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元ヤン、説教する!

 そんなアタシに助け船を出してくれたのは、何とブラコンの妹姫だった。


「違いますわ! 何も知らないお姉さまは、私が襲われていると思って一生懸命助けて下さったんですの! 決して邪魔したわけではないんですのよ?」


 いや、まあそうだけど。

 でも、実は暴れられて『ラッキー』というか久々にスッキリしたというか……。ちょっとやり過ぎちゃったと今は反省してるけど。



 けれどそれを聞いた王太子の目が、キッと護衛の方を向く。

 護衛のジュールは降参したように両手をあげて、弁解を始めた。


「いや、見ていた限り大丈夫かと。でも、ルチア様が危なくなれば無論、助けには入りましたよ?」


 まあそうだろうな。男たちの仲間のフリしてたって本当は王女の護衛なんだもんな? やる気が無さそうに見えて、やるときゃやるんだろうし。でも……。




「まあいい。用も済んだし引き上げよう。オーロフ、後は任せた。ルチア、怖い思いをさせて悪かったね。それにセリーナ、私はテラスで君をずっと待っていたんだけどね?」


 ご……ごめん。だって王太子と一緒にいるのはいたたまれなかったんだもん。あんな場面でどう振る舞っていいのかわかんないし。これ以上『こるせっと』で苦しい思いをするのも、敵意の真っ只中で愛想笑いするのも嫌だったし。

 謝りゃいいんだろ? 謝りゃ。

 プライドぶっ潰して悪かったってよ?

 けどそれよりも、大事な何かを忘れているような……。


 急に痛んできた右の拳を口に当てて考え込むアタシを、他の4人がじっと見ている。でも、王太子を外で待たせていた事よりも、さっきからもっと引っかかってる事がある。


 待てよ?

 よく考えたら、アタシよりもあんたらの方がひどくないかい?




 アタシが口を開くより先に沈黙を破ったのは、先ほどの可愛らしい妹姫。


「あら、お兄様ったら。そんなに一人の方にご執心だなんて珍しいですわね? でもこの方なら私も喜んで応援致しますわ!」


 そうか。やっぱり大好きなお兄様を取られそうで反対し……え、何を応援? 頼んでないよ?




 でも、気がかりはそれじゃあない。

 むしろ、そっちはスルーしていただきたい。

 アタシが言いたかったのは……。


「あの……ちょっとだけ言いたい事があるんですケド」


「何だい? 発言を許可しよう」


 王太子ちょっと偉そう。ま、いっか。

 兄が『こいつは何を言い出すつもりなんだ?』と、狼狽(うろた)えるのが目の端に映ったけれど、気にしない事にする。対してジュールと王女は『何だろう?』というようにこちらを見ている。


「あのですね……計画だか作戦だか知りませんが、女の子に怖い思いをさせるのは、いかがなものかと」


「あら? でもそれは私が……」


「確かに、姫さんが言い出したのかもしんないけど! でも、何も無かったから良いようなものの、触られた時本気で嫌だったんでしょう?」


 思い出したのかビクッとする王女。


「だがそのために、護衛も付けた。始めに用意されていた女性と無理に交代なさったのは、王女殿下だ」


「だーかーらー。あに……兄様、本当はバカでしょう? 本物の悪人を目にした事のない王女様が、自分の身にふりかかる災難を予測できたと思う? それに王女が囮ってどう考えてもおかしいでしょう! 自分より偉いからって、何でもホイホイ従ってその人のためになるとでも?」


「む……」


 黙り込む兄貴。

 でも、構わず続ける。


「それに、アンタも! 護衛なら護衛でもっと早く助けなさいよ! っていうか、姫さんに協力させんのは大変だって始めっからわかってたんでしょう? いくら身分が上の(モン)でもダメならダメってちゃんと言ってあげんのがスジってもんじゃないの?」


 ビシッと指差しまくし立てる。

 金髪童顔の護衛が困ったように笑う。




「二人を責めないで! 元はと言えば私が、私が囮になるって言い出したんですもの……」


 震えながら少し涙目で訴える王女様。

 いくら可愛くても、ここでほだされてはいけない。


「そうだね。アンタも悪いよ? いくら大好きなお兄さんに女性を近付けたくないからって、トーシロー……素人が仕事に口を出すのはただのワガママだってわかってる? そのために、周りを振り回している事も?」


