表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/15

2.初めての錬金術

教会から帰ってきて昼食後、いつもこの時間は一人遊びの時間だ。

つまり一人で錬金術にトライできる唯一のタイミングである。

この世界に来て始めのうちは眠気に勝てずお昼寝の時間だったが、次第に活動時間が伸びた。

俺があまり勝手に歩き回ったりしないこともあり、リフィアが家事をやっている間は二階の子供部屋に積み木などの遊具と一緒に放置されるようになっていた。


監視の目が外れるのをいい事にその時間に魔法の練習をしようとしたが、やり方が全く分からなかったので、前世の小説などの知識から体内や周りの魔力を感じ取ろうとしたり、精霊に呼び掛けたり、ただひたすらに念じてみたりしてみたが、なんの変化も起こらなかった。


リフィアが火をつけたときの呪文を唱えてみればできるかもしれないと思い、リフィアが魔法を使うたびに呪文を聞きとることに注力していたが、いまだに暗唱には至っていない。

魔法の呪文には古語か何かが混じっているみたいでところどころ何を言っているかわからないところがあり、日常会話をなんとか聞き取れる程度の言語能力では再現するのは難しいようだ。


なのでもう少し言語能力と年齢が上がって誰かに教えを乞うまでは魔術の習得は不可能、最悪の場合は才能が無いせいで一生使うことができない可能性も考えられた。

仕方がないので最近は、木の板に文字が書かれたひらがなカードのようなもので文字の暗記に注力していた。


しかし今回のジョブ診断で状況は変わった。

魔法は習わなければできなくても適性がそれ以上の錬金術なら独学でできる可能性がある。

というよりも今後年齢が上がって活動範囲が広がっても独学でやる他ないかもしれない。

母親であるリフィアが錬金術に懐疑的なのもあるが、そもそも錬金術師がレアジョブだから師を探すのにも苦労するだろうからだ。

前世ではなにか調べたければインターネットですぐに調べることができたし、インターネットが普及する前でも書籍などである程度学習できたが、どうやら本を探すのすら苦労しそうだ。

というのもこの家には本が一冊もなかったからだ。

もしかしたら紙がまだあまり普及していないのかもしれない。



というわけで錬金術に関しては魔術以上に手探りでやってみるほかないのが現状である。

個人的には錬金術といわれて思いつくのは金の生成などの史実上のものよりは、某漫画で見た触れただけで形状や材質を変化させる技なんだよな。



例えばこの積み木を動物の形に変えるとかだろうか。

そう俺は思いながら目の前の木片をひとつ取って手の中で転がす。

形を変えるならあっても違和感のないもののほうが良いな。

馬かウサギか鳥がいいかな、木細工として無難にありそうだ。

かわいらしいほうが良いし、ウサギにするか。

魔術も同じように念じるだけではできなかったことだしできるとは思えないが。

俺は積み木を握りこんでウサギの形になれと念じる。



その瞬間、体の中から電気が走るような感覚が襲い、腕の中の積み木が発熱、発光した。


「っ!?」


思わぬことに驚き俺は積み木取り落としそうになる。

どうにか踏みとどまり、漏れる出る光がなくなった後ゆっくりと手を開いた。

ちょこんと、赤ん坊の手のひらにおさまるサイズの小さな木のウサギが座っていた。

まじかよ。

正直できるとは思ってなかった、これが才能の違いだろうか。

魔術ではできなかったことが錬金術として認識するだけでできるようになるなんて。


さっきの体中を電気が走るような感覚が魔力を使う感覚なのだとしたら、今まで魔法を使えなかったのは魔力をうまく込められてなかったからかもしれない。

多少の倦怠感が体を覆っている。

どうやら魔力を使うと体力を消耗するらしい。


それにしてもこれができたということは水や火をを出すなどの今まで魔法として試そうとしてもできなかった他のことも錬金術としてならできる可能性がある。


今度はできるだけさっきの積み木の形を変化させたときの感覚を思い出しながら意識を集中して火よ出ろと念じる。

えい、おりゃっ、ふん。

何回試しても火は出ない。

そもそもさっきの体に電気が走るような感覚は訪れなかった。

まあ、これで出るようなら魔術を試したときにできていてもおかしくないか。


じゃあさっきの積み木の時と何が違うんだ?

錬金術のジョブでできることとして物の形を変えることはできるけど、火は出せないのだろうか。

あくまで直観だが違うような気がする。

思い出せ、さっきはどんなイメージだった?

積み木の形が変化する感じだった。

三角形が丸みを帯びて、耳がはえて、顔ができるようなイメージを漠然と思い浮かべていた。

もしかするとこの世界での錬金術師は物体を変化させることができるジョブなのではないだろうか。

もともと錬金術は前世でも物体を変化させて完全な物質を生み出すことを目的とした技術だったはずだ。

だとするといきなり火を出そうとしても駄目だ、もともとある物を利用しないと。

温度を上げるとか?

