表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔神転生オメガリオン  作者: お覇王ランドルフ
異世界の旅立ち
9/9

実戦指南

1



「弟子〜っ!?」


地竜車の中にミアの素っ頓狂な声が響いた。

「お父さんって弟子を取らない事で有名なのに、ゼンちゃんってば何者……。」

ゼンを上から右から観察しつつ訝しがるミア。

「ミアはスルトさんの弟子じゃないの?」


「いやぁーアタシはお父さんじゃなくてお母さんの弟子なんだ、お母さんも『覇拳』とか言われてて……。」

「覇拳なら我も知っておるぞ!たしか大竜リエーラを拳で屠ったとか……。」


アルバとミアが盛り上がっている横で昨夜の事を思い出す。

『剣聖』スルトに弟子入りする事となったが、どうやらマンツーマンで修業をしたりする訳ではないらしい。

必要な教えは必要な時に見せるという。


アルバとミアが覇拳の伝説について会話に花を咲かせていた時、急に馬車が止まる。

御者席からスルトが声を上げた。

「前から地竜車が何台か来るようだ。」


地竜車から顔を出し前方を見る、街道はゆるくカーブしており、脇には木立や岩が見えるがまだ地竜車が来る様子はない。

そのまま暫し走ると、前方で立つ地響きと砂煙がその存在を知らせた。


全く見えず聞こえずの状態で、どういう原理で来訪が判ったのだろうか。

という疑問は一先ず置いておいて、こちらへ地竜を走らせる御者の顔を見ればどうやら尋常な事態ではないらしい。

こちらに向けて大声で何か叫んでいる。


「待て!待て!」

距離が近付いて、やっと声が聞こえた。

スルトが手綱を引き地竜を止める。

「我々はヴァンクリア騎士団ゆかりのものだ、一体何があった!」


スルトはこっちに「出るな。」というジェスチャーをしてから相手に対応する。

ミアはいつでも出ていけるよう、油断なく構えながらポニーテールを結ぶリボンに手をかけた。


基本的にマナは体の体積分ぐらいしか貯めておけないもので、大技を使うとすぐ底を尽いてしまう。

しかしミアは長い髪全体をマナの貯蔵庫として使う技を習得しており、必要に応じて解放する事で大技を連発出来る。

彼女のリボンはそのマナを解放する為のスイッチのようなものだ。


地竜車の外から会話が聞こえてくる。

「騎士様ですかい、あっしたちはエレミーアに物品を届けに来た商人なんですが……この道はやめたほうがいい。」

「何があった?」

「魔獣が狂ったように襲ってくるんでさぁ、そりゃものすげえ数で、もう荷車を捨てて来るしか……こんなに危険な道だとは……。」

「魔獣の他には見なかったか?」


「魔獣の角狼ライオーグがわんさといて……遠くに何かバカでけえ魔獣も居やした。」

「魔鎧ではないか?」

スルトの声が少し低くなる。


「いや、いや、あっしたちも魔鎧は見た事はありやすが、ありゃあ魔鎧というよりも生き物に近かったです。」


会話を聞いていたアルバがぴくりと眉を上げ、御者席に向かって声をかける。

「スルト。」


それで意思は伝わった様で、スルトはすぐ商人たちをエレミーアへと送り出す。

「御武運を!」

別れ際、商人たちは口々に祈りの言葉を叫んでいた。


「さて、何が出るかな。」

スルトは唇をぺろりとなめた。



暫く進むと、突然、車を引く地竜達が動かなくなった。

この先に行きたくないという意思を全身で表している。

