第四話 ハチマキの交換
いったいあれは何だったんだろう。
湊は首を傾げながら掌に収まっている、ハチマキを見る。それは湊と美咲が屋上から出て、しばらくしてからだった。
『そ、そうだ! わたしのハチマキと九条くんのハチマキ交換してくれない?』
さも今思い出したかのように、自分のハチマキと湊のハチマキを交換した。
ハチマキを交換して何の意味があるんだ?
そう思い、聞いてみたのだが、
『えっ!? べ、別に理由なんてないよ。うん。ただ、何となく、ね』
と言っていたが、目が泳いでいたことを湊は見逃さなかった。何か理由があるのだろうが、追求はしないでおいた。まあ、理由ならすぐにわかることになるのだが。
湊はやれやれ、と吐息をこぼして苦笑いする。
「まだ競技残ってるだろうに」
運が良かったことに、湊と美咲のハチマキの色は同じで赤色だ。
桜ヶ丘高校。ここの体育祭はハチマキを用意しなければならない。色は学年ごとに赤、黄、緑、白で分けられる。一学年、八クラスもあるため、二つのクラスが協力して、行う。もちろん、クラス別というのもあるが。
湊のクラスは今年、赤色を獲得した。そして、美咲のクラスも同様、運がいいことに赤色を獲得したのだ。
「これ、誰かに見られたらまずいよな。名前書いてるし……」
目立たないところに『姫百合美咲』と書いてある。
「まあ、いいか」
極力ハチマキはポケットに入れておこう。
それにしても、と頬に触れる。
「まだ少し熱いな」
美咲に叩かれた場所には、未だにその時の熱が残っていた。これではまだ人前に出れそうにない。
湊はもう遠くに行っている美咲の背中を見て、その後ろ姿にある少女を重ねる。
「なあ綾瀬。俺は彼女を護ることに決めたよ……」
ここにはいない少女に自分の誓いを語る。必ずなんていう不確定な要素は使いたくないが、もう決して失わないように、今回だけは使わせてもらう。
何があっても必ず護ると。
「なんて……」
ふっと笑って首を振る。
「これも罪滅ぼしなのかもな……」
これ以上考えるのは止めだ。そろそろ顔の熱も冷める頃だ。もうクラスのところに戻ってもいいだろう。競技をすることになるか分からないが、また美咲が呼びに来ても堪らない。今度は三人で来る可能性もある。
湊は、美咲から貰ったハチマキをポケットに入れて、クラスの場所へと歩き出した。
⚫️
「九条くん、やっぱり屋上にいた?」
美咲が自分のクラスに戻ると、すぐさま玲奈が聞いてきた。生憎と彼女は競技に出ていて、一緒に探しに行くことは出来なかったのである。それはゆいも同様。
「うん。やっぱりいた」
ふふっ、と微笑みながら答えた。
「ほんと、すぐにさぼろうとするから困っちゃうよね」
言葉とは裏腹に、心底楽しそうに喋る美咲。勿論、玲奈はその美咲の仕草や顔を見ていた。しかし、美咲を見ていたのは玲奈だけではない。美咲と同じクラスの男子、女子。そして、違うクラスではあるが、通り過ぎて行く生徒。
その誰もがこう思った。
(((か、可愛い!!)))
いつもの玲奈なら携帯で写真を撮るだろうが、今回は何か違った。ムスッとしている。
「なーんか、嫉妬しちゃうなー、九条くんに。そこまで美咲を笑顔にさせる彼に勝てる気がしないわ」
「い、いきなり何を言い出すのよ」
「もうさー、そんなに好きなら告白すれば?」
「なっ……、ほ、ほんとにどうしちゃったのよ。変よ、玲奈」
急に訳のわからないことを玲奈が言い出して戸惑う美咲。玲奈からしたら、自分では美咲を今のような笑顔にさすことが出来ないと分かって、湊に羨ましいという気持ちが湧いたのだ。
「べっつにー。変じゃないわよ。そんなことより、そろそろ私たちの出番よ」
「あー、そうね。準備しなくちゃ」
手に持っていたハチマキを額へ巻こうとする。
「あれっ? それ美咲のじゃないでしょ」
「ギクっ……、な、何のことかなあ〜」
目を泳がし、惚ける。しかし、嘘だとバレバレである。
「ふーん、なるほどね。もう手は打ってあるんだー」
「だから……」
「はいはい、分かってるわよ。別に彼を利用したってわけじゃないんでしょ?」
「そうだけど……」
「まあでも、彼は利用されたと思うでしょうね」
「や、やっぱり?」
「そりゃーそうでしょう。彼って鈍感そうだし」
「ま、まあ、後で説明すれば大丈夫でしょう!!」
これはただ、考えるのを放置しただけである。
「ささ、もうすぐ私たちの競技が始まっちゃうから行きましょ!」
美咲は玲奈を引き連れて、近くにいたゆいも連れ、次の競技の控え場まで行くのだった。




