光ノ戦士ト闇ノ戦士~舞台で繰り広げられるハッピーエンド~
朗報、カミサマがまたやらかしました。
「ねぇねぇナオちゃん、ヴァルムに嫁いで!!」
「はあ!?(顔真っ赤)」
「なおみんが嫁ぐならウチも行くー!」
「いや、ユーリはよく考えろ!?」
「ふえ?( ・◇・)?」
再び、カミサマの気まぐれでゲームの世界に呼び戻されたナオとユーリ。カミサマが何を言い出すかと思えば、冒頭の通りである。
「な、なんでっ?!」
顔を赤く染めながら、その顔を隠しながらナオが叫ぶとカミサマはえ、と驚いた。が、すぐさま、ニヤニヤと維持の悪そうな顔をした。
「だってこの前、いつ嫁ぐのー的な話してたでしょ?僕だって幸せになって欲しいもん」
「カミサマやさしー!あれがなきゃ」
「ユーリちゃん、要らないこと言わないの!」
カミサマの言い分にユーリが茶々を入れる。当の本人、ナオは両手で真っ赤になった頬を押さえながら考えていた。
この前って、エディンとのあれ?え、てことは、俺、ヴァルムと結婚するって事?!え、いや、嫌じゃないけどさ!……うん。
「あれ?でもカミサマ」
「んー?」
「ウチらがこっちに嫁いじゃったら、もう帰れないの?」
ナオがぐるぐると考えこんでいる間、ユーリがごく自然な疑問をカミサマに問いかけた。カミサマは、大丈夫と彼女に笑いかけながら言う。
「大丈夫!僕の力で行き来できるようにするから!これで問題ないでしょ?親御さんには、良いタイミングで旦那勢を変装させてユーリちゃん達の世界に連れてけばオッケー!」
「カミサマすごーい!」
ユーリがパァと顔を綻ばせてパチパチと手を叩きながらカミサマを賞賛する。それにカミサマは照れたように頬をかいていた。え、カミサマそんな力あったのかよおい、とナオは思ってたが黙っておいた。ようやっと、頬の尋常じゃない熱も引き、考える事を放棄したナオが腰に手を当てながら女子会のようにキャッキャしている2人を振り返った。
「んで、結局、俺は「プロポーズだよねー!」なっっ」
ナオの台詞を遮ってユーリが楽しそうに言う。それを見てナオは、お前もだろ……と思ったが言わないでおいた。カミサマが覚悟を決めたナオの表情を見て、ニィと笑う。
「んっふふ~実はねーヴァルムが次、ナオちゃんが来たらって指輪買ってるの知ってるんだ~だから~家に行きます!」
ピシッと腕を挙げて言うカミサマ。それにナオは内心、ヴァルム大丈夫かなと思った。強がっているが案外、怖がりな彼の事だ。恋していた義姉から自分に対象が移っただけでも心配そうにしていたのに、プロポーズなんて、大丈夫だろうか。
「(まぁ、そんときは、俺がもらうか…)」
そう思った後、キョトンとし、小さく笑うナオ。自分がそれほどまでにヴァルムが好きで、愛していた事に少なからず、驚いたのだ。裏切られ、誰も信じれず、愛せなかった自分が、一人の異性をこれほどまでに想っている。嬉しいと云う思いと共に、懐かしかった。そして、うまくやっていけるかどうか、不安だった。
するとユーリがナオの元にやって来るとその両手を取った。
「?ユーリ?」
「なおみん、大丈夫だよ!」
ニカッと笑った相棒に、ナオも笑い返す。自分が不安に思っていた事がどう云うことかユーリに伝わったらしい。ナオは「そうだよな」と頷いた。ユーリは満足そうに、笑う。
「お前も覚悟しとけよ、ユーリ。俺と一緒に嫁ぐんなら、相手、わかってんだろ?」
「うぐぅ」
いい笑顔(黒い)がユーリの目の前で開花した。それを見ていたカミサマが、ニマニマと一人笑っていた事を知る者はいない。
*
「て、事で連れて来たよヴァルたん!」
「ヴァルたん言うなキモい!!」
「あらあら、いらっしゃい」