 あらヤダ、姫さん泣きそう。

 キレイな瞳に大粒の涙を溜めている。

 でもゴメン、もう止められないや。


「あのね、あなたは王女サマでしょう? この国でとっても大事な存在なの。なのに周りの意見を無視して危険な事に首を突っ込んでちゃあダメだから。あなたが優しいのはわかるよ? でも、アタシのケガなんか心配している場合じゃないでしょう? あなたに何かあったら、アタシなんかより何倍も、心配したり悲しんだりする人がたくさんいるんだから! だからもっと、自分を大事にしなくっちゃ」



 それは、イジメられていた妹にアタシが一番言いたかったことだった。転生前、頭の良い妹は、何でも自分一人で解決しようとして、辛い思いを自分の中に溜め込んでいた。

 もちろんそれはワガママとは違うけれど、きちんと相談して欲しかった。頼りない姉かもしんないけど、一緒に考える事ぐらいはできたから。ひどいイジメにあっていると始めからわかっていたなら、もっと良い解決法もあったはずだ。


 ごめんな、姫さん。八つ当たりかも。でも、ここでハッキリさせとかないと、アンタ、自分を(かえり)みないただのワガママ娘になっちゃうよ?


「ご……ごめ……ごめんなさい。私……」


 堪えきれずにとうとう涙をボロボロ流し、目を(こす)る王女様。ああもうっっ。可愛過ぎるでしょ!


 アタシが悪人に見えてるのはわかってる。王族に対して物申すだなんて、出過ぎた真似をしている事も。

 でも、チーム内では後輩の教育もアタシの仕事だったんだ。初めてのケンカで出張り過ぎたり興奮し過ぎたヤツらを(たしな)めたり怒ったりするのもアタシの役目。まあ、こんな所で(おんな)じように説教するとは思わなかったけれど。




「リーナ、いい加減にしろ!」


 兄の怒声が飛ぶ。ポッと出のアタシがいきなり生意気言って、兄貴の立場を悪くさせているのもわかってる。でもだからって、放って置くのはいけないと思う。間違ってる事は間違ってるって誰かが言って聞かせなきゃ!



「そうだね、セリーナ嬢。君の言いたい事はよくわかったから。次からは気をつけさせるよ。だから今日はその辺で、怒りを収めて?」


 王太子がアタシの怒る理由を察したらしく、穏やかに口を挟む。でももう、ここまで来たからにゃあ最後まで言わせてもらうからね!


「いいや、あんたが一番わかってない!」


「セリーナっ! お前、事情を何も知らないくせに!!」


 王太子にまで歯向かうアタシの口を塞ごうと、兄貴が怒り狂って飛びかかってこようする。けれど相変わらずの笑みをたたえた王太子が、素早く手をあげ兄貴を制しアタシに問いかけてきた。


「そう。じゃあ説明してくれる? 私が何を理解していないのか」



 その瞬間シン――と部屋の空気が凍った気がした。

 アレ? もしかして地雷踏んじゃった?

 王太子サマ、目が笑ってないよ。

 もしやかなり怒ってらっしゃる?


 でも、ここまで来たら後には引けない。

 特攻服なんか無くても、もはや攻めるのみ。


「無礼を承知で申し上げますけれど……」


 べ、別に怖じ気付いたわけじゃないから。

 一応前置きしただけだから。

 王太子が(うなず)くのを了承ととって、話を先に進める。


「このメンバーの中で身分が一番上なのは、あなたでしょう? それなら上に立つ者として、あんたがみんなをしっかり監督しなきゃ。妹が無茶すんなら、兄のあんたが(さと)してやめさせるべき。なのに、あんたまでけしかけてどうする。あんたが止めなきゃ誰も止めないよ? 相手もお遊びじゃあないんだ。()めた真似してっと、いつか痛い目みるよ?」



 イケね、口調が素に戻ってた。

 もしかしたら『ふけー罪』とやらでこの後アタシは捕まるかもしんない。

 でも、それでも――。


 アタシはあんたにどう思われようと構わない。上に立つんなら舎弟……じゃなかった、下のこともちゃんと考えてあげなきゃね?




「そうだね、私もまだまだだ。今後は心してかかるから、君も協力してくれる?」


 笑みの形は口元だけで全く笑っていない青い瞳。冷たい美貌は何げに怖い。


 だけど自分より身分も歳も下の小娘にこれだけズケズケ言われてんのに、コイツは自分の意見を呑み込んで、怒りをきっちり抑えていた。そこはちょっと尊敬できる。もちろん、さっきまでのチャラ男な様子は今はどこにも見られない。


 これ以上反抗するのはさすがにヤバい気がするし、ここで頷かなきゃコイツら全員敵に回してしまう。

 もう遅いのかもしんねーけど。


 仕方がないのでアタシはコクンと頷く。

 でもまさか、それがあんなにシンドイ事になるだなんて……。


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