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ミナトとミサキ   作者: トマトケチャップ
第二章 遥かな高みへ
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第六話 アドバイス

 体育祭から三日。


 学校にはある噂が流れていた。曰く、姫百合美咲に好きな人がいるのではないか。


 どうしてそんな噂が流れたのか、その理由は、体育祭が終わって、伝統的なハチマキ交換の時に美咲がこう言ったからだ。


『ごめんなさい。もう私から渡した人がいるんです』


 この言葉がきっかけで、そう思われた。


 実際間違ってはいないだろう。美咲の中で湊のことをどう思っているかは分からないが、高い確率で好きなことは明白だ。ただ、本人の中で湊に抱いている気持ちが何なのかが分からないだけ。


 しかし湊からしたら、そんな噂が流れていると、気が気ではないだろう。なぜなら、ハチマキ交換をしたのは自分であるのだから。バレないとは思うが、もしバレた時のことを考えて、ここ三日は憂鬱な毎日であった。


「どうしたのさ、そんな暗い顔して」


 いつものように昼食を屋上で食べていると、もういつものようにと言っていいだろう、美咲たちが屋上に来た。湊ももうとやかく言うつもりもない。言っても意味ないのだし。


 そうして、もう気にせず昼食を食べていると、玲奈からさっきの言葉が発されたのだ。


「暗い顔してたか?」

「ええ。ていうか、ため息ばかり吐いてたじゃない」

「そうか」

「そうよ」

「すまん。気に障ったか?」

「そういうんじゃないけど、どうしたのかって思ってね」


 暗い顔をしていたつもりはなかったが、どうもそうらしい。美咲もゆいも頷いている。


「いや、ただちょっと憂鬱なだけだ」

「憂鬱?」


 美咲がどういうこと?と首を傾げて尋ねた。


「ほら、前ハチマキの交換しただろ? それで今変な噂が流れてるから疲れんだよ。交換した相手が俺だってバレるんじゃないかと」

「あ〜、そういえば流れてたわねえ、そういうの。なんだっけ? 美咲には大好きな人がいるっだっけ?」

「だ、大……!? ち、違うわよ! 大好きじゃなくて、好きな人!」

「別にそれはどっちでもいいだろ。どのみち真実じゃないんだしな」

「そういう問題じゃなーい! 真実だろうとなかろうとそんな誇張に噂されるこっちの身にもなりなさいよ!」

「あっれ〜? その噂自体は否定しないんだね〜?」


 玲奈がニヤニヤしながら美咲をからかう。


「えっ……! いや、そうじゃなくて……! もうっ……」


 美咲が慌ててそれを否定しようとするが、完全に否定することは出来なくて、口籠もった。


「なんだ、お前好きな奴いるのか?」


 と、ここで鈍感男が美咲に、そうだったのかと言いたげに聞く。美咲、玲奈、ゆいの三人はため息混じりに同じ思いを抱いた。


(この唐変!!)


 その唐変木こと湊は首を傾げる。


「なら、なんで俺にハチマキを渡したんだ? 好きな奴がいるならそいつに渡せば良かっただろ」


 美咲に好きな人がいると勘違い(実際には勘違いではないが)してしまい、そう尋ねた。その質問に三人はまた、ため息混じりに同じ思いを抱いた。


(君がそうだからだよ!!)


 もっとも美咲の中で湊は、気になる少年という事になっているが。


 玲奈が頭を抑えながら首を振る。


「美咲も、大変ね……」

「そうね……」


 湊は、ん?と首を傾げているが、二人はちゃんと意味が分かり、頷いた。


 玲奈は湊の方に向き、


「ねえ九条くん」

「なんだ?」

「お姉さんからのアドバイス。九条くんはもうちょっと、人に興味を持った方がいいよ」

「……?」

「そういう人への無関心さは、時に人を傷付けることもあるって言ってるの」


 玲奈の目は湊を真っ直ぐ見ている。その目にはなぜか、少しの怒りの感情が垣間見えた。


「別にそういう、人への無関心さで君自身が傷付いたって、正直私にはどうでもいいわ。だけどね、もしそのことで、……いいえ、そのこと以外でも美咲を傷付けるようなことがあれば、私は君を許さないから」

「……ちょ、玲奈。何言ってるのよ……」


 睨みながらの言及に慌てる美咲。


「く、九条くん。別に気にしなくていいからね!」


 湊にそう言ったものの、湊は美咲の方に向くことなく、玲奈の瞳をじっと見つめたままだった。


「……なるほど」


 湊はしばらく黙っていたが、そう小さく呟いた後に少し微笑んだ。


「アンタにとって、姫百合はそういう存在か……」


 玲奈にとっていなくてはならない存在。それが、美咲。もし、美咲がいなくなれば、精神的に追い込まれて衰弱してしまう。


 二人はそういう関係なのだと、湊は理解した。理解せざる負えなかった。なぜなら、湊はそういう関係を知っていたから。それもとても身近に。そして、そのいなくてはならない存在がいなくなってしまい、精神的に追い込まれていった者を知っていた。


「心配するな。姫百合を傷付けさせやしない」


 だから、玲奈を安心させるように、


「お前らのような関係のやつを、俺は知っていた。そして、崩れていったのを。すごく醜くなった。壊れ、腐った。だけど救ってくれるやつがいた。もしそいつがいなければ今だに腐っていたと思う。だから、俺はそいつのようになるやつを見たくないんだ」


 美咲、玲奈、ゆいは気付いた。それは湊自身のことなんだ、と。湊は三人称で話していたが、しかし時々一人称になっている。だからその話は湊自身が体験したことなんだと三人は理解したのだ。


 そして同時に、湊が人に興味を持たない原因の一つがこれなんだと、直感した。


「そう……。なら、私をその腐った人にしないでね」


 玲奈の瞳にはもう、怒りの感情はなかった。湊のそんな話を聞いた後では、消えるというものだ。


「ああ……。必ずな」


 そもそも玲奈は、湊と少し関わりを持ってしまった。なら、湊は玲奈を見捨てない。これ以上、関係を深めようとも思わないが、関係を切ることは出来ない。いや、切ることは出来る。出来るが、切ってしまったせいで、玲奈が何か事件に巻き込まれ、助けられたのに助けられなかったら、自分が自分を許せない。


「ねえ九条くん」


 さっきと同じように玲奈が話し掛ける。


「なんだ?」


 そして、湊もさっきと同じ返しをする。しかし、その内容は、違う。


「美咲をよろしくね」


 玲奈の瞳をじっと見つめ、やがて、


「……分かった」


 ただ一言、そう答えた。


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