第九話 噂の真実
「えっと……、九条くん。いったいこれはどういう状況……? なんで姫百合先輩が……?」
目の前には高嶺の花の如き存在。姫百合美咲が立っている。
何の説明もなしに連れて行かれて、連れて行かれていた場所に美咲がいたのだ。この反応は当然のこと。むしろ断然マシな方だ。
「何でって、これから帰るからに決まってるだろ」
「いやいやいや、え、おかしくない? 絶対おかしいよね? あー、そうか。僕の眼がおかしいんだ」
ゴシゴシ。チラッ。
ゴシゴシゴシ。チラッ。
「………」
眼がおかしくない事に気付いた新庄は、愕然とした。
「おい、なにやってんだよ。帰るぞ」
湊が何やってんだと、横目に新庄を見ながら呟いた。
「帰るぞ、じゃないでしょ! ちゃんとわたし達を紹介して! わたし何も聞いてないわよ?」
「当たり前だろ。言ってないんだから」
「そうやって揚げ足取らないで、ほら!」
「あー、めんどくせー。こっちは姫百合。こっちは新庄。以上」
パシンッ!
「痛ぇな。……はぁ。こっちは俺のクラスメイトの新庄……、おい、お前下の名前なんて言うんだ?」
「えっ、名前知らないの? 友達なのに?」
「友達じゃねえよ。今日ちょっと関わりを持っただけだ。で、新庄。なんて言うんだ?」
「……ハク。新庄珀、です」
「ふーん……、珀くんか。なんだかカッコいい名前だね!」
「……悪かったな。俺はかっこ悪い名前で」
「えっ!? 別にそんな事言ってないよ!」
「お前、俺の名前聞いた時、何も言わなかっただろ」
「だってあの時は、そういう雰囲気じゃなかったじゃない」
「そんなこと知るか」
そんな他愛もない会話をしていたが、新庄──珀が置いてけぼりにされているのに気が付いた。
わざとらしく美咲は咳払いする。
「九条くん。新庄くんにわたしのこと紹介してよ」
「別にお前のこと紹介しなくても良いだろう。知らない奴なんていないんだし」
「ダメよ。そこはきちんとしなくちゃ」
「はぁ。……知ってると思うが、新庄。こっちは生徒会副会長を務めている二年生の姫百合美咲だ」
「姫百合美咲です。よろしくね。新庄くん」
「こ、こちらこそ!」
美咲が笑顔で挨拶したことで、珀は頰を赤く染めた。目を合わせられずに目線をずらして挨拶を返す。
「もう挨拶は済んだな。じゃあ帰るぞ。今日もだいぶ遅くなったからな」
「うっ……、ごめん」
「いや、気にするな。それに間接的に新庄を助けた事にもなるからな」
「え?」
これには新庄の方が驚きを露わにしている。美咲は頭上に?を付けているだけだ。
「俺はこの女が今日は遅くなるって聞いて、なら時間潰しにとお前に連いて行ったんだよ」
「そうだったんだ……」
「そんなこと言っちゃって。本当はわたしが遅くならなくとも連いて行ったくせに」
「あ?」
「もう一ヶ月キミといるんだよ? そのくらい分かるよ」
「一ヶ月も俺といるのに、俺のことなんも分かってないんだな」
「ううん。分かってる。キミが意外と優しいってことくらい」
そう言われ、湊は美咲を見る。彼女は微笑んでいた。
「俺は優しくなんか……」
ただ美咲は首を横に振るばかり。湊は堪らず頭を掻いた。
「そろそろ行くぞ」
話はここまでと湊は二人に背中を見せ、歩き出す。
「さ、わたし達も行こうか」
と、珀に向け言ったのだが、その珀は何かを考えているようであった。
「どうしたの……?」
「もしかして……」
珀はあることを思い出していた。それは、
「あの噂は本当だったんですか……?」
「あの噂……?」
「体育祭の後くらいから話題になった、先輩に好きな人がいるっていう噂です」
「なっ……!」
「その好きな人っていうのが九条くん……」
「い、いや! あの……、その……!」
頰を赤く染め、手をバタバタと振るが上手く紛らわす言葉が見つからず、口をパクパクさせるだけになった。
「そうなんですね……」
その美咲の反応で確信を得た珀。さらに耳まで真っ赤にさせて、こくっと頷く美咲。
「……お似合いだと思いますよ」
「えっ……?」
珀の言葉に面食らう。
「だって九条くん、カッコいいですから……。僕なんかよりもずっと……。先輩も九条くんに助けられたんですね。だから好きになったんだ」
「……うん。……でもそれは好きになった理由の一つかな……」
湊の背中を優しく見つめる美咲。そしてそれを横目で見る珀。
「本当に好きなんですね」
「う、うん。まあ……ね」
この一ヶ月で美咲は自分のこの気持ちが恋なんだと気付いた。いや、気付かされた。色々と相談したのだ。玲奈やゆいに。妹にまで聞いた。そしてその誰もが恋をしている時の症状だと言う。
美咲はそれで理解した。これが恋なんだと。自分は湊に惚れているんだと。
「もう二人は付き合ってるんですか?」
首を横に振る美咲。
「彼って鈍感だから……」
ふふっと微笑む。
と、そこへ。
「おい、早く来い!」
湊が二人を呼ぶ。
「行きましょうか」
「はい……!」
二人は駆け足で湊の下まで向かったのだった。




