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ミナトとミサキ   作者: トマトケチャップ
第一章 出逢い
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第二話 名前

「良かったな、開いてて」


 男子生徒が美咲に肩を貸してあげて、保健室の前まで連れてきた。幸い鍵が空いていて中に入ったが、保健の先生は不在だった。


 とにかく、美咲を椅子に座らせた。椅子に座ったことで少しは楽になったみたいだ。今は熱を測っている。


「運動部が遅くまで練習してるおかげね」


 偏差値の高い高校だから、部活の時間が短いのかと言われるとそうではない。桜ヶ丘高校は、文武両道な高校なのだ。


 スポーツ推薦は行っていないが、それでも部活は強く、だから中学で実績を残した選手が必死に勉強して進学してくるのだ。


 だから、遅くまで部活しているところは多々ある。ただし、勉強を疎かにして定期テストや実力テストで赤点を取ると、部活には出してもらえない。


「運動部といえば、キミ部活入ってないの?」

「ああ」

「じゃあこんな遅くまで何してたの?」


 美咲が疑問に思うのも当然かもしれない。部活に入ってない生徒が二時間以上も学校に残るなんて、普通はないだろう。美咲のように生徒会などに入っている場合を除いて。


 そして、美咲の質問に男子生徒は肩を竦めて答えた。


「六時間目が体育でな。めんどくさくて屋上でサボってたらいつの間にか寝てて、起きたのがさっきってわけだ」


 相変わらずのタメ口だったが、もう諦めたのかそのことについては何も言わない。だが、彼女は彼が言った理由に溜め息を吐いた。


「呆れた……。入学してまだ1ヶ月しか経ってないのにもうサボってるんだ」


 そして、美咲は今まで言ってなかったことをこの際だから言うことにした。


「キミ、きちんとブレザーに校章付けなきゃダメでしょ。それにシャツのボタンが開いてるし、ネクタイだって緩んでるじゃない」


 副会長だからか、身だしなみには厳しい。


「あー、これなら大丈夫だ。他の生徒とかがいるときはきちんとしてるから。目立つのは嫌いだしな。一人の時だけ緩めてるんだ。あ、校章は最初から付けてないが」



 そう言い終えた時、体温計が鳴った。美咲は左の脇に挟んであった体温計を取り出し、数値を見る。その数値に美咲が心の中で、うわっと思ったのと同時だった。


「バカじゃねえの?」


 いつの間にか、美咲の横に来ていた男子生徒がわざとかは分からないが、彼女に最初に言った言葉と同じだった。


「38℃越えてんじゃねえか……」

「だ、大丈夫よ。そこまで辛いってわけじゃないから」

「はぁぁ……、バカ」


 彼は深く、深く溜め息を吐いた。


「う、うるさいわね」


 そう言ったが、ここまで熱が高いとは思っていなくて、その言葉には覇気がない。


「とりあえず、冷えピタ貼っとくか」


 すぐに男子生徒は医薬品がある棚から冷えピタが入っている箱を見つけた。彼は箱から1枚取りだし、彼女に言う。


「髪上げてくれ。俺が貼るから」


 少し恥ずかしいのを我慢しながら言われた通りに前髪を上げた。


「冷たッ!?」


 体温が上がっているせいか余計に冷たく感じてしまった。


「おし、出来た」


 彼は美咲のおでこに貼り終えて、軽くおでこを叩いた。


「……ありがとう」


 軽く叩かれたのにはムッとしたが、素直に礼を言う。


「家の人に連絡したら?」

「一人で帰れるわよ、このくらい。それに今日は両親はいないわ」

「……あっそ」


 親はこういう時にこそ助けなければならないだろうと、少し舌打ちしたい気分になった。


「それにしても……、ちょっと意外だったよ」

「なにが?」

「あんたがこんな人だったなんてさ」

「どう思ってたのよ」

「ほら、あんたって人気だろ? 他校にだって知れ渡ってるし、あんた目当てで入学して来たやつもいるほどだ。知ってたか?」


 湊は肩を竦め、続ける。


「まあ、高嶺の花みたいになってるし。だからもっとおしとやかで、気品があって、か弱い女の子かと思ってたけど、全然違ったからさ」


 その言葉を聞き、美咲は彼を少し睨む。まあ、睨んでも怖くないのだが。


「バカにしてるの?」


 彼は首を横に降り、


「違う違う。ほんと意外だっただけだって」


 苦笑いしながら弁解した。美咲は胡乱な眼差しで彼を見る。だがそんな眼差しで見られても、彼はどこ吹く風だ。


「さて、これからどうする? もう帰ってもいいけど、俺としちゃこのまま他の生徒が完全に帰ってから帰りたいんだけど」

「どうして?」

「さすがにあんたを放って置くのはダメだし。そうなると、あんたを俺がおんぶとかして運ばなくちゃならないわけだ。肩を貸して歩くのは遅くなるしな。となると、今帰ると非常に目立つんだよ」

「なっ!? べ、別におんぶとかしてもらわなくても帰れるわよ」

「無理だな。とにかく目立つのは避けたいんだ」

「嫌なの?」


 美咲は不思議そうな顔をして首をかしげる。男子生徒はなんとも思わなかったが、その仕草を他の男子が見ていたら、いや女子すらも見惚れていただろう。


「ああ、嫌だ。とても困る。だけど体調悪いのに帰らさないのも悪いしな」

「そう……。なら別にいいわ。どうせもうすぐみんな帰るでしょうし」

「すまないな」


 申し訳なさそうな顔をしながら謝った男子生徒に、「ううん」と美咲は首を横に振った。


「じゃあ、帰れるようになるまであんたは寝とけよ」

「そうさせてもらうわ……。でもその前に、『あんた』っていう呼び方やめてくれない?」


 美咲は鋭く男子生徒を睨み付けた。だが、彼にはなんの効果もなかった。


「はいはい、分かったよ。姫百合美咲副会長さん」


 男子生徒はなんだか、小バカにするように言って、美咲はムッとした。が、怒るより大事なことがあるのを思い出して、切り替える。


「で、あなたの名前は?」




「俺の名前は九条湊だ。よろしく」






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