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見学は危険がいっぱい

銀色の騎士様……いんや、その正体はなんと腹黒王太子!

 彼は兜を取った瞬間、頭をプルプルと振って汗を吹き飛ばすような仕草をした。その様子すら爽やかで……って、断じて見惚れてたわけじゃないからね!


隣のエミリアはポーッとした顔をして目が離せないようだ。まあ、イケメン見たらこの反応が普通なのかもしんない。だけど、模擬戦終わったらすぐに移動したいような事言ってなかったっけ? さ、正体見たからさっさと戻ろう。ぐずぐずしていたら、またおもちゃにされるか冷たい視線にさらされそうだ。




 銀色王太子は顔だけでなく目も良いらしく、私達に視線を向けると片手を上げてニッコリ微笑んだ。案内係のエミリアが「きゃっ」と声を漏らしたから、彼女に挨拶したのかもしれない。私はもちろん気づかないフリで、目を逸らすことにする。

 それなのに、あろうことか優男……だと思っていたけど今は違う……の王太子が、馬首をこちらに巡らせて騎乗したまま近づく。


「セリーナ、久しぶり。そういえば今日だったね。宝物庫はもう案内してもらった?」


 人前で名指しで話しかけるの止めとくれ。おかげで無視できないじゃない!


「王太子サマ。ご無沙汰しております。いえ、まだ……というより、宝物に興味はございませんの。こちらにいるエミリアに武器庫に案内していただいたので、もう十分ですわ!」


 きっちりと膝を折って挨拶したものの、かなり逃げ腰。アタ……私に気なんか遣わなくて良いから、さっさと行っちゃっておくれ。


「そうなの?」


「はい。残念ですが私の権限では、ご満足いただける稀少な武器はお見せすることができなくて……」


 エ、エミリアさん? 余計な事は話さなくて良いんだよ? 私はもういいから。武器庫に武器が少なくたって大満足! さ、おしゃべりはもう良いからさっさと移動しよう。


 来んな~、来んな~と念じていたにも関わらず、王太子は馬を降りると近くにいた者に手綱を預けて、こちらに歩み寄る。


「そう、じゃあ私が案内しよう。一緒に来てくれたら、すぐに着替えて連れて行ってあげるね」


「いいえ、滅相もございません! 王太子サマこそ模擬戦でお疲れでござんしょう? お茶の時間に遅れますし、私はもう十分でございますったらございますの」


 焦るあまり変な言い回しになってしまったけれど、仕方が無い。ここはとっとと逃げるに限る!


「そうなの? でも、残念だな。稀少な武器は宝物庫の奥に収めてあるから、案内できる人間は限られているんだよね。見せたかったな~ドラゴンソードとかエクリプスの槍とか迅雷の弓」


 え? 何それ?

 名前聞いただけで強そうに感じる武器って……。

 いかんいかん。心惹かれるけど、今のは聞かなかったことに。

 



 私がピクッと反応したのがわかったのか、王太子がさらに追い打ちをかける。


「ああ、そうだった。戦神のメイスも竜王の盾もあったっけなあ。棍棒はええっと……修理から帰ってきたばかりだけど、トロール王が愛用していた品だったっけ」


「……く」


「え?」


「……に行く」


「よく聞こえないんだけど?」


腕を組んでわざとらしく首を傾げる王太子。

銀色の髪がサラリと流れて目にかかる。


「もう! 一緒に見に行くって言ったんだよ、どちくしょう!!」


 し……しまった、つい!




 案内係のエミリアが瞠目してびっくりした顔をしている。対する王太子はとっても嬉しそう。前髪をかき上げながら笑っている。まあ、前回で私の口の悪さはわかっているから、あまり驚いていないのかもしれない。

でも、見た事の無い武器につられるって我ながら情けない。王太子の案内でなけりゃもっと楽しめるのに……。


「じゃあエミリア。そういうわけだから、ルチアにお茶の時間に遅れるって伝えておいてね? 手間をかけさせて申し訳ないけど、よろしく頼むよ」


「は、はい。もちろんです! あ……あの、どうぞごゆっくり」


「ああ。ありがとう」


 おいおいエミリア、お前もか。

 腹黒王太子の思い通りに動いてどうする? それに、「ごゆっくり」って言葉の使い方おかしいでしょ。ちゃっちゃと見に行ってパッパと終わらせるから大丈夫だよ?



*****



 そう決めてたのに現在私は王太子の居住スペースで、なぜかヤツの着替え待ち……っていうか、衛兵も心得たものでさっさと通してくれちゃったけど、こいついっつも女性を気軽に自分の私室に連れ込んでるのか? だったらやっぱりチャラ男じゃん! 何が悲しくてこんな所で待っていなくちゃいけないわけ? 

