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囮なんかやってらんない

 私は悩んで、家の大広間を行ったり来たりしていた。

 まずい。非っ常~にまずい!


 先日のコレットさんとの会話は中途半端。ラノベだとかゲームだとか、ヒロインがどーとか恋する相手が誰だとか、全てがはっきりしていない。しかも彼女は兄の名まで出しておきながら、兄のオーロフが何の役割を果たしているのか説明してはくれなかった。結局何が言いたかったんだろう?


彼女は私に、「全員をフッたら殺されてしまう」と告げた。けれど、その恋愛対象の名前を誰一人として教えてはくれないので、これからどうするべきなのか、全くわからず途方にくれているところだ。




 ちなみにその日、勝手に城の人間と会ったことで、帰って来た兄にまたもや怒られてしまった。まあ、手巾(ハンカチ)を見せて理由を話したから、誤解は解けたんだけど……(もちろん私が『転生者』っていうのは兄には言ってない)。

でも、怒るんなら彼女を家に入れた執事にもちゃんと文句を言ってよね? なのに、『執事は信用がおけるから大丈夫』っておかしいでしょ。だったら私のせいじゃないから、あんなに怒らないで欲しいんだけど?

知らない人間と会っただけで警戒するのは、いかにも過保護。まったくもう、これだから保護者ってやつは……。


 そのオーロフ。さっき私にこう告げた。


「そろそろ囮として、本格的に活動しなければならない。近々城の舞踏会へ参加することにした」


 待て待て待て、その前に私の命が危ないんですけど?

 舞踏会なんかに出てのんきに踊っている場合じゃないんだわ。

 そう伝えたいけど、『こーとーむけー』な内容なのでどうにも上手く伝えられない。というより本当の事を言っても、「お前はバカか」と鼻で笑われるのがオチだ。


 ちなみに、私のダンスのパートナーが腹黒王太子ってどういう事?

 その方が囮としての価値が出るからってどういう意味?

 よくわかんないけど、もしコレットさんの言った事が真実なら、私にそんな暇は無い。兄とか王太子なんかに構っている暇があるなら、私は謎の『ヤンデレ君』を探したい。もしくはヒロイン交代をベニータ様に願い出るか。


……っていうか、小説版とかゲーム版とか難しい話をしていたけど、要は私がヒロインにならなけりゃあ丸く治まるんじゃね? 昔のセリーナちゃんならいざ知らず、今の私は大人しくも無いし病弱でも無いからヒロイン要素皆無だし。

美しくておとなしく、可憐なベニータ様こそヒロインには相応(ふさわ)しい。もし私が男で自分で好きな人を選べるんだとしたら、やっぱりヒロインにはベニータ様とかルチアちゃんとか、そういう上品で女らしい人を選びたい。



 あっそっか。いいこと思いついた! 

 舞踏会の日、先に城に行って図書館に寄れば良いんだ。


 コレットさんの話が聞きたいし、ヒロイン交代についてももうちょっと真剣に考えてもらいたい。だけど、彼女が私に会ってくれるかが大問題! 

 この前のあの反応だと、ヤンキー嫌ってたっぽいし。


 でも『マカロン』だか『アバロン』だかの話は、彼女にしかわからない。話をするため、強引な手を使っても……って、いかんいかん。拳で会話をしようとしたら、余計に怖がられてしまう。 


 彼女が絶対逆らえないような偉い人って、誰だろう? 

 うちの兄も偉そうだったし、ルチアちゃんは王女様だし。

 ああ、いたいた! あまり気乗りはしないけど――。

 王太子って次に王様になれるくらい偉いんだよね? 

