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運命の女性

 グイードとの交際(?)を渋々認めてくれた義兄だけど、まだどこか納得していない顔だ。勘の鋭いオーロフなので、私達のお付き合いが真実ではないと、すでに見抜いているのかもしれない。


 グイードの宣言通り、三日後に迎えの馬車が来た。

 彼の『運命の女性』は、城にいるのかな?

 王家の紋章付きの馬車は私を乗せて、城の敷地にまっすぐ入っていく。


「やあ、セリーナ。水色のドレスがよく似合うね。今日も女神のように美しい」


「グイード様ったら。そんなことを言えば、女神の怒りを買いますよ」


「ハハハ、まさか」


 迎えに出たグイードは、会うなり着ているドレスを褒めてくれた。

 実は彼の瞳に合わせて、この色にしたのだ。

 白い歯を見せて嬉しそうに笑うグイードと、隣で微笑む私。端から見れば、恋人同士に見えなくもない?


 つい調子に乗ってしまったが、すぐに気を引き締める。


 ――グイード様には『運命の女性』がいるでしょう? 私はただの練習台!


 私は小さく首を横に振ると、差し出された彼の腕を取った。ある部屋に案内されたので、相手の女性が待っているのかと思いきや、そこには誰もいない。


「セリーナ。せっかく来てくれたのに、一人にしてすまない。急ぎの仕事を片付けてくるから、ここで待っていてくれないか?」


「わかりました。お仕事、頑張ってくださいね」


 テーブルの上に目が釘付けだけど、品良く応えた。

 だって縁が金色で白のテーブルクロスの上には、美味しそうな大量の焼き菓子と香り高い紅茶が用意されていたのだ。


「ありがとう。それからこれは、君のために用意させた茶菓子だ。遠慮せず、楽しんでくれ」


「まあ、ありがとうございます♪」


 全種類試すだけでも時間がかかりそう。

 これなら余裕で待てる。

 さすがはグイードだ。女性のツボをよく心得ている。




 ドアの閉まった音を聞き、早速タルトに手を伸ばす。

 (なめ)らかなクリームの上には、オレンジの果肉がこぼれそうなほどたっぷり載っていて、見るからに美味しそう!


「いっただっきまあ……」


 大口を開けた私は、ふと背中に視線を感じた。

 振り返ると、扉の前に人がいる。それは、淡い緑の髪を結い、緑と黒のドレスを着た線の細い美女だった。いつの間に入ってきたのかな?


「ええっと…………」


「あなたがセリーナ様?」


 美女にいきなり訊かれて、私は驚く。

 初対面だし名乗ってもいないのに、どうして知っているのだろう? 

 いや、待てよ。人に尋ねる場合は、まず自分からだよね?


「そうですけど、あなたは?」


「わたくしのことはいいの。グイード様はさっきまで、この部屋にいらしたのよね?」


「……はい」


 答えながらもムッとする。

 彼女もグイードのファンかな?


「……そう。最近お姿を見ないと思ったら、グイード様はあなたにご執心だったのね」


 そこで私はピンときた。

 この人がきっと、グイード様の『運命の女性』だ!


 もっとセクシーで大人っぽい感じを予想していたけれど、その女性は上品かつ可憐(かれん)な印象で、背格好が私と似ている。自分で言うのもなんだけど、顔は私の方がおとなしめ。品は……残念ながら、中身は私だ。


 女性がつかつか歩み寄ってきたため、私は構えた。

 ――両手の拳を、身体の前で。


 女性は、そんな私を見て目を丸くする。


「……どういうこと?」


「どういうこと、って? 知らない人がいきなり近づいてきたら、警戒するのは当たり前ですよね?」


 とげとげしい口調になったけど、グイードの愛を独り占めする彼女を敵視したわけではない……と、思いたい。


「ああ、そういうことね。ごめんなさい、気ばかり焦っていたわ」


 ――おや? 素直に謝るなんて、案外いい人?


「わたくしはエレノラ・グラン。グラン伯爵の長女よ。隣、よろしいかしら?」


 なんと、うちと同じく伯爵家! 


「ええ、どうぞ」


 私は(うなず)き椅子を引く。

 それにしても、()()()ってどこかで聞いたような気が……。


「そうか、飛竜の名前だ!」


「あら、ご存じなのね? 黒い翼が雄々しくて、彼のように美しいでしょう」


 グイードを『彼』と呼ぶ彼女は、相当親しい仲みたい。

 私の予想は間違っていなかった。

 どうやら彼女も、グイードの飛竜に乗せてもらったらしい。 

 運命の人なら当然だけど、あの感動を味わったのが自分だけではないと知り、胸が痛む。


 ――グイードが飛竜を「グラン」と名付けたのは、彼がこの人を想っているから? 


 思わず言葉がこぼれ出た。


「あの、教えてください。グイード様の飛竜が、グランというのは……」


「ふふふ、もちろんうちから取ったのよ。卵の頃は、あんなに大きくなるとは思っていなかったけどね。よほど大事に育てたのでしょう」


「卵? 大きい?」


「ええ。彼とわたくしは、昔からの知り合いよ。そしてグランとは、大きいという意味なの」


「へええ~~」


 ……って、感心している場合じゃないから。

 昔からの知り合いってことは、この人いくつ? 


「若く見えるけど、実際は違うのかな?」


「わたくしのこと? ふふ、まあグイード様よりは年下、とだけ答えておくわ」


 なんと、疑問が口に出ていたらしい。

 グイードは二十七歳だから、エレノラはそれより下で私より上。

 しかも美人で品が良く、話してみると気さくだ。

 幼なじみで気心も知れている仲なら、圧倒的に私の負け。というか、初めから勝負にもなっていない。


 ――これならグイード様は、私と契約しなくても良かったんじゃ?


 あれ? 初めと言えば……。

 

 ふいに、グイードの言葉を思い出す。


『想う女性がいるものの、本気の恋は初めてで、情けなくもあと一歩が踏み出せない』


 ――昔からの知り合いなら、どうして初めてと? 今頃になって、彼女への想いを自覚したっていう意味?


 それなら私の役割は、彼女の気持ちを聞くことだ。

 すでに両想いなら、始まる前に終わる。

 たった三日で契約解消はつらいけど、私には好きな人の役に立ちたいという願いもあった。


「あの……。つかぬことを伺いますが、あなたはグイード様のこと……」


 どう思っていますか? と言いかけ、慌てて口を閉じた。


 グイードの知らないところで彼への好意を探るのは、果たして正しいことなのか? 

 彼への想いを、私が聞いていいものなのか?


 恋愛経験ゼロなので、こんな時には答えがわからず困ってしまう。


「大事よ。だからこそ、わたくしは彼を……」


 察して応えたエレノラだけど、途中で言葉を切った。


「愛している」と伝えたかったのかな?

 相手が私なので、思いとどまった?


 すると、彼女は思い詰めた表情で向き直る。


「よく聞いて。グイード様は危険だわ。できればすぐに、離れなさい」


「……え?」


『転生したら武闘派令嬢!?~恋しなきゃ死んじゃうなんて無理ゲーです』

濃い展開の書籍版全4巻、おかげさまで発売中です\(^O^)/

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