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ミナトとミサキ   作者: トマトケチャップ
第二章 遥かな高みへ
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第十一話 遥かな高み

 あれから3日が経った。珀が湊に助けられてから3日。びっくりするくらい、あれから何もなかった。もしかしたら、新居浜秀斗が恨みを持ち仕返しに来るのかと思ったりもしたが、そんなことはなかった。


 湊の脅迫が効いているのだ。


 強いて何かあったと言うなら、たまに同じクラスの女の子が話しかけて来るようになったこと、だろうか。「新庄くん、変わったね」とか、そんな感じだ。


 でも、そんなに変わっただろうか? と怪訝に思う。変わったのは眼鏡を外しただけだ。


 そう疑問に思って、聞いてみたら、


「うーん……、なんて言うか、前より顔が上向いてるよ」


 と、少し明るくなったような感じがするそうだ。


 前まではずっと俯いていたが、確かに今は前を向いてる、気がしないでもない。でもそれは、湊がそうしろって言っているわけであって、珀的にはそんな変わってないような気がするのだが……。


 そうやって腕を組み、首を傾げていると、机を蹴られた感触があった。ぎくっとして、後ろを振り返る。


 そこには、


「湊……」


 珀が、前よりも上を向くことが出来るようにしてくれた、恩人がそこにいた。


「おい、昼飯食いに行くぞ」

「へっ?」


 授業は? そう思って周りを見渡したら、教師はおらず、クラスメイトも昼食を食べようとしていた。


 どうやら珀は、授業が終わったことすら気付かないくらい、深く考えていたみたいだ。


 どんだけだよ!っと突っ込みたい気にもなったが、ここは脇に置いといて、湊の言う通り昼食を食べに行くため、カバンから弁当を取り出して、席から立ち上がった。


「じゃあ、行こう、湊!」


 珀は湊の背中を押して、教室を出た。


 その時、湊の口から「どうしたんだお前」という言葉が出て来ていたが、聞こえないふりをし、いつもの場所へと向かった。






 あの日。湊から救われたあの日。あの日からまだ3日しか経っていないが、あれから珀は昼食を湊と共に取っていた。


 湊からわざわざ一緒に食べろと誘われた時は嬉しかった。珀は昼食を一緒に食べる友達もいなかったし、湊が誘ってくれなかったら、今も1人で食べていただろうと思う。もっとも誘ってくれた理由なら、すぐに分かったのだが……。


 その理由を思い、笑みが少し溢れた。それを怪訝に思った湊が、「なんだ」と尋ねたが、


「ううん。なんでもないよ」


 珀は首を振って誤魔化す。たぶん、笑った理由を言ったら、怒るだろうから。それを思うとまた、笑みが溢れそうになるのを、ギュッと堪える。


 すると、湊と一緒に食べている場所、屋上の入り口の扉が開く音がした。


「ごめん、待ったー?」


 そう陽気な声とともに、屋上へと現れた女性。安藤玲奈。そして、その玲奈の後ろからやって来た2人。姫百合美咲と瀬川ゆい。この3人と湊と珀。この5人であれから昼食を取っている。


 最初、美咲たちがここに来た時はギョッとした。そんなこと聞いていなかったし、それはもう愕然としたのを今も覚えている。


 でも少し考えれば、予想は出来ていたのかもしれないし、何の疑いもなく湊について行ったのも悪い……かもしれないから、湊を責めることも出来なかった。


 そして、その後すぐに珀は湊がここに呼んだ理由を理解した。湊に向いている玲奈の矛先を少しでも珀に向けようと画策したのだ。まああまり効果は無かったが……。


「おっ、相変わらず美味しそうだねぇ」


 玲奈が珀の弁当を覗き込みながら、呟いた。


「はいっ! とても美味しいです!」


 珀は贔屓目なしに母親は料理が上手いと思っている。そんな母の料理を褒めてくれるのは嬉しかった。しかも、玲奈に褒められるのは。


 珀は本当に不思議に思った。


 こんな、クラスにいるのかすら分からないような存在の自分が、こうして憧れの先輩たちと昼食を食べている。天地がひっくり返っても近づくことが出来ないと思っていた、桜ヶ丘三大美人と言われる憧れの先輩と。


 もちろん嬉しい。でも、この光景を他の生徒が見たら絶対に闇討ちにあうだろうと思い、少しビクビクしているのも確かだ。


 それもこれも、珀が湊に救われたからだ。


 あの日、湊に救われてから、珀は180度見る景色が変わった。これは決して大袈裟なんかじゃない。


 珀を苛めから救った恩人(ヒーロー)


 たとえ湊が、大したことはしていないと言おうが、それは変わらない。湊は珀にとっての英雄だ。


「はい。あーん」


 ちらっと湊の方を見ると、美咲が湊にカボチャのコロッケを口に運んでいるところだった。嫌そうに、されるがままになっている湊。


(えっと……、うん、たぶん英雄……)


 今の湊からは微塵も、あの時の覇気が見られないが、同一人物であることに変わりはない。


「ね、美味しい? 初めて作ってみたんだけど」

「……美味いな、これ」

「ほんとっ!? 良かった〜。あんまりカボチャ料理とかしないから、不安だったの」


 心底ほっとしたように安心する美咲。その顔を見て、思わず珀は、ドキッとしてしまった。


 可愛すぎる。


 もし珀が湊で、あんな至近距離に美咲の顔があったら、ドキドキしすぎで発狂してしまうかもしれない。


 この学校一の美少女。男子生徒の半分以上に告白されていると言われていて、その全てを振っている。そんな学校のアイドルの好きな人。それが湊だ。


 とてもお似合いだと珀は思う。なんたって、湊も珀にとっては手の届かない存在だから。


 たぶん美咲に釣り合う人など、湊くらいしかいない。美咲だけじゃない。玲奈にゆいも。彼女たちと釣り合うのだって、湊みたいな人だ。強くてカッコよくて、困ってる人がいたら助けられる、そんな人。


(けれど俺も、そんな風になれたら……)


 4人の和気藹々とした光景を見ながら、珀はそう思った。

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