私は幸せです
親愛なるコレット様
毎日いかがお過ごしでしょうか?
みなさまもお変わりありませんか?
おかげさまで私は元気です。
ようやくいろいろ思い出し、その上オーロフと婚約までしたの!
びっくりしたでしょう?
私達は海の近くのとっても素敵なところで、楽しく暮らしています。
オーロフには、国王となったヴァンフリード様から「戻って手伝ってくれ」と、再三に渡って指示が来ているみたい。だけど、当の本人に戻る気はまったくない様子です。
私はまあ、一緒にいられるならどこに住んでも良いんだけど……
結局『ラノベ』のことはよくわからなかったし、最後がどうなるのかも忘れてしまいました。でも彼といるせいか、特に危険は感じません。一度住んでいる家のバルコニーから落ちてしまったけれど、海には沈まず漁師にも助けられなかった。
そもそも崖下に洞窟なんてなかったし。グイード様の乗る飛竜に助けられ、オーロフともくっついたから、話はこれで終わったってことでいいのかな?
そうそう、報告があります。
昨日、手合わせした時に、初めてオーロフの裏をかくことができました! まだ倒せはしないものの、結構いい線いってたと思う。剣術の腕が上がり、すっごく惜しいところまでいったの。
ここは景色も良く空気もきれいだから、健康になって段々強くなっている気がします。あともう少しで一回くらいは勝てるかも! 腕立て伏せの回数を、増やさなくっちゃね。
そんなわけで、毎日とても充実しています。コレットさんも是非、旦那様と一緒に海辺の古城に遊びに来てね。オーロフと二人で歓迎します。
感謝を込めて セリーナ
追伸:優しいみんなに守られて、私は幸せでした。もちろん今も幸せです!
*****
「どうしたの? コレット。何を嬉しそうに読んでいるんだい?」
「あら、アルム。ちょうどいい所に来たわね。嬉しい報せよ! 二人は婚約したんですって!」
私――コレットは夫のアルムに、今朝届いた手紙を見せた。彼は文面にちらっと眼を走らせ、私に問いかける。
「君が気にかけていたあの子? 水色の髪の可愛らしい子だったね。ええっと、名前は確か……」
「セリーナよ! 『ラノベ』の通りにくっついて良かった。とても幸せだって、手紙に書いてあるの」
ラノベとは、私の前世の愛読書である『夜明けの薔薇~赤と青の輪舞曲』略して『アルロン』のことだ。
「ラノベって……君が前に読んだことがあるって言っていた、不思議な本のこと?」
「ええ。この世界とすごく似ている恋愛小説よ。とても素敵でちょっと複雑な話なの。でも良かったわ。セリーナとオーロフとの組み合わせは、最良だもの!」
「ええっと、その小説に出てくる登場人物と彼女達が、よく似ているってことだったっけ。でも、最良とはどういうことだい?」
夫のアルムに詳しい事情は話していない。彼は元々この世界の人間で、私とセリーナのように前世を覚えているわけではないから。
「あのね、以前伯爵家でセリーナの話を聞いて、わかったんだけど。彼女、誰かに嫌われたり捨てられるのを、極端に恐れているみたい」
「僕だって、君に捨てられたくないな」
「そうじゃなくって真剣に! だけど、オーロフなら絶対安心よ」
「ひどいな、コレット。僕の愛を疑うの?」
「バカね、違うわよ。あのね、彼はヤンデレ……って言っても通じないわね。ええっと、とにかく登場人物達は、ヒロインへの愛がものスゴイのよ」
ラノベ版では、出てくるヒロインはセリーナ一人。対してヒーローというか、攻略対象となるイケメンは四人。全員ヤンデレで、それぞれの要素に特化している。ラノベの『アルロン』は、その中の一人とくっつくというストーリーだ。
「たとえばよ? 絶対に捨てられたくない人に合う相手ってどんな人?」
「え? なぞなぞかい? ええっと……すぐに構ってくれる人。捨ててもすぐに拾う人」
「違うわ」
「じゃあ、物持ちがいい人?」
「うーん。惜しいけど、まだまだね」
「何だい? 答えがわかっているのなら、教えてくれると嬉しいな」
「そうね。正解は『束縛』する人! オーロフの束縛は、それはもうすごいの」
考えれば考えるほど、とても良い組み合わせだ。
大事なヒロインを、常に自分の管理下に置こうとするオーロフ。ヒロインを独占し、なるべく二人だけで過ごそうとして、他は目に入らない。閉じ込めはしないものの、一人では外出させずについていき、他の男性を見るのも嫌がる。
捨てるなんてとんでもない!
彼はそんなこと、考えもしないだろう。
「幸せだって言ってるってことは、彼女はたぶん気づいていないのね。もしかしたらヒロインが一番、彼に『束縛』してもらいたいのかもしれないわ」
ヤンデレに愛されながら、ヤンデレだって気づいていないセリーナは幸福だ。しかも、言葉を教えていてわかったけれど、オーロフはセリーナのことを本当に大切にしている。ヤンデレとはいうものの、彼女の嫌がることなど絶対にしないだろう。
私は同じ転生者として、心から応援している。元ヤンだったと言うけれど、心優しい彼女には、幸せになってもらいたい。
「君が楽しそうで、僕も嬉しいよ」
「私も。あなたくらいがちょうど良くて、素敵よ」
本心から言い、私は笑う。
手紙を胸に当て、セリーナとオーロフの幸福を願った。
次回、オーロフ編の最終話です(〃ω〃)