いや、自然発火させるほど温度を上げるとなると100度なんかじゃ足りないだろうし厳しそうだ。

だったら酸化させるのはどうだ?

確か火っていうのは物体が酸化した際に熱と光が放出されるのが連鎖的に起こる現象だったはずだ。

試してみるか。


今度はさっき作ったウサギ型の積み木を酸化させることをイメージした。

木の中の炭素を酸素と結びつかせて二酸化炭素に変化させる。

すると形を変えたときとは比べ物にならないほどの量の魔力が体を流れる感覚がし、積み木がさっきと同様に発光し始めた。

マズイッ。

俺はとっさに積み木を窓の外に放り投げた。


ドンッッ!!


積み木が俺の鼓膜を激しく震わせながら空中で爆散した。


「キャッ、なに!?」


リフィアの驚く声が聞こえた直後に俺は意識を手放した。



ーーーー


翌日の昼過ぎ。

また一人遊びの時間だ。

昨日の爆発は近所でも騒ぎになったらしく、この町の駐在騎士たちが原因を究明中らしい。

濃厚だと思われる順に、誰かの魔法の暴発、自然現象、アズモンドを狙ったテロという三つの線を調べているようだ。

どうやら俺が原因とはバレてないのが不幸中の幸いである。

爆発のあと子供部屋に確認にきたリフィアが気絶した俺を見つけて、爆発に驚いて気を失ったと勘違いしてベッドまで運んでくれたらしい。

万一今日起きなかったら医者に見せに行くつもりだったそうだ。

俺が気を失った原因はおそらく魔力切れなので、医者に見せられていたら爆発を引き起こしたのが俺だとバレた可能性がある。

朝には回復していてよかったと胸をなでおろすばかりだ。


それにしてもアズモンドは暗殺される可能性があるとは一体どういう立場なのだろうか。

今のところ騎士階級で貴族の娘のリフィアを嫁にしたということしかわかっていない。

もしかしたら何か重要な役職にでもついているのかもしれないが、情報が少なすぎてわからん。

まあ、いいか、今考えてもわからないし。


そんなことよりも今考えるべきなのは今後のために錬金術の出力を調整する方法だろう。

錬金術を何に使うにしてもいちいち対象を爆散させたり、使うたびに倒れていては使い道がないからな。


昨日のアレはおそらく俺のイメージ通りに積み木の中の炭素が酸化した結果だと思われる。

だとすると積み木が大きすぎたのが失敗だったのか。


俺は積み木を一つ手に取った。

積み木はまだ残り10個以上ある。

あと数個なくなったり形が変わってもバレないだろう。


俺は昨日木のウサギを作ったときと同じ要領で三角の積み木が二つに分かれることをイメージした。

魔力が流れる感覚がした後、軽い発光。

積み木はきれいに真っ二つになった。


よし、できたな。

同じように今度はできた二つの三角形がさらに十個ほどに分かれることをイメージする。

さっきより少し強く魔力が流れる感覚がした後、発光。

コロコロと小さい三角形ができた。


何気に二つの三角形を同時に対象にしていたがうまくいったな。

どうやらこの錬金術は複数でも指定できるようだ。

初めは4cmほどだった積み木は2mmほどになり、落としたらすぐになくしそうである。


この大きさだったら万一失敗しても昨日みたいに大爆発にはならないだろう。

右の手のひらに乗っている小さい三角形を一つ左手でとり、酸化させることをイメージする。

昨日とは違い上のほうからじょじょに、少しずついこう。

一気にいくと危ないからな。


また魔力が流れる感覚がする。

どうやら燃やすほうが形を変えるより魔力を使うようで、昨日みたいに倒れるほどではないが結構な強さだ。


ボッ


左手に乗せた三角形の先端に火が付いた。

よし、成功だ。

熱っ!


俺は飛び上がり、ザラザラと小さな三角形をすべて下に落とす。

落ちた衝撃で火は消えたのは良かったが。


まじか、拾うのは結構めんどくさいな。

というか絶対ひとつふたつ拾いそびれる気がする。

ひっつけれるか?

分けるのが出来たんだから出来るだろ。

俺は落ちている小さな三角形に向かって引っ付いて元の三角形に戻ることをイメージした。

バチバチと体中から電気が走るような感覚がする。


あ、昨日よりもってかれる。

小さな木の三角形は、小学校の頃にやった磁石に吸い寄せられる鉄粉みたいに一点に固まり、元の三角形になった。

沢山のものを一度に指定すると魔力を多く使うのか、引っ付けるのがまずいのか、直接触れていないのがいけないのか、よくわからないが相当体力をもってかれた。


眠気に抗えずにまたしても俺は気を失った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