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ミナトとミサキ   作者: トマトケチャップ
第一章 出逢い
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第六話 交換

「あれ……? あの子たしか……」


 玲奈も美咲の視線を追ってこちらを見て固まっている湊を見つけた。その面影は一時間ほど前にすれ違った男子生徒を記憶の底から掘り返した。


 玲奈は湊から視線を外し美咲の顔を見る。彼女も湊と同じように固まっていた。


「ははーん。なるほどねぇ」


 玲奈は勘が良いのか全てを悟り、嫌らしい笑みを浮かべた。


「ねぇ美咲。ちょっと彼のところ行ってみない?」


 視線はこちらに背中を向けた湊にやりながら美咲に提案する。


「え!? な、なんで?」


 突然玲奈に湊のところへ行かないかと言われ、素っ頓狂な声をあげた。


「別にいいじゃない。ささ、行きましょ」


 玲奈が美咲の手を取り、湊のところへと連れていこうとする。


「ち、ちょっと、止めときましょうよ!」


 しかし、美咲の制止は全く聞かず歩き出す。ゆいも玲奈に引っ張られながら歩いている美咲の後に続く。


 湊が座っている場所はそんなに遠くない。すぐに三人は湊の前まで来た。


「こんにちわー。九条くんだよね?」


 玲奈は美咲が1時間前に彼を呼んだ名前を覚えていた。


 湊がゆっくり顔を玲奈の方に向け、その後にチラッと美咲とゆいを見る。


「そうですが……、なにか用ですか?」


 不機嫌そうな声で玲奈に聞く。


「昨日は美咲がお世話になりました」

「なっ……!?」


 美咲は玲奈がなにを言うのかと緊張している中で、玲奈が爆弾発言をかましたので驚き、焦った。


「なんのことですか?」


 湊は玲奈の言葉を聞いても依然、不機嫌そうな声でそう嘯く。


「俺のこと知らない振りしてくれ……でしょ?」


 さっき美咲に言わせた言葉を玲奈が言い直す。その言葉を聞いた瞬間、湊は美咲を睨んだ。


「おい……」

「ち、違うの! 嵌められたのよ!」


 湊がさっきよりも低い声を出すと、美咲は慌てて誤解を解こうとする。


 湊は、ハァーっと大きな溜め息を吐き、


「あんたバカなのか? あ、いやバカだったな。悪かった」

「そんな真剣に謝られても困るんだけど!?」


 バカじゃないのかと言い、バカだったことを思い出した湊は、真顔で美咲に謝った。


「で、いったいなんの用なんだ……?」


 さっきとはまるで違う言葉使いで、さっきと同じ質問をする。


「いろいろと美咲があなたと話したいみたいなんだけど……、まず一緒にお昼ご飯食べない?」

「……もう食った」

「そんな細かいことは気にしないで。ね?」

「細かくねぇよ」


 湊の主張は無視して玲奈は湊の隣に座った。


「ほら、美咲とゆいも座りなよ」


 二人を見上げながら、ぺちぺちと床を叩く。その言葉に従い、まずゆいが座り、その後に美咲が遠慮しながらも座った。


「おい。間接的に俺は嫌だって言ったんだぞ。理解しろよ」

「ご、ごめんね。玲奈って結構強引なところあるから……」


 美咲は湊を見て、申し訳なさそうに謝る。湊は再び溜め息を吐いた。




「それで話って?」


 三人が弁当を開け、湊がコーヒーを一口飲んだところでそう尋ねた。


「その前に自己紹介がまだだったわね」


 思い出したように玲奈が言う。


「私は安藤玲奈」


 玲奈は、「で」と言いそれからゆいを見た。


「瀬川ゆい。よろしく」


 ゆいが玲奈の意思をちゃんと受け取って彼女も自分の名前を抑揚のない口調で言った。


「わたしも言った方がいい?」

「いや、構わない」


 湊は美咲に首を振る。


「俺は九条湊だ」


 二人と一応美咲に向けて湊も自分の名前を言う。


 自己紹介も終わったので、三人を視界に収めて、不機嫌そうに改めて問う。


「それで何の用なんだ?」

「え、えっと……」


 美咲は言うか言わまいか迷ったが、よし!と意を決して湊の目を真っ直ぐ見た。


「昨日のことなんだけど、どうして知らない振りをしろって言ったの?」

「別に大した事じゃない。あんたと知り合いだってバレたらめんどくさいだろ?つか、人と関わるのがめんどくさいだろ?」

「人に関わるのがめんどくさいって……」


 理由ってそれだけ……?