ヴァルムがカミサマに魔法を放ちながら叫ぶとカミサマはそれを軽く避けた。それを総無視し、エディンが嬉しそうに笑いながら、2人を出迎えた。ナオとエディンが友愛で抱きしめ合う横で顔を真っ赤に染めたヴァルムがカミサマに説教じみた事をしていた。ちなみにカミサマ、正座です。
「なんでまた、ナオ達を呼んできたかはあえて触れないけど、その呼び方やめてって言ったよね?」
「ほら、呼びやすいっていうかなんていうかs「言い訳無用。また、呪うぞ?」勘弁して!!」
ヴァルムの笑ってない笑みにカミサマが土下座した。おい、カミサマ。
「カミサマ子供みたーい」
「見た目子供だものね。いつもの光景よ。ユーリも久しぶり」
「うん!久しぶりー!」
日常的な光景を横目にユーリとエディンが挨拶をかわす。ナオはその横でウズウズと珍しく、落ち着きがなかった。それに気づいたエディンが「ふふ」と柔らかく笑って、彼女の手を取った。ナオが驚いて顔を上げると、エディンは嬉しそうに笑うばかりだ。ナオはそれにはにかんだように笑った。ユーリは2人から離れて、耳まで赤くなったヴァルムと正座するカミサマに近寄った。
「ねぇねぇヴァルム」
「え?嗚呼、ユーリ。今、カミサマに説教中だからまっt「なおみんにプロポーズしないの?」はっ?!」
途端にヴァルムの顔がユーリを振り返りながら真っ赤に染まる。トマトと云うよりもリンゴの方がしっくりくる。ユーリはニィと悪戯っ子のように笑いながら、ヴァルムの背をナオとエディンの方へと押し出す。慌てるヴァルムなどお構い無しにユーリはずいずいと押していく。
「ほらー早くいきなよー遅くなると余計に恥ずかしいからねー」
「え、ちょっ!押さないでよ!!」
えいっ、とユーリが強くヴァルムの背を押すと彼はナオの目の前に躍り出た。ナオはキョトンとしながらヴァルムに向き直る。ヴァルムは顔を赤くしながら、覚悟を決めたのか、懐に手を入れた。ヴァルムの後ろで「頑張れー」と小さくユーリとカミサマが声援を送っている。エディンの方にはいつの間にか彼女の夫であるアルファがやって来、愛しき主で義弟の想いを見届けようとしていた。
あった。硬い感触が懐の中で手に当たった。ヴァルムはそれを、深呼吸をして引き出す。目の前にいるナオが息を飲んだ音が嫌に大きく響いた。ヴァルムの手の中にあるのは紺色をした小さな箱。誰でも分かった。結婚指輪が入った箱だ。ヴァルムは脳内で考えていた台詞を、深呼吸をして吐き出そうとする。が、緊張しすぎてか、声が出ない。それにナオがやっぱりか、と云うように小さくため息をついた。ビクッとヴァルムの体が不安で震える。そして、彼の脳内を不安が駆け巡る。もし、ナオが呆れたら?もし、僕の事を好きでなかったら?もし、僕との………
そこまで考えて、俯いていたヴァルムの手からナオが箱を奪い取った。
「えっ」
「ったく、だから心配だったんだよ」
驚くヴァルムの前でナオは箱を開く。箱の中身を予想出来たにも関わらず、ナオの頬が可愛らしいピンク色に染まる。それを可愛いと思ったヴァルムの頬も染まる。ポトッ。箱が地面に落ちた。ナオは「ん」とプラチナで、白い小さなダイヤモンドが付いた指輪をヴァルムに突き出した。その行為の意味に気づいたユーリやエディンが小さく「さすがナオ(なおみん!)」と黄色い声で叫んだ。
「な、ナオ…?」
「ほら、指輪、俺がもらう。意味、わかんだろ?……一緒にいよ?」
「~~~!!(顔真っ赤)」
顔を真っ赤に染め上げたヴァルムがナオを見据える。その様子が愛しくて、ナオはクスリと笑った。ナオの指と指の間からヴァルムは指輪を取ると彼女の左手を取った。ナオの頬が、分かっていながらも赤くなる。ヴァルムは彼女の左手の薬指にその指輪をはめた。
「これで、ヴァルムは俺のもんだな」
「なっ!…本当、恥ずかしい事ぱっぱと言えるよねナオ……まぁ、いいか。俺と結婚してくれますか?奈緒美」