逃げ出さないあたり、よく躾けられていると思えた。


付近に地竜を止めると全員地竜車を降り、歩いて先に向かう。

スルトさんほど察知力がないオレですら、この先に嫌な何かが待ち受けているというのは解った。


先の商人が言っていた地点はもうそろそろの所である。

小高い丘が左前方に広がり、街道の右側は草原が少し続いたその先は森となっている。


ある地点まで歩いた所で、先頭を行くスルトが足を止めた。

「たしかに角狼だ、来るぞ。」


森の方向を向いて構える。

と、いくらもしない内に獣の足音が響く。

音の数を聞く限り、数え切れないほどの数だ。


森から、ヤギの様な角の生えた、猪と狼の中間といった様相の生き物が姿を現す。

あれが恐らく角狼ライオーグだろう。


数は相当に居るようだが、スルトさんとミアも一緒なので少し気が楽な自分がいた。


ゼン、ミア、アルバはその場で迎え撃とうと構える。


しかし。

先頭に立つスルトが手を挙げて制した。


「ゼン、見ておけ。」

そう言ったスルトさんがどんどん角狼の群れへと歩いていく。

「お前は瞑想によって自分の身体の事はよく判っているようだが、その先がまだまだだ。」


ゼンに向けてゆっくりと語りながら、するりと剣を抜き放つ。

「己を知ったなら、次は己の立つ大地、吸う空気、生物……万物全てに気を張り巡らせろ。」


ゆったりと歩くスルトに角狼が襲いかかる。

しかし、ただ歩いているだけに見えるスルトに魔獣の牙や爪はかすりもしない。


「これぞ天地一刀……。」

動きの中でこちらに顔を向けたスルトはなんと、目を閉じている。


一瞥すらしないですべての攻撃を避けているというのだろうか、しかもほぼ紙一重で。

その技量に恐ろしさを感じる一方で、オレも自分の技術で近い事ができるのではないか、という高揚もあった。

ゼンも格闘馬鹿であるから、新しい技術には興奮を禁じ得ない。

もしかするとゼンの父もこの領域に至っていたのかもしれない。


スルトはその状態のまま次々に飛びかかってくる角狼にゆっくり剣の刃筋を合わせる。

すると、魔獣は自ら望んで斬られているかのように剣の餌食となっていく。


血の剣舞を踊っている間に、100匹は居たかという魔獣の数はスルト一人によって3分の2ほどにまで減らされていた。


「このぐらいか。」

しゅるりと剣を収めると、ゼンの方を見た。

その目は次はお前の番だ、と言っている。



「やるしかないか……!」

ゼンは両手で頬を張り気合を入れ駆け出すと、角狼の群れの中に躍り出た。

「……ゼンちゃんも、もしかして武術バカ……?」

後ろではミアが呆れている。


つまりは瞑想の要領だ。


――深く息を吸い、また吐く。

すると己の気の流れ、力の流れが判る……。


今迄であればそこで、己の事のみで終わっていた瞑想を、更に広げていく。

意識もどんどん外に広げるイメージで。

大地に、大気に、風に、匂い、音……様々な要素が頭の中に流れ込む。



駆け寄って唐突に動きを止めたゼンに些か戸惑っていた角狼達だったが、獲物と認識し襲い掛かってくる。


ゼンにはその瞬間、獣の息遣い、本能に従っただけの足運び、獣の臭い、風の流れ、すべてが解っていた。


重心をずらし飛びかかってきた角狼の爪を避け、首に手刀を叩き込む。

避け方が甘かったのか爪が少し革鎧に当たった。


(まだまだ……!)