 美咲は湊の言葉を聞いて唖然とする。しかし、玲奈は湊に一理あるなと思い首を縦に振る。


「まあ確かに、男子が美咲と関わりがあるっていうのはめんどくさくなりそうだね。実際、中学の頃一悶着合ったしねぇ」

「うっ……」


 美咲は中学の時の嫌な記憶を思い出して唸った。


「でも人と関わるのも嫌って、キミひねくれてるね」


 共感したのは前半だけだ。さすがに、人と関わるのがめんどくさいっていうのは共感できない。


「別に分かって欲しいとは言わないさ」


 湊は肩を竦めた。


「ふーん……。だからこんなところで一人でお弁当食べてるのね。友達いないんだ」


 玲奈が湊を見て、納得したみたいな顔をした。湊はバカにされた様に感じて、ちょっとムッとした。


「いないんじゃない……。作ってないんだ」


 玲奈はやれやれと首を横に振る。


「友達がいない人って、みんな作ってないんだって言うのよ」

「……うるさい」


 正論で返す言葉がなく、苦虫を噛み潰したような顔をした。


「じゃあ私たちが友達になってあげる」

「だから、あんたらと知り合いになったらめんどくさいことになるんだって……」

「ばれなきゃいいんでしょ? 美咲とゆいもいいよね」

「うん」

「わたしも構わないけど……」


 ゆいが頷き美咲もその後に続いた。湊はまたしても溜め息を吐く。


「友達にはならない……」

「頑固だなあ……、キミは」


 玲奈は湊が意固地になっていると思い、呆れ返った。だが決して我が儘とか腹が立って意固地になっているわけではない。


「頑固なんじゃない。前に決めたんだ。もう友達は作らないって」


 湊がそう口にした時、湊は玲奈の方に顔を向けているがその目はどこか遠いところを見ているようだった。


「ふーん……。じゃあ今は友達にならなくていいから、とりあえずキミのラインを私たちに教えてよ」

「…………ま、まあそれくらいならいいが……」


 深く考え込んでから承諾した。


 玲奈は返事を聞いてから肩に掛けていた手提げのバッグを開け、ゴソゴソとバッグの中からスマホを取り出した。玲奈に続き、美咲とゆいもスマホを手に持つ。


「キミも早くスマホ、出して」

「あ、ああ……」


 玲奈に言われ、慌てて湊はポケットから取り出した。


「どうやって交換するんだ?」

「貸して」


 玲奈にスマホを渡す。玲奈はしばらく湊のスマホの画面をタップし続けた。そして、準備が出来たのか湊のスマホと玲奈のスマホを少し離して重ねるようにする。


「……、オッケー。じゃあ次美咲かゆいね」

「ゆい先でいいよ」

「ん」


 玲奈が湊のスマホを持って、ゆいは自分のスマホをさっき玲奈がしていたようにした。


「……、美咲、いいよ」


 ゆいもラインの交換が終わり、最後は美咲だ。美咲も玲奈が持っているスマホに二人と同じようにした。美咲と玲奈、二人が美咲のスマホの画面を交換が終わるまで黙って見ていた。しばらくすると、交換が終了したという文字が美咲のスマホに写る。


「はい。終わったわ」


 湊にスマホを返す。


 スマホを受け取り、湊は友だちのところに3という数字があったので、友だちのアイコンを押した。湊は感慨深げに表示された友だちとその数を見た。


「おー……。友だちの数が一機に4倍になった……」


 湊の言葉を聞いて3人が、はっ?というような顔をした。


「九条くん……。今、なんて?」


 美咲が聞き間違いだよね? と思いながら問う。同時にそうであって欲しいという気持ちが多分に含まれていたが。


「いや、だから、一機に4倍になったって」

「いやいやいや………、え? えっ? それってつまり……、私たち3人で4倍になったってことだから、今の友だちの数ってもしかして4人?」

「ああ……、さっきまで1人だった。その1人も妹だけどな」


 美咲がこめかみに指を当てながら、頭痛を堪えるように湊に確認した。湊は肯定し、しばらく沈黙が4人を支配する。


 その沈黙を破ったのは玲奈だった。


「……本当に友達いないんだね……」


 玲奈は、いや、玲奈たち3人は友達がいないといってもこの学校だけで、中学の時の友達とかはいるのかと思っていたのだが、まさか本当に友達がいないとは思っていなくて唖然とした。


「だから言ったろ……。人と関わるのはめんどくさいって……」


 美咲のスマホには友達リストの一番上にさっき追加された湊のラインが表示されている。美咲はそこをタップした。すると、湊が設定しているトプ画と背景が大きく画面に映る。だが、美咲は湊の背景を見て首を傾げる。


「ねえ、九条くん。この2人って誰?」


 湊の背景は高校生か中学生ぐらいのとんでもない位の美形の男女が写っていて、女の子の方は可愛らしく微笑んで、ピースをしている写真だった。


 湊のラインの背景なのだから、普通は本人が写っているだろう。だけど、あまりにもこの写真に写っている男子と湊が違いすぎているのだ。


「それ私も思った」

「わたしも」


 玲奈とゆいも美咲と同じように湊の背景を見ていて、二人とも首を傾げていた。


「好きなモデルさんとか?」


 好きなモデルを背景にするのは変わっているがそのぐらいが妥当だろうと玲奈は思い言ったのだが、見当外れもいいところだった。


「何言ってるんだ……? それ俺だ」


「「「え?」」」


 ポカーンとしたような顔で3人の声が重なったのだった。


 

 

 





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