 ちょっとチャラいけど、しゃーない。ちょこっと寄ってコレットさんへの果たし状だか紹介状だかを書いてもらえばいいか。


 それにしても、お城の舞踏会っていうからにはいろんな人が集まるのかな? もしその中に恋のお相手『ヤンデレ君』がいるのなら、腹黒王太子なんかは放っておいて、さっさとその人とお近づきになっとかなくちゃ。囮捜査よりもまずは自分の命。アタシだって結局のところ、自分が可愛い。


「何を百面相しているんだ?」


 兄のオーロフが聞いてきた。

 今日はこれからここで、ダンスの練習をする。だいぶステップとか動きがわかってきたので、2回に1回はまともに踊れるようにはなった。最初の頃に比べたら、すごい進歩! 兄のリードが上手いという説もあるけど、まあそこは私の努力という事にしておこうか。

 

「お兄様、楽しみですわね舞踏会」


 対策はバッチリ! そのせいか気分も良くなってきた。

 兄とのダンスにも慣れてきたし、一日の締めくくりにこうして兄妹仲良く話をするのも悪くない。

 差し出された手を取って笑う私に、兄はなぜか少し浮かない顔を見せた。自分で参加を決めてきたはずなのに……変なの!



 *****



 ――舞踏会当日。



 これでもかってぐらい親の仇のようにコルセットをぎゅうぎゅうに絞められたから、今日の私の腰はめちゃくちゃ細くて、胸は出血大サービス中!

 しかも今着ている青のドレスも結構際どくて、胸元がスクエアカットでざっくり開いているし、足元はレースが多くてスース―している。今日はパニエが入っていない分、大股でも歩ける……兄に早速怒られた。


 早めに行ってコレットさんを図書館で捉まえないといけないから、仕事に行く兄の馬車に同乗する。兄は結構お固いので、「ショールを羽織っておきなさい」と私に巻き付けた。どこで用意したんだ? これ。

 ……ってことは、このドレスは兄貴の趣味じゃないのか。まさかチャラ……王太子?




 王城に着くと、まずは兄の職場に案内された。何だかみんな忙しそうにバタバタしている。今日は外国からも大事なお客様がいらっしゃるとかで、外交官と協力して招待客のチェックとか、料理の好みがどうとかの確認を朝早くから職員総出で行うんだとか。


 あれ? じゃあ図書館の人たちも今日は忙しいんじゃあ?

 いきなり作戦失敗か? 


 王太子の姿は見当たらないし、職員たちに次々と指示を出している忙しそうな兄貴に頼るわけにはいかない。『果たし状』は諦めて、私は直接図書館に行ってみることにした。図書館って学校の図書室みたいなもんだよね? まさか、頭が悪いと入り口でブザーが鳴って、入れないって事はないよな。受付で名前を言えば良いのかな?


「あの……すみません」


 入ってすぐの所に案内係みたいな人がいた。彼女に尋ねてみよう。


「はい。……あ。セ、セリーナ様!!」


 コレットさんだ!

 そんなに怯えた目をしなくても……。

 今日は兄貴同伴だし、ここはお城の中だからケンカはしないよ? 

 別に拳で口を割らせようとは、思ってないし。


「コレット様、お願い! 私、あなたとどうしてもお話がしたいの。少しだけお時間よろしいかしら?」


 自分の命がかかっているから、私だって必死だ。

 彼女の袖をむんずと掴むと、舌を噛みそうな上品な言葉でお願いしてみた。

 泣きそうな表情の私に根負けしたのか、それとも表向きは伯爵家の令嬢だから逆らえないとでも思ったのか。彼女は近くにいた上官っぽい人に許可を取ると、私を図書館内の来客用の部屋まで案内してくれた。警戒しているのか、扉は開けたまま……ま、良いけどね?


「ええっと、それで……ご用件は?」


 椅子に座りながら、コレットさんが聞いてきた。


「その、この前のお話の続きなのですけれど……」


 こう言えばわかるよね? 

 そもそもあなたが言い出した事だ。そのせいで私は、結構悩んだり考えたりしちゃったから、最近食欲がなかった。デザートだっていつもなら全種類食べるのに、ここんとこ2~3種類しか食べられなかったし。


「ああ、『アルロン』のお話ですね? あれはどうか忘れて下さい。考えてみたら、セリーナ様はお義兄様以外のどなたとも出会っていないのでは? ストーリー自体が消滅していて、始まらないのかもしれません」


「兄貴……兄が何か関係致しますの?」


 あくまでも上品に。怖がらせないよう慎重に聞く。


「え? ご存知無いんですか? ああ、そうでした。セリーナ様は転生したとはいえ、お話を知らないんでずよね。もちろんオーロフ様も攻略対象ですよ」


「こーりゃく者って?」


 いまいちピンと来ない。

 侵略者ならわかるんだけど。

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