領主夫人の大事なお仕事1
いつもありがとうございます。
長くなったので、分けました。
――領主夫人の大事なお仕事?
疑問に思い、首をかしげた。
ジュールは私の背中に手を添えて、ベッドに寝かしつけてくれる。
――全く眠くないし、医者も問題ないと太鼓判を押してくれたのに。教えてくれると言いながら、どうしてこんなこと?
「結婚前は嫌だという君の意志を尊重したら、少ししか教えられないね」
ジュールは私の目を見据えながら、自分のシャツのボタンを外す。そのままベッドに乗り上げて、私を見下ろした。
「なぜこの体勢…………まま、まさか!」
「その、まさかだよ。跡継ぎを作るのだって、大事な仕事だ。君と僕の子供なら、きっと可愛いね」
ジュールの綺麗な顔が迫り、唇が私に重なった。
最初は浅く、だんだん深く。
全てを奪うような口づけは激しくて、頭の芯まで痺れそう。
「も……もう……」
「もういいってこと? 今すぐ僕のものになりたいのかな?」
「ち、違っ……」
首を横に振ろうにも、ジュールが私の頭のてっぺんに手を置いている。焦って必死に目で訴えかけると、彼はいたずらっぽく笑う。
――私達は結婚前でしょう? それともこれが、普通なの?
恋愛経験ゼロの私は、恋人同士の常識が全くわからない。テレビや漫画の恋愛は、フィクションだと思う。本物の恋人達って、結婚まではキス止まりじゃないの?
ふと気がつけば、彼の手が私の胸元にかかり、寝衣の紐を解いている。
「ちょーっと待った! 寝てばかりで不健康だから、そろそろ起きて着替えようかと……」
「だ~め。今日一日はベッドにいろって、医者がそう言ったでしょう?」
それは、こんな意味ではないような。
可愛く罪のない表情で、ジュールが首をかしげる。その一方で彼の手は動きを止めず、私の寝衣を押し広げた。彼は目を細めると、顔を伏せてむき出しの肩にキスをする。
「ふあっ……」
くすぐったくて、変な声が出てしまう。金色の頭を掴んで押し戻そうとするけれど、びくともしない。その間にも彼の唇は私の肌の上を滑って、胸元まで下りていく。
「……ああ、あの、その!」
「セリーナ、すごく綺麗だよ。意識のない君の側で、僕は幾度となく眠れぬ夜を過ごした。元気になった君とこうしているなんて、夢のようだ」
かすれた声に切ない響きを感じ取り、途端に私の胸が大きく跳ねた。鼓動が激しく頭に血が上り、耳の奥がジンジンする。
直後、私の肌にピリッとした痛みが走った。
「……つっ」
「ごめん、ひどくするつもりはなかったんだけど。ああ、やっぱり。滑らかで美しい肌には、赤が映えるね」
よく見れば、胸元にうっすら赤い痕がある。
これってもしかして……いや、もしかしなくてもキスマーク、だよね?
「あの! ここまでするのは、いかがかなものかと……」
「どうして? 君が僕のものだという印を付けなきゃいけないだろう? ここまでというより、ここからが本番だよ」
彼が楽しそうにクスクス笑う。
ジュールは眠ったままの私に付き添って、世話をしてくれた。清拭や着替えなどで私の身体を見慣れているはずなのに、今なお美しいと囁く。
かすかな痛みを愛情の印だとするならば、恥ずかしいけど耐えられる。だって私は彼以上に、彼を必要としているのだ。
ジュールが触れたところから、身体がだんだん熱くなる。火照った肌に彼の手や熱っぽい吐息を感じ、ドキドキしすぎて息ができない。
彼はそんな私に気づくと、髪を優しく撫でてくれた。泣きたいほどに嬉しくて、私は落ち着くために深く息を吸う。
感謝を込め、琥珀色の瞳を見つめた。
すると彼は私の手を取って、手の平にキスをする。
「セリーナ、愛しているよ。一日も早く結婚したいな」
「ジュール様、私も……私も愛しています」
溢れるほどの想いを告げて、私はそっと目を閉じた。
*****
「はっ、はっ」
「えいや、とうっ」
「せいっ」
初夏の爽やかな日差しが、緑の庭に降り注ぐ。海の見える城の庭では、先ほどから勇ましい声が響き渡っていた。古かった城は修繕されて、今は見違えるように美しい。その城を背に、私は声を張り上げる。
「まだまだ。素振り、あと千本!」
「ええ~~」
「まだ終わりじゃないのー」
その場にいた子供達から、たちまち不満の声が上がる。私は苦笑し、肩をすくめた。
「諦めるなら、それでもいいわ。だけどあなた方は、将来領主様のように立派な騎士になりたいんでしょう?」
「そうだけど……」
「奥方様、厳しすぎるよ」
「何を言っているの。基礎ができていないと、あとから苦労するわよ」
自分の経験に置き換えて、彼らを諭す。
村の子供達は週に一度、こうして剣術教室に通っている。もちろん希望者のみで、辻馬車の送迎付き。かかる費用は全てこちら持ちだし、身体を鍛えられると人気のためか、近頃数が増えてきた。
先生を雇うこともあれば、こうして私が指導する時もある。ちなみに私は、ジュールに散々稽古を付けてもらったので、彼の折り紙付きだ。
とはいえ、今は木剣を持っているだけ。
実践には参加できない理由がある。
ジュール編、あと一話で終了します_φ(・_・