「いいぜ、ヴァルム。結婚しよ」
2人が重ねた手を繋ぎ、指を絡め合う。2人の顔が、嬉しさと、愛しさと、恥ずかしさで綻んでいく。2人が顔を近づけて笑い合った。
「はい、結婚式結婚式!!」
「おめでとうなおみん!ヴァルム!」
「嬉しいわ。ナオが私の義妹になるのね!」
「おめでとうございます、ご両人」
周りの友人達のお祝いに本人達は照れたのか顔を見合わせた。両手の指を絡め合う。もう、この手は、愛しい人と離れる事はない、決して。
「幸せにするな?」
「っもう、だからそれ、僕の台詞……まぁいいか。ナオだもんね。愛してるよ、ナオ」
「っっ!」
「ふ、はは!」
先程よりも赤くなったナオを見て、ヴァルムが笑う。そのまま、ナオに口付けした。驚くナオは、嬉しそうに笑い、ヴァルムに抱きついた。
「ねぇねぇ結婚式いつやるいつやる!?結婚式場が来い!!」
「やったやった!!なおみん結婚!!」
手をパチパチと叩き合いながら、まるで女子のように黄色い声を上げるカミサマとユーリ。エディンの肩を抱きながらアルファがナオとヴァルムの幸せを心から願い、エディンは嬉しそうに微笑むばかりであった。ナオとヴァルムが手を繋ぎながら、友人達の方を向く。その表情からは幸せオーラしか溢れていない。ヴァルムがユーリを見て、悪戯っ子のように言った。
「次、ユーリ」
「え」
「ああ!!そうだったそうだった!ソラリスくん…だっけ?はい、次行ってみよー!!」
「ふぇえええええええ( ; ゜Д゜)」
****
数年、いや、数十年、と言ったところか。街は変わった。それは、その街を歩く4人にも当てはまる事だった。街は賑やかで、それでいて暖かい。活気溢れる街だ。そんな風に物思いに耽っていた4人の横を数人の男女の子供や、女性達、男性達が急ぎ足で通り過ぎて行く。
「今日は何が入荷してるかなー?『白百合』さんとこ」
「この間、貴重な宝石を使った雑貨を入荷するって言ってたわ!」
「『教官』、今度こそ負けねぇ!」
「それフラグぅう」
「夜はそのままそこでぇー?」
「「「酒盛りひゃっほーい!!」」」
通り過ぎて行く彼らの会話を聞き、一人が呟く。
「『白百合』……」
その声色には、嬉しさが滲んでいた。
*
場所は変わり、街の片隅。開店前のお店では数人が開店準備に追われていた。店は大きく、4階建て。一階と二階の中間辺りの壁に『白百合』と云う看板が白い百合の花の絵と共に掛かっている。建物は少々レトロ感溢れている。
店の扉を開き、その付近に置いてあった「閉店」と書かれた看板を「開店」にする、髪が短い女性。女性は、ふんわりとしたワンピースに、白いエプロン、頭にバンダナをしている。左の薬指にはプラチナの指輪がはめられている。女性は、とても生き生きとしている。女性の目の前を開店準備を手伝っていたであろう子供達が走り去る。その後を、別の子供が声を張り上げて叫んだ。
「レオン!モニカ!走るな!」
「うわーい兄ちゃんが怒った!レオン逃げよー!」
「了解モニカ!にっげろー!」
顔のそっくりは2人の子供が楽しそうに笑いながら、声を張り上げて叫んだ子供から逃げるために走って行く。その子は追うことをあきらめたようで、肩を息をしながら、こちらを見ていた女性を驚いたように振り返った。
「か、母さん……」
「どうしたカイ。そんなにびっくりして。俺の顔に何かついてるか?」
「いんや、違うけど…」
女性、と言うよりも少女と言った方がしっくりくる笑顔を美しい青い髪をした子供、カイに向け、彼女は何気なく彼の頭を撫でた。それにカイは驚き、体が動きを止めた。
「ま、いつも頼りにしてるぜ?カイ?」
「!……はは、本当、母さんはこっちの欲しい言葉をすぐくれる。俺、あいつら捕まえてくる」
「無理すんなよ?お前、学校もあんだろ」
