表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミナトとミサキ   作者: トマトケチャップ
第一章 出逢い
4/28

第三話 おんぶ

 時刻は午後7時すぎ。


 外は暗くなり、部活をしている生徒はもう疎らだ。


「副会長、そろそろ帰ろう」


 湊はベッドで寝ている美咲の肩を叩く。美咲はゆっくりと目を開ける。


「もう……帰れるの?」

「ああ、もう大丈夫だろ。それに、そろそろここも閉められるかもしれない」

「そうだね」


 湊は、ついさっき買ってきた冷たいお茶を美咲に渡す。


「水分とっとけよ」

「あ、ありがとう」


 美咲は素直に受けとり、蓋を開け一口だけ飲む。


「気分は?」

「少し寝たからましになった……と思う」


 頭を押さえながら言う。だが、やはりまだ辛そうだ。


「やっぱり一人で歩くのは無理そうだな」


 美咲はコクッと首を縦に振る。寝たからかは分からないが、寝る前よりも素直になっている。


「じゃあ俺が運んで行ってやる。家って学校から遠いのか?」

「そこまで遠くはないけど、普通なら自転車で通う距離かな……。一緒に来てる友達が歩きだからいつも歩いてるんだよ」

「うーん……、なあ」


 湊は考える素振りをして、


「副会長って何キロ?」


 すると美咲は「はあ!?」と言い、少し紅潮した。


「な…なにを言い出してるのよ、あなたは!」


 そんな美咲の言葉を湊は完全にスルー。


「まあ大丈夫か……。よし、副会長。ブレザー着てくれ」


 美咲は寝る前にブレザーを脱いでいた。ブレザーを着て寝るのは寝心地が悪いだろうからだ。


 美咲に彼女のブレザーを渡し、美咲はそれを着る。


「じゃあ、俺に乗ってくれ」


 湊は腰を下ろす。美咲はベッドに座っているためちょうどいい高さだ。


「ね、ねえ。ほんとにそれで帰るの?」


 美咲は顔を紅潮しながら湊に聞く。


「じゃあ逆に聞くけど、一人で帰れんの?」


 呆れたような顔をして──美咲には見えないが──美咲に聞く。


「う……」


 美咲は湊の質問に唸った。


「ほら」


 その口調はまるで早くしろという様な感じだった。


「わ、分かったわよ!」


 そして、恥ずかしがりながらも湊の背中に身体を預ける。


 自分の胸が湊に当たるのは仕方ないと割り切った。しかし、美咲の胸が当たっているというのに恥じらいもせず、「上がるぞ」と言い、湊が立ち上がったことに少しイラッとした。


「ちょっと! 少しは気にしなさいよ!」

「は? 何を?」


 まるで分かっていない湊に、美咲はさらにイラッときた。が、はっきりとは言えず少し口ごもる。


「む……」

「む?」

「む…、胸よ! 当たってるでしょ!」

「? ああ……。そうだな」


 今気づいたかのような反応だった。その反応に美咲は怒るよりも少し心配した。


「わ、わたしって胸ちゃんとあるわよね……? 今Cだし……」


 とても小さな声でぶつぶつ言いながら、自分の胸を確認するのだった。


 何かを言っていたのは聞こえていたが、湊は無視する。


 そこでふと美咲は気になったことを口にする。


「そういえば九条くん。荷物は?」

「教室に置いてきた。副会長運ぶなら邪魔になると思ってな」

「あ……。ごめんなさい」


 彼に迷惑ばかりかけてしまっていて、とても申し訳なくなり謝った。


「別にいい。財布と携帯あれば大丈夫だろ」


 ほんとになんとも思っていないように言い、


「じゃあ行くぞ」


 湊は美咲をおんぶして保健室を後にした。





 廊下にスリッパで歩いている時の音が響いていたのが止まる。


「到着」


 湊は美咲に負担がかからないようにするため、少し遅めに歩き、二人とも、靴箱に着くまで喋らずに無言だった。


「副会長の靴ってどこに置いてあるんだ?」


 桜ヶ丘高校は靴箱は一つしかない。一学年約250人いて、その全生徒が同じ場所にある靴箱を使う。つまり何が言いたいかというと、結構広いのだ。


「わたしは2組だから、左から4つ目にあるわ」


 靴箱が縦に9つ並んで、1年が左から3つ目まで、2年が4~6、3年が7~9だ。


 湊は4つ目の靴箱へと歩き、そこで止まる。そして、ゆっくりと美咲を降ろした。


「スリッパ貸してくれ。副会長の靴箱まで行ってくるから。出席番号は?」

「ありがとう……。26番です」


 廊下と靴箱の境目にある段差に座らせ、スリッパを取り、美咲の靴箱に向かった。湊はすぐに見つけ、「これか」と言い、黒のローファーを取って、スリッパをそこに置く。


「これだよな?」


 美咲のもとに帰ってきて、靴を彼女に見せた。彼女は「うん」といい、湊から靴を受け取り、自分で履いていく。


「じゃあちょっと待っててくれ。俺も下履きに変えてくるから」


 そう言い残して、素早く上履きを下履きへと変えに行く。


 湊は1組だから、一番左の靴箱だ。しかも、『九条』だから結構前である。


「お待たせ」


 美咲は湊をポケーとして待っていると、ほんの数秒で彼女のもとへ帰ってきた。


「それじゃあ」


 湊は腰を下ろす。美咲は「うん」と言い、胸のことはもう気にしてもムダだと分かったので、気にせずに彼の背中に乗る。そして、湊はゆっくりと立ち上がった。


「よっと。……さっきも思ったけど……副会長軽いな。ちゃんと飯食ってんのか?」

「……ちゃんと食べてるわよ。重いより良いでしょ?」

「それはそうだが……」

「なによ」

「いんや、なんでも」


 湊はゆっくり歩き出した。美咲は彼の広い背中にもたれ掛かる。なぜか安心できるのだ。湊はそうされても嫌がらない。逆に、もたれ掛かってもらった方が危険も少なく、気にしなくてもいいからその方がいいと思っている。


 そうしたまま校舎の外に出る。外は暗いが、敷地内にある灯りで何も見えないわけではない。むしろ明るいくらいだ。


 二人には言葉がなく、終始無言だった。だが、その無言は美咲にとっては不思議なことに悪くなかった。


 無言と夜の静けさ、そして彼の背中に乗っていて安心したせいか、少し寝たはずなのに強い眠気が襲ってきた。


 湊は美咲がうとうとしていることに気づき、


「寝るのはいいが、場所教えてから寝ろよ。そうだな……、最寄駅はどこだ」

「……稲白駅」

「結構遠いな……」


 意外と遠かったことに少し焦る。本当に家まで運べるのか不安になってきたのだ。


「まあ分かった。稲白に着いたら起こすから、それまで寝ててもいいぞ」


 美咲は小さく頷き、スヤスヤと眠り始めた。




 

 

 


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