ふかふかの椅子に腰かけてぶすっとしながら待つ私。お宝相当の武器までの道のりが、えらく遠い。


「もうちょっとで終わるから。待たせてごめんね?」


 髪につく水滴がキラキラしていて目に眩しい。

『せ……先輩!』『どきっ』とかって何かの漫画で出てきそうだな?


 そんなシーンがお似合いのお風呂上がりの王太子サマは、なぜか上半身裸でいらっしゃる。おいおい、気軽にそんなカッコで腹ぁ壊したり狙われたらどうする? 見事なシックスパックは拳ぐらいじゃあ揺るがなそうだけど、刺されたらわかんないぞ? というより待ってやってんだから、筋肉見せびらかすよりお前はさっさと着替えろ! ……まあ、鍛え抜かれた身体は個人的には嫌いじゃないけど。


 王族で甘えた生活をしているかと思いきや、この部屋には女官も従僕も一人もいなかった。ってことは、自分で風呂に入ったり一人で着替えたりできるってことね? アタシ……私の元いた世界では当たり前のように自分でできていたことが、この世界の貴族どもはなぜか手伝ってもらうみたいだから。だから少しだけ意外に思ってしまった。




「ねえ、セリーナ。ちょっとだけ着替えを手伝ってくれないかな?」


 ほら、ね? やっぱり一人じゃだめみたい。

 あれ? だったら何でこの部屋他に誰もいないの?

 まあいいか。さっさと着替えてとっとと行くぞ!


 私は王太子に近づいた。

「手伝え」って言われたけれど、実はほとんど着替えは終わっていて、袖の手首の部分の金色の飾りボタンを留めるぐらい? だったら自分でできそうだし、開けっ放しでもいいんじゃあ……?

 立って腕を差し出してくれりゃあ留めやすいものの、王族だからかしんないけれど、長い脚を組んで長椅子に腰かけたまま。腕を曲げて手首をわざとお綺麗な顔面の前に寄せている。


 肘をなるべく突っ張ってはめてあげようとしたけれど、飾りボタンは複雑でちょっと凝った作りになってるためか、なかなかはまってくれない。仕方が無いからなるべく顔を見ないようにして意識をボタンに集中する。今のアタシはきっと寄り目だ。


 なぜか楽しそうな王太子。風呂上がりのせいかとても良い香りがする。あ、別に痴女じゃないよ? ただの感想!


 でも、絶対わざとだ。わざとアタシを困らせようと、複雑なボタンの衣装を着たんだね? 自分でできないなら、一年中半袖着てろって言いたい。それか、ちゃんとした城の女官に手伝ってもらうおうよ。

 



「可愛いセリーナ。警戒しないのは君の良い所だと思う。だが、この体勢は他人の目にどう映るだろうね?」


 ん? 長椅子に座る王太子に、アタシがボタンを留めてやってる。それ以上でも以下でもないけど? 本気でわからず首を傾げた。



「わからないなら、こうしたらどう?」


 言うなり王太子はくるりと身体を反転させ、長椅子の方にアタシの身体を押し付けた。


「もうっ、片方終わってたから、あともう少しだったのにぃ!」


 急に椅子に座らされ、ムッとしながら上を向く。うわっっ、近いよ、顔! 両手で椅子の背もたれを持つって、一体何がしたいわけ?


 逃げられないしイラッとする。私はどこか攻撃できそうな箇所はないかと、わき腹や首元、みぞおちの辺りを目で探ってみた。どこならワンパンでいけるかと一生懸命考えているアタシは、きっといつになく真剣な表情をしているに違いない。


「ああ。全くわかっていないね? そんな所も可愛いけれど……」


 王太子が妙に整ったツラ……お顔を近付けてきた瞬間、「チャンス!」と思った。私は拳を固めて、肩の部分に鋭く打ち込む。

 なのに、あっさり手の平で止められた。

 ――くっそう。


「ふう。手厳しいね? でもまあ、警戒するのは良い事だ。さあ、さっさと宝物庫に行こうか」




 囲いを解きながらそう言うと、自ら残りのボタンをはめだした。

 なんだ、自分でできたんだ。

 一人でペラペラしゃべくって、アタシを相手に椅子の上で格闘しようとしたりして、結局王太子は何がしたかったんだ?


 わけわかんないまま私室を出て、ようやく武器を見に行けると王太子の後ろにいそいそと付き従う。

 そんなアタ……私達を見ていた女官や兵士たちのせいで後から噂になっちゃうだなんて、この時の私は知る由も無かった。

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