女性の不満そうな表情にカイはクスリと妖艶に笑った。その笑みは女性が愛する人物に瓜二つだった。
「大丈夫だって。長男なんだし」
じゃっ!と言いながら先程の子供達、レオンとモニカを探してカイは駆けて行った。それを見送りながら、女性は微笑ましそうに笑った。
「ったく」
女性は腰に手を当てて、そう呟くと店の中に戻った。店の中に戻ると幼い我が子を抱いた美青年が奥のカウンターから長剣片手にやって来た。
「ローラは?」
「エレナに預けて来た。なんかわかんないけど、ルークが僕から離れると泣いちゃってさ」
「ははっ。父親が板について来たじゃんか」
「笑わないで。ルーク、起こさないようにお願いできる?そろそろ予約者が来る時間帯だからさ」
「了解、ほら、おいで」
女性は青年から眠っている我が子、ルークを預かる。起き出す事も、泣き出す事もしないルークに青年は先程までの苦労は一体……と肩を落とした。
青年は青い長髪を首根っこで結び、顔の片方を包帯で覆っており、ラフな格好である。左の薬指にはプラチナの指輪がはめられている。青年は我が子、ルークを抱いた女性を愛しく思い、近づくとその髪に軽く口付けした。少し背の低い彼女が小さくふふっと笑う声が聞こえた。
「?なに」
「ふふ、いや?お前、たまに合わない事するよな。でもな、」
女性は子供を抱きながら、青年の頭の後ろへ片腕を回すと自分の方に引き寄せた。青年は抵抗する事なく、女性の行為を受け止める。暫しの沈黙。女性は青年の唇から離れると、ニィと笑った。
「こんくらいはしとかないとな?ヴァル」
「はーっ。本当、君には敵わないよ、ナオ」
「ふふ、だろう?」
青年、ヴァルムと女性、ナオが互いの鼻を擦り合わせて笑い合う。そう、此処にいるのはあのナオとヴァルム。そして、彼女の腕の中にいるのは2人の子供で末っ子である。先程のカイや双子も2人の子供で、ヴァルムの話に出てきたエレナとローラも、2人の子供だ。
ナオはヴァルムと正式に結婚した後、ゲームの世界で生活をしている。ちなみにナオの両親にはヴァルムに黒髪の鬘をつけて挨拶をし、ヴァルムは海外の仕事だと言って海外暮らしと云うことになっている。年明けとお盆には帰って来る事を条件に2人の結婚を祝福してくれた。
ナオとヴァルムはこちらの世界で『白百合』と云う雑貨屋兼宿屋を経営している。ナオは昼間は雑貨屋、ヴァルムは冒険者等の育成教官。夜は2人で宿屋と酒場を経営し、生計を立てている。建物4階中、下2階が店、上2階が自宅だ。
街の人々や冒険者、旅人に2人の店は評判で、ナオは店をやってよかったと思っている。月に一度、エディンとアルファの姉夫婦も遊びに来る。子供も産まれ、幸せいっぱいである。
「ほら、そろそろ予約者来るんじゃねぇの?『教官』?」
「はは。はいはい、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
ヴァルムがナオの頬に軽く口付けして、長剣を背中に背負う。そして、彼女に手を振りながら、出ていった。ナオもヴァルムに向かって彼の姿が見えなくなるまで手を振った。彼の姿が見えなくなると、ナオはルークを抱き抱えたまま、カウンターの中へ入るとそこにある椅子に座り、客を待ちながら眠る子供に子守唄を歌った。
*その一時間後*
「ナオ!ごめんなさい遅れた!」
そう言って店に駆け込んで来た少年。ナオはカウンターからローラとルークを抱き抱えながら出てきた。その後ろから、エレナが「お母さん!ローラかルークどっちか抱っこさせてよ!」と叫びながら、子犬のようについてくる。母親であるナオの手伝いがしたいらしい。だが、エレナもカイや双子と同じくそろそろ学校だ。今預けたら、見切りがつかなくなる。そう思い、ナオはそのまま、肩で息を整える少年に近寄った。美少年、と云う言葉がしっくりくる少年でセミロングに、男物の格好に身を包んでいる。
