閑話 この気持ちは……
ここ最近美咲は悩んでいるものがある。それは、
「え。恋でしょ」
湊へのこの想いは何なのかということだ。
彼のことをどう思っているのか、妹にその全てを打ち明けた後の返答がそれだったのだ。
「や、やっぱり……?」
「それ以外に何があるのさ」
「た、例えば……」
自分がこの気持ちについて考えていた時に導き出した答えの例を言う。
「弟を思う気持ち……とか」
「お姉ちゃんは弟に可愛いって言われて照れるの? いないけどさ」
「かも知れないじゃない」
「じゃあ弟にドキドキするの?」
「す、するかも知れないじゃない!」
「いや、したらダメでしょ……。姉弟なんだから」
確かに弟にドキドキはしないだろう。ならば、次。
「じゃあ、彼を救ってあげたいとかは?」
「それは根本的な問題でしょ」
「……どういうこと?」
「何で救ってあげたいって思うのさ」
「え……、放っておけないから……?」
「じゃあどうして放っておけないの?」
「それは……」
「好きだからじゃないの?」
そうなのかも知れない。しかし、こうも考えることが出来る。
「わたし自身が助けられたから、恩返ししたいとか……」
その可能性はなくはないと思う。
「はぁ……」
溜め息を吐いた後にやれやれと首を振る。
「じゃあ、もういい。一つだけ聞くね」
「う、うん……」
「お姉ちゃんはその人が他の女の人と付き合って、もうお姉ちゃんの事なんてどうでも良くなったらどう……? もうお姉ちゃんから離れて行ったら?」
妹の言葉。
湊が自分とは違う女と付き合って、自分から離れて行く。それを想像した。
「………………いや。絶対にいや!」
涙が溢れそうになった。胸が張り裂けそうで、とても苦しい。今までこんな想いなんてしたことがない。
「どう? 辛い?」
「うん……。すごく」
「それが恋。それが人を好きになるってことなんだよ」
恋。
美咲はそれが、すごくロマンチックで素敵なものだと思っていた。そしていつかは恋をしてみたいと思っていた。しかし、その恋がこんなにも苦しいなんて思いもしなかった。
だが、もう断言できる。この湊への想いは間違いなく恋だ。これが憧れていた恋なのだ。
「蕾。ありがとね」
「どういたしまして。ふふっ」
「なによ」
「いや〜、ついにお姉ちゃんにも好きな人が出来たのかと思ったらね〜。蕾は嬉しいよ」
ニヤニヤしながら上機嫌で話す妹。
「いったいどんな人なんだろうなあ。楽しみだなあ。早く家に連れて来てよぉ。お姉ちゃんが惚れる人だから、それはもうカッコいいんだろうなあ」
「家に連れて来るなんてそんな……! 無理よ! 彼はわたしの事なんて全然気にしてないんだし!」
「え、そうなの? お姉ちゃんにも靡かない人っていたんだ。そっちの方が驚きだよ」
「当たり前でしょ? 何言ってるのよ」
「当たり前……なのかな? ていうか、お姉ちゃんが好きになって、向こうはまだお姉ちゃんの事好きじゃないって、結構驚きなんだけど」
贔屓目なしに、自分の姉は途轍もなく可愛い。それは重々承知している。しかしまさか、姉の方が一方的に好きになるとは思ってもみなかった。
いったいどんな人なのか、真剣に知りたくなってきた。
「ねえ。今度わたしにも逢わせてね。その人と」
「え……。ま、まあいいけど……。……好きにならないでね」
「ならないよ!!」
大丈夫。それはない。たぶん。人生何が起こるか分からないが、さすがに姉の初恋の邪魔はしたくない。
妹は姉の好きな人を好きになるのは絶対にダメだと、心に固く誓ったのであった。
まあそんな心配は杞憂に終わるのだが、そんな事はまだ知る由もなかった。




