて頭を下げた。


「はじめまして、レイモンド・アラミスです」


よし、噛まずに言えた。

こんなカッコつけた動作で噛みかみだと恥ずかしいからな。

この緑髪の美少女にはかっこいい男として覚えて帰ってもらいたいものである。

前世では女の従妹なんていなかったからどうしようもなかったが、早いうちにツバをつけておくに越したことはない。

前世では後手後手に回って結局一度も交際経験のないまま死ぬことになったからな。

今世こそ美人な奥さんをもらいたい。


「ほら、あなたも挨拶なさい」


そうおねえさんに促され(関係性としては叔母さんだが年齢的におばさんと呼ぶのは憚れるため、ここではおねえさんとしておく)、女の子は一歩前に出てドレスの左右をちょこんと持ち上げた。


「お初にお目にかかります、レヴェール・ハリドと申します。今日は遠いところからご足労いただいてありがとうございます」


よほど訓練されてるのか流麗な美しい挨拶だ。

TVでしか見ないような動作を生で見られるとは感動である。

レヴェールは顔を上げ、リフィアの手を取ると華のような笑顔を浮かべた。


「リフィアお姉様ですよね?おじい様からお話は色々と伺っております。私には姉がいなかったのでお会いできて本当に嬉しいです!」


先ほどまでとは一転して子供らしいはしゃぎ方で、目をキラキラと光らせている。

なんだろう、何かレヴェールの態度に違和感があるが気のせいだろうか?


「レヴェール、いつまでもそうしていると迷惑よ」

「はい、お母様」


レヴェールはリフィアの手を離すと振り向いて後ろの少年に声をかけた。


「マルト、あなたも挨拶なさい」

「いえ、僕はあくまでレヴェール様の付き添いで来ているので」

「いいえ、違うわ。おじい様はガードス家も客人として招待したのよ。貴方もそう振る舞いなさい」

「なるほど、確かに一理ありますね」


レヴェールの言葉に納得したのか、マルトと呼ばれた少年はこちらに向いて騎士のあいさつをした。

俺の付け焼刃のあいさつと違って、十分に洗練された所作である。


「マルト・ガードスです。どうぞ気軽にマルトとお呼びください」


言い終わるとすっと流れるような動作でまたレヴェールの一歩後ろに戻った。

どうやらマルトはもう何年もレヴェールについているようだ。


「それで、遅れちゃったけど私はギルネ・ハリド。貴方の叔母よ。これから度々会うことになると思うからよろしくね、レイモンド君」


ギルネは腰を折り、俺の頭に手をぽんと置いた。

大きく開かれた胸元が目の前に来る。

でかい。

レヴェールの将来にも期待が持てそうである。

ギルネが体制を戻したことで双峰が遠ざる。誠に残念だ。


「それでね、少しリフィアちゃんにお話があるの。子供用のプレイルームがあるからそこにこの子たちを連れて行きましょう。ウォーブマン婦人も同席するから」

「はい、わかりました」


俺たちはぞろぞろとプレイルームに移動した。

移動中もレヴェールは先ほどのキラキラとした瞳をリフィアに向けて嬉しそうに話しかけていて、それをギルネがなだめている。

なつかれたリフィアも満更じゃない様子である。


マルトは無言で3歩後ろを歩いている。

どうやら挨拶だけはしたものの、このスタンスは変えるつもりがないようだ。

プレイルームに着いたところで、それじゃあ仲良くして待っててねと言葉を残して、リフィアたちは部屋から出ていった。



これでここには子供しかいなくなった。

よし、とりあえずレヴェールに話しかけよう。

今のうちに少しでも好感度を稼いでおきたいところだからな。


「レヴェールちゃんは普段何して遊んでいるの?」


5歳児相手ならこれが無難な会話だろう。

おままごとやら人形遊びに付き合わされることになりそうなのは辛いが、将来のことを考えれば多少のことは我慢できるというものである。

だが返答はおよそ予想外のものだった。


「気安く話しかけないでもらえます?まだ小さいようですから、まるで身分を理解していないその発言は今回だけ特別に許して差し上げますが」


おおふ・・・。

猫かぶってたかぁー。

微かに感じていた違和感の正体はこれだったようである。



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