「大丈夫だ。数分だ」
「でもさぁ、もうすぐでお客さんたくさんくる時間帯でしょ?それにカイくん達は学校行く時間だし……この時間帯、忙しいじゃん。ボクが遅れたら、ナオが困るじゃん!」
プクゥと頬を膨らませて叫ぶ少年。彼を見て、ナオはクスクスと笑う。ナオはエレナに「準備してきな」と声をかけると、彼女は「はーい」と手を挙げて急いで駆けて行った。階段の上から「行く前に抱っこねー!」と叫ぶ声が聞こえた。多分無理だ。
「ね、だから、ごめんなさいっ!」
頭を下げて謝る少年にナオは小さく笑う。
「分かったって、ルル。ほら、準備してきなって」
「う、はーい」
そう言って少年、ルルが店の奥に駆け込んで行った。ナオは腕の中の2人の子供に微笑みかけながら、定位置であるカウンター内の椅子に座る。そこには揺りかごがある。一つにルークを優しく横たえ、ゆらゆらとゆりかごを揺らす。腕の中にいるローラがカウンターの上にある玩具を手にし、楽しそうに遊んでいる。と、準備が出来たルルがエプロンをしてやって来た。元仲間で現友人であるルルはナオとヴァルムの店の手伝いをしている。店が出来た当初から「2人だけだと大変」だと言って、自らが勉強していた知識を使いながら手伝ってくれている。
エプロン姿の後ろから学校へ行く準備が整った子供達がやって来る。髪をおろした状態で膨れっ面のエレナを見て、ナオはルルにローラを預けて、「おいで」と両膝をついて手招いた。それに花のような笑顔を咲かせながら、エレナはナオの元にやって来る。ナオは彼女の黄緑色の髪を優しく、何処からか取り出した櫛でときながら、くるくると髪を結んで行く。数秒後にはエレナの頭に花の髪飾りをあしらったポニーテールができていた。ナオがよしっと満足げに頷き、エレナは嬉しそうに笑う。いつもの、親子の日課だ。
「よーし、お前ら、準備出来たか?」
「「「「「はーい!!ヽ( ・∀・)ノ」」」」
「行ってらっしゃい」
ナオが両腕を広げると子供達がわーっと押し寄せる。ギューッと抱き締め合い、子供達が「「「「行ってきます!!」」」」と元気に挨拶をする。ナオから離れ、幼い2人の妹弟に挨拶をし、ルルにも挨拶をし、子供達は学校へと駆けて行った。出ていった子供達を名残惜しそうに見ながら、ルルがナオにローラを引き渡す。
「ボクも子供欲しいなー」
「お前自身が子供なのにか?」
「むっ、ひっどーい!ボクにだって結婚考えてる人いるもん!」
あ、とルルがやっちまったと口を押さえた。ナオがニィと笑った。ルルが顔を赤くしながら、エプロンの裾で顔を隠すがナオにとっては無駄な抵抗だ。
「ルルー?」
「う、いつか話すからぁ!」
赤くなったルルの叫び声は、外にいたお客様にも聞こえていたらしい。
***
夜。宿屋と酒場と化した『白百合』。長男・カイを筆頭に、子供達が看板息子&看板娘として両親の手伝いに走り回っている。そこにはルルもおり、意外な人物が夜のみ手伝いで登場していた。
「オーくん!母ちゃんに追加メモお願い!」
「りょーかぁーい」
女のように長いポニーテールをした男性がモニカからメモを受け取ると賑わう空間を出て、カウンターの奥、厨房へと入って行った。厨房では料理を作るナオの姿があり、彼女は男性を見つけると「交代!」と言って調理器具を放り投げた。
「うわ!?ちょっ、ナオ~オレ、追加のさぁ~」
「て、言うか、お前、厨房担当なのになんで俺に任せて出てんだよ」
「うぐっ」
「ヴァルに付け口されたくなかったら、交代しろ、オメガ」
男性、オメガは意気消沈、と言った感じで肩を落としながら、調理器具を使い始める。その顔は楽しそうに笑っていた。彼は、以前までヴァルム達の家に居候していたオメガだ。今はナオとヴァルムの夜の店を手伝っており、独り暮らしをしている。オメガは厨房担当なのだが、たまに抜け出して子供達と注文取りに回っている。