流石にすべての攻撃を避けられる訳ではなく、かすり傷や若干の打ち身を作りつつではあるが、着実に角狼の数を減らしていく。


次々と振り下ろされる手刀、足刀、正拳……。


自分でも驚くほど感覚が研ぎ澄まされている、体内に宿る魔神の力ゆえなのか、スルトの教えが良いからなのか。



群れの数を三分の一にまで減らしたとき、スルトとアルバが叫んだ。

「ゼン!下がれ!」


ゼンの認知の外から、何かが投擲される。


轟音が鳴り響き、大地が爆ぜた。

巨大な岩が突き刺さっている。

当たっていれば即死だっただろう。


すんでの所で大岩を回避したゼンは森から距離を取り、3人の所へ戻る。


「助かりました!」

スルトの教えに感謝を述べる。

しかし、スルトが戦場を広く認識しているのに対してゼンのそれは自分の周囲3メートルほどと比べ物にならない。

「まだまだですね……。」


「なに、あれだけの教えであそこまで出来るようになるとは……お父上の教えが良かったのだろう。」

しかし、スルトは褒めてくれた。


「さっきのは攻撃は一体……?」

「岩を力任せに投げたようだ。」

アルバが答える。


あの大きさの岩を投げられる生物、想像できない。

しかし、嫌な予感はする。


森の中から足音が響く、かなりの大きさだ。

「この大きさ、やはり……。」

皆、緊張した面持ちで出現を待つ。

角狼達ですら畏怖を覚えるのか小さい集団を作りつつ纏まって唸っている。


足音の主は枝をへし折りながら、その姿を日の光の下へ表した。


太く短い脚で大地を踏みしめ、太い腕で前傾姿勢を支えるように立つ。

顔には目が一つしかなく、何処が口かも判らない。

体表には細かなトゲが生えており、体高は以前見たコーボルトと同等、10メートル程。

おおよそ生きものとは思えない姿である。


「ゴブリン!?」

ミアが叫ぶ。

隣のスルトは険しい顔をして、ゴブリンを睨みつけている。


アルバも緊張した様子で呟いた。

「あれは魔鎧ではないな……悪魔そのものだ。」




2



「あれがゴブリンなのか?」


「魔鎧の元になっている『悪魔』ゴブリンだな……。」

アルバが険しい顔をしてゴブリンをにらみつける。


「悪魔って聖王国の教会が封印してるんじゃなかったの〜!?」

ミアが情けない声を上げた。


ゴブリンが周囲を舐めるように見渡すと、魔獣達がゴブリンに従いだす。

どうやら悪魔の眷属である魔獣は、悪魔の意のままに操られるらしい。

悪魔はその巨体を震わせると、魔獣と共に森からゼン達の方に向けて走り出す。


「ミア!私がゴブリンを何とかする、お前は魔獣を!」

叫び、スルトが剣を抜く。

その時、凛とした声が響いた。


「ここは我がやる、下がっていろ。」

ゼンが隣を見ると、白銀の燐光を纏ったアルバがその力を解放しようとしていた。

紅い瞳が前方を見据える。


「ゼン達に我のすごい所を見せてやろうではないか!」

子どものような物言いだが、その目は真剣そのものだった。

アルバの周囲に何らかの力がどんどん集まっていく。

髪とローブがふわりと浮き上がり、集中した力場の断層がアルバの姿を歪ませる。

燐光を纏わせた両手を、撫でるように振り上げる。


こちらへ殺到して来ていた魔獣達は、何かの力の到来を察して回避しようとした。

しかし、飛び退いたその先まで全て、一瞬で業火に飲まれた。

アルバから放たれた炎は生き物のように暴れまわり、逃げ惑う魔獣達をなめ尽くしていく。

小さな身体から放たれる猛威に、皆驚愕している。


「何このマナの量……。」

「これがハイエルフだ。」

ミアが半ば呆れるように呟いた言葉に、アルバが答える。

ミアのマナも多いようだが、ハイエルフはそれに輪をかけてマナが多いらしい。


アルバが手を大きく開き前に突き出す。

更に巨大な力が、掌に集まっていく。



下僕をあらかた焼き尽くされたゴブリンは怒ったのか、アルバに目標を定めた。

どこから出しているのか判らない吠え声を上げ、巨体を震わせると飛びかかる。


しかし、その時既にアルバの準備は終わっていた。


「無尽の劫炎……!」


呟くと同時に膨大なマナが炎に変換され、巨大な火球となり飛びかかってきたゴブリンへと発射される――。


着弾。

爆音と閃光が周囲を満たした。


「おわっ!」

爆風の衝撃によろめきそうになりながら、ゴブリンを見る。

そこには上半身をほぼ吹き飛ばされ、断末魔を上げる間もなく死にゆく悪魔がいた。



「どうだ!すごいであろう!」

などと言いながらキラキラした目でこちらを見つめてくるアルバに、何と言って返せばいいのかわからない。

ハイエルフってすごい……。


「生身で魔鎧級のマナを扱えるとは聞いていたが……凄まじいな。」

「アルバちゃんって……すごい人だったんだ……。」

スルトはミアと共に驚愕を持ってその光景を眺めていた。


がしかし、何かの気配を察し声を上げる。

「……まだ悪魔の気配が残っているぞ!」


その声に、その場の全員が警戒態勢に移る。

あのクラスの敵がまだ出てくるというのか?

あんなのがウヨウヨしているようなら、この世界で旅をするのは普通の人間には難しい事なのではないだろうか。


森の奥から地響きが続き、再びゴブリンが姿を表した。


しかも、今度は三匹。


いや、奥から更に一匹別の脅威が木々を薙ぎ倒しながら現れる。

でかい、ゴブリン達の倍はあるだろう。

ゴブリンよりたくましい体躯に、巨大な一本角。


そいつはゴブリンの死骸を確認すると、丸太を何本も束ねたような巨大な腕を振り回しこちらを威嚇する。

全体的なシルエットは鬼のようだった。



「オウガだと……!」

アルバから驚きの声が漏れる。

しかし、その声とは裏腹に手の平では先程の火球を再び生成していく。


「先手必勝というやつだ!」

アルバの掛け声を合図に、尾を引きながら炎の玉がオウガに向けて飛んでいく。


直撃。

先程と同等の爆発が起きる。


「やったの!?」

ミアが叫ぶ。

(ミアさんそれダメなフラグです!)

ゼンも心の中で叫ぶ。



案の定、爆風の中には腕を十字に構え、ほぼ無傷のオウガが立っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