1 戦争
1万
この数の人間を戦線へ送る為の費用をご存知だろうか。
まず道路の事だ。
というのも我が国に舗装軍用路は3本しか存在しない。いや、どの国も似たような物ではあるが。
この3本は勿論、民も使用する。軍が道を占拠する場合、経済に毎月平均して1ダカット分の損失が発生する。国家収入の2%だ。
次に軍需物資だ。
1万人の武器をかき集めると110ダカット。2ヶ月分の国家収入だ。
そいつらを維持するのにも月1.5ダカット必要なのだ。
そして戦争、軍は消耗する。長くなるなら傭兵で補充する必要がある。
戦争中は月3ダカットが軍事費に飛ぶのだ。何たることか。
我が国の月に50ダカットの収入が、湯水の様に浪費されてゆく。
ああ、そんな生産性のない事を考えていても仕方がない。
私はペンを持ち、近年導入された{紙}を広げる。羊皮紙よりはコストがかからない。
「失礼致します、大宰相ミドハト=パシャ様より閣下に召集命令です」
私が机に向かうやいなや、大宰相の召使い、名前は…あー…何と言ったか。私の部屋に飛び込んできた。
私は「解った」とだけ返事をして、宰相の元に向かう。
私が宰相の部屋まで来ると、兵士がドアを開けてくれた。
大宰相の彼女は何時ものように、透き通った銀の髪を垂らし、机に向かっている。
「軍需大臣コルネリウス、只今到着しました」
私がそう言うとゆっくりと顔を上げ、紅色の水晶体を私に向ける。
「分かった。楽にしてくれ」
彼女は手に持っていたペンをそっと机に置き、私に意識をむけた。
「軍需物資は確保できそうか?」
彼女は少し気まずそうに私に尋ねる。
「5万人分が限界です。借金を許容するならもう3万人分は確保できます。」
「十分だよ。それだけあれば陛下のご期待に応えられる」
彼女は立ち上がり、ベランダに出る。彼女がこちらに振り返り手招きする。私もベランダに出た。
彼女のドレスが風で少し揺れた。眼下に広がる港を見下ろし、彼女が口を開く。
「キミは、コーヒーが好きだったかな」
「えぇ、我が国の輸出品ですから」
「私には苦くてかなわん。例え金づるだとしても、な」
彼女は胸元の十字架をそっと触った。
眼下の港では丁度‘彼女の祖国‘からの船が船着き場で検査を受けている。
「今回の戦争は上手くいきそうだ。初戦で勝利した事はキミも聞いているだろう」
「えぇ、首都への奇襲が上手くいったとか」
彼女は頷く。長い銀髪が少し揺れた。
「だが、この戦争は不用意に敵を作る事になる。陛下のワガママにも困ったものだ」
「閣下、それは
「不敬罪か?キミにならいいだろう。ここではキミだって異教徒だ」
そう言って彼女は十字架を掲げた。私は口を閉じる。
丁度12時の鐘が鳴る。眼下の民達は皆、聖地に向かって跪く。私達はそれを見下ろしながら、十字架を握りしめた。
「済まない、言い過ぎたな」
彼女はゆっくりと息を吐いた。それからまた、港を見下ろす。
「何か、あったのですか」
「いや、大丈夫だ。」
私が尋ねると彼女は直ぐに否定した。それから彼女は私に退出するように促した。まるで尋ねられたくない様に見えた。
私は一礼し、退出する。
部屋に戻る道を辿っていると、2人の兵士が目に留まった。何やら急いでいる様子だ。
私に気付くとこちらに向かって走ってくる。
彼らは私の前で息を整えて、話し始めた。
「大臣殿!大宰相殿は今どちらにいらっしゃいますか!」
「ご自身のお部屋にいらっしゃるが」
「ありがとうございます!」
彼らはそれだけ言うと走って去っていった。廊下の蝋燭を倒していったが、気づいていない。
私は迷ったが、そのままにしておいた。夜までには誰かが直しているだろう。
まだ仕事が山ほど残っているのだ。明日までには片付けなければ...
私はそう思いながら再び自らの部屋に戻り、ペンを握った。
主人公役 コルネリウス 軍需大臣 十字教徒
ヒロイン役 ミドハト=パシャ 大宰相 十字教徒
イスラムとかキリストとか名前出していいのかわからないので少し名前変えてます。