ナオは彼がちゃんと働き始めたのを見て、厨房を出た。そして、そろそろ子供達の寝る時間帯だと思いながら、今日はどうやって彼らを寝かしつけようか……と思考した。
**
翌日。昨夜は休日前だったので子供達は遅くまで手伝ってくれた。そのお礼として今日は遅くまで寝かせている。仕事のために、出てようとしていたヴァルムとナオが少し長めの夫婦のみの時間を楽しんでいた時。いつもより早めにルルが勢いよく扉を開けて現れた。驚いたヴァルムがナオの肩を抱きながら、ルルを振り返った。
「どうしたの?」
「んっふふ~2人に朗報だよ~エディンとアルファが来たよ!」
ルルが背を向けていた扉から離れると、そこには美しくなった女性、エディンと彼女の夫、アルファがいた。その後ろからはオメガがやって来る。ナオとエディンが互いに近付き、友愛で抱き締める。
「久しぶり、ナオ」
「嗚呼、久しぶり、エディン。ようこそ、俺達の店へ……まぁまだ開店してないけど」
ナオがそう言うとエディンはクスクスと笑った。その後ろでは旦那勢が「久しぶり」とこちらも挨拶を交わしている。
「久しぶり、義兄さん?」
「お久しぶりです、ヴァルム。子供達は元気ですか?」
「元気だよ~ねぇ、ヴァルム~」
「なんでオメガが答えてんだよ」
「ふふふ」
楽しげな笑い声が開店前の店に響く。子供達が起きないよう、声を潜めて笑い合う。と、ナオは愛しい友人であるエディンを抱き締めながら、足りないなぁと物足りなさそうに一瞬、天井を仰いだ。それに気づいたエディンが心配そうに訊く。
「ナオ、どうしたの?綺麗な顔が台無しよ?」
白く、美しい手をナオの頬に当て、心配そうに首を傾げてエディンが問う。
「……義姉さんて、ナオにだけ天然だよね…」
「…まぁ、そうですねぇ。エディン、近すぎですよ」
ヴァルムとアルファが話し、アルファがエディンにそう声をかける。エディンが「あらあら」と愉快そうに口元に手を当て、アルファ達を振り返る。エディンはナオから離れるとアルファに言った。
「あらなぁに、アル。ナオに嫉妬?」
「いいえ?そう言うわけでは」
「ふふ、アルったら」
2人は人前であるにも関わらず、軽く口付けをかわす。それを見てルルが黄色い声を出す。ヴァルムが小さくため息をつく。オメガも小さくため息をつく。ヴァルムもオメガも見慣れた光景だ。ナオはそれを見ながら、変わってないなぁと小さく笑った。エディンがアルファと片手を繋ぎながら、彼女を振り返り
「で、ナオはどうしたの?」
と、再び問った。ナオは苦笑しながら、ポツリポツリと話す。
「いや、此処にユーリ達がいたらなって…」
寂しそうに俯くナオの肩をヴァルムが抱く。
ナオの相棒であったユーリはソラリスと結婚し、シータとガンマの双子を連れて現実世界で生活をしている。何処で何をしているのかは不明で、カミサマ経由でたまに手紙が来る以外、詳細は不明である。
「双子から連絡とか来てないの?」
「ないね~」
ルルの問いにオメガが肩を竦めて答える。何年も会っていない彼らは、元気でいるだろうか。そう、ナオもヴァルムも全員が思った時、店の外から聞きなれた声が響いた。
「あっれー此処のはずなんだけど」
「ちょっとー間違えないでよ!せっかく会えるってのに!」
「そうだよ!」
「いやはやーだってまだ閉店中だし」
「いいから、開けろ」
「ったく~数年会わない間に可愛くなくなっちゃって」
低い声と、3つの少し高い声。一つはカミサマだ。カミサマが来るのは、手紙を届けに来る時か仕事を放置してきた時くらいしかない。だが、今回は、違う声が混ざっている。つまり、カミサマは誰かを案内してきたのだ。けれど、それは一体…?
「可愛い可愛くないは関係ない。此処でいいのか?」
「うん、そうだよー…緊張してる?」
「僕らはしてないけどね!」
カミサマの問いに答える声に別の、その声によく似た声が「こらっ」と叱る。聞いた事がある声の数々。まさかと思ったその声は、次の瞬間、肯定された。
「うん、まぁね。でも、緊張とか、わたしらしくないでしょ?カミサマ」
「ふふ、そうだったね!」
高い、女性の声。落ち着いているが、その声はウキウキと浮き足だっている。ナオがハッとヴァルムとエディンを振り返った。姉弟は、ナオに向かって頷いた。と、その時、店の扉が開き、ドアベルが小さく涼しげな音を奏でた。そこにいたのは立派な青年へと成長したシータとガンマ兄弟だった。双子は兄であるアルファとオメガを見つけると嬉しそうに顔を綻ばせた。
「「兄さん!!」」
「シータ~!」
「ガンマ」
双子は兄達に飛び付いた。兄達は弟達の頭突きにも似た抱きつきを受け止める。双子はその後、「「ルゥ兄ー!」」と叫んでルルに抱きついた。ルルが嬉しそうに彼らを出迎える。立派になっても中身は変わっていない。和む光景を見ていると、再び、誰かが入って来た。カミサマが手を挙げながら「おひさー!」と入店する。カミサマだとバレてはもとも子もないので、この頃は変装にはまっている。今日はいつもの少年姿にローブを羽織り、旅人の変装をしている。カミサマはにっこりと笑いながら、扉の方へ「入って来たら?」と声をかける。カミサマの言葉に反応して2人が入って来た。ナオの、物足りなさそうだった顔に笑顔が咲いた。
「久しぶり、みんな」
「よぉ」
以前と同じセミロングの髪をしたソラリスとポニーテールのユーリがそこにいた。2人の首には結婚指輪であるプラチナの指輪がペンダントになってかけられている。ユーリは驚いているナオに近づく。驚いて動けないナオの背を、ヴァルムが押す。その声援を受けてナオは、ユーリに歩み寄る。ヴァルムもソラリスに向かって歩み寄った。
「久しぶりだね、なおみん」
「久しぶり、ユーリ。お前、何処行ってたんだよ」
「ちょっと、ソラリスとシータとガンマと、世界一周してきたんだ。はい!これ」
ユーリは思い出に一瞬、浸るとナオに袋を手渡した。ナオが不思議に思いながら袋を受け取り、首を傾げる。すると、隣でヴァルムと話していたソラリスが笑って言った。
「それ、ユーリがお前のためにって能力の無駄遣いして作ったもんだ。世界中をモチーフにしたものだからな、凄いぞ」
「ちょっ!ソラリス!能力の無駄遣いは余計」
「ははっ、わりぃわりぃ」
ソラリスが怒ったように叫ぶユーリの頭を優しく撫でる。ナオは、やっと、全員揃ったと嬉しく思い、口角を上げていった。
「カミサマからなおみん達に子供産まれたって聞いたから、そういう感じのを多めにしてみたんだ。あとで子供達と見てみて」
「嗚呼、ありがとユーリ」
「いいえ、なおみん」
そう笑い合って、かつての相棒と久しぶりの握手をかわした。
「『白百合』って名前、つけたのエディンでしょ?」
「よく分かったわね」
「どんな国?見てきたの~?」
「これ!たくさんお土産買ったんだ!」
「楽しかったよ」
「長旅お疲れ様です」
「お帰り久しぶり!!」
「元気だったか?」
「お店って繁盛してる?」
「お陰様でね」
「………ふふ(嗚呼、楽しいな)」
そして、そのまま彼らは子供達が起きてくるまで、店が開店するまで一時の楽しい、懐かしい時を過ごした。
おまけ
副題:旦那組がナンパに会った様です。その時、奥様組の対応は?
エディン
「あら、うちの人に何かご用かしら?(黒い笑み)」
→結果、エディンの黒い笑みで退散
ユーリ
「?友達じゃないの?……え?ナンパ?ダメだよ、その人。わたしのだから」
→結果、ユーリの威圧じゃない旦那の威圧で退散
ナオ
「そいつ、持っていく気か?駄目だぜ?そいつ、俺の、俺だけのもんだから。盗ったらだーめ」
→結果、ナンパがナオの男気に当てられてファンになる
おまけ2
副題:奥様組がナンパに会った様です。その時、旦那組の対応は?
アルファ
「すみませんが、彼女は渡せないんです。私の、なんでね(黒い笑み)」
→結果、エディンと同じく黒い笑みで退散
ソラリス
「あーはいはい、盗んなよ。こいつ、あんたらに渡せるようなもんじゃねぇから」
→結果、ソラリスの威圧で退散
ヴァルム
「ダメ。その子、俺の。俺のだから…だから……ね、返して?」
→結果、ヴァルムの美青年(彼女)っぷりに返さざるを得なくなって返して退散
それでは皆様、ご一緒に。
どうぞ、末永くお幸せに!!!!
もうそれしか書くこと(あるかもですけど)ないです。
楽しんでいただけたら、幸いです。