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ミナトとミサキ   作者: トマトケチャップ
第一章 出逢い
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第十三話 昼休みにて

 翌日の昼休み。屋上にて。


「かっこいいなあ。このこの~」


 湊は怜奈に肘でつつかれていた。多少つつかれるくらいならば構わないが、あまりにもしつこいので、額にに青筋が浮かぶ。


「帰れ!」


 そう言ったものの玲奈は全く聞く耳を持たない。


「ちょっと玲奈!」


 湊の前に座っている美咲が顔を朱色に染め、玲奈に自制を促した。湊の横、玲奈の反対側ではゆいが無口でモグモグと昼食をとっている。


──どうしてこうなった。


 湊はつい五分前のことを思い出して、深い溜め息を吐いた。



 五分前。


 いつものように屋上で一人で昼食をとっていると、昨日と同じように屋上の扉が開き三人が突然現れたのだ。三人は湊を見つけると、近づき、何も言わず然も当然とばかり、湊を囲むように座ったのだ。


「おい、誰も座っていいって言ってないぞ」

「まあまあ、細かいことは気にしないの」


 玲奈は湊の肩をポンポンとゆっくり微笑みながら叩いた。


「細かくねえよ!」


 しかし、湊の言葉を誰一人聞くことなく、三人は弁当を開いた。


「うわー、相変わらず美味しそうな弁当ね」

「──聞けよ、人の話」

「そうでもないわよ」

「いやいや、ゆいもそう思うわよね」

「うん」

「──おい、あんたらの耳は節穴か? 飾りなのか?」

「でしょ! 今日も美咲が作ったわけ?」

「うん。妹の分と一緒にね」

「いいなぁ、蕾ちゃん。こんな美味しそうな弁当食べられて」

「何言ってるのよ、もう」

「──あ、ほんとだ。副会長の弁当美味そうだな」

「ほら、九条くんも美味しそうだって」


(何でだよ!?)


 つい、湊は心の中で突っ込んだ。完全に無視されていたので試しに同じ話題を振ってみたらこれだ。


(こいつらの耳は都合のいいことしか聞けない耳なのか?)


 わざとやっているのだろうが、なかなか感に障る。


「美咲、なにか九条くんにあげれば? なんだか九条くんのお昼、コンビニのおにぎりだけで質素だし」


 玲奈が湊のおにぎりと水だけというなんともベタな昼食を見て、可哀想だと思ったのか美咲に何かあげるよう提案した。


「いや、いらねえよ。俺はこれだけで十分だ。それにこれ以上貸しは作りたくないんでな」

「貸し……? ああ、飲み物買って貰ったってやつ?」


 やっぱり知っているのか。となればやはりその経緯も当然知っているのだろう。はあ、と口から息を溢して、だがまあそれも仕方ないかと諦める。


「別に貸しって言うほどでもないんじゃない? それを言うなら美咲の方が貸し大きいじゃない。違う意味で」


 ふざけたような態度から一変、真剣実を帯びた顔と口調で玲奈が口にする。


「そうでもない。『助けて』って言われたんだ。なら助けるだろ。そんなもん当たり前だ」

「九条くんからしたら当然のことなのかもしれないけど、なかなか出来ることじゃないと思う。もし九条くんがいなかったらって思うと……。だから、私からも言わせて?」


 そこまで言うと玲奈は真っ直ぐに湊を見つめ、頭を下げた。


「ありがとう」

「……」


 あまりにも突然で理解できなかった。


 なぜ、この女はこんなにも真剣に礼を述べているのだ?


 分からない。だが、ただ一つ分かることは本気で玲奈は美咲のことが大切だということだ。


「じゃあ一つ、提案なんだが、いいか?」

「うん、いいよ」


 湊は玲奈の瞳を見つめる。


「副会長とこれからは一緒に帰ってやってくれ。何があっても」

「……それだけ?」

「ああ……」


 玲奈は面食らった。いったいどんな無理難題を押し付けられるのかと思っていたのだ。拍子抜けするのも仕方ないだろう。


「……分かったわ」

「助かる」

「でも、どうして……?」

「何がだよ」

「どうして自分のことじゃなくて美咲のことを?」


 湊は自分を見つめている美咲を一度見て、肩を竦めた。


「また呼び出されると面倒だからな。俺は面倒は嫌いなんだ」

「本当に?」

「本当だ」

「ふうーん……。ならそういうことにしておきましょうか」


 そう言った後に、玲奈は真剣な表情から一変、楽しそうな笑みを浮かべた。


「それにしても九条くん、喧嘩強いんだね。ねえ?」


 玲奈の語りかけの相手は美咲だ。


「え、えぇ……」

「どんなだったの?」

「……どんなって?」

「まあ端的に言えば、かっこよかった?」

「うっ……」


 美咲は言葉に詰まる。玲奈の質問の答えはイエスだ。はっきり言って、めちゃくちゃかっこよかった。誰だってあんなのを見せられたらかっこいいと思うだろう。だがしかし、本人がいる前でかっこよかったと言うのは恥ずかしすぎる。


 美咲は玲奈を睨む。この友人はそれが分かっていて聞いてきたのだ。ただ美咲が恥ずかしがるのを見て、楽しむために。


「ねえ、どうだったの、美咲」

「うっ……、か……」

「か?」

「か……、……こ………た」

「えっ? 何て言ったの?」

「か、かっこよかったわよ!!」


 羞恥で顔を赤く染めながら怒鳴るように言った。しかし、やはり恥ずかしいのか、すぐに俯いてしまう。玲奈はニヤニヤと笑みを浮かべる。そして、湊を視界に捕らえる。


「ハイキックかましたんだって? かっこいいなあ」



 ここで、冒頭へと戻るわけだ。



 玲奈は満足したのか、肘でつつくのをやめた。その代わりと言ってはなんだが、玲奈は湊に話しかける。


「ところでさ、ものの提案なんだけど」


 そう前置きしてから、


「美咲が遅くなる日は九条くんが残っててくれない?」

「はあ?」

「もちろん美咲と帰るのになんら不満はないわ。だけど、何時間も待ってても暇でしょ? だから、私とゆいはどっか喫茶店とかで待ってるから、そこまで美咲を連れてきてよ」

「何で俺が……」

「九条くんが一緒に帰れって言ったんでしょ? そのくらいは責任持ってよね。どうしても無理な日は私たちも学校に残るしさ」

「それはそうだが…………、はあ。分かった。好きにしてくれ」


 玲奈が言ったように、自分から一緒に帰れって言ったんだ。このくらいは我慢しよう。そう自分を納得させ、渋々と頷いた。


「ありがとう」


 にっこりと玲奈は微笑んだ。


「く、九条くん。大丈夫だから! しばらくはたぶん生徒会とか無いと思うから安心して!」


 頬を染めて、取り乱しながら慌てて湊に言う美咲。


 彼女にとってもこの提案は予想外だったようだ。だが、湊にそんなことしなくてもいいと言わないということは、美咲も満更でもないということか。


「……分かった」

「じゃあ、これからよろしくね。九条くん」


 玲奈の屈託のないその笑顔が、なぜか湊の瞳に深く刻み、消えることのない記憶へと昇華した。

これで第一章は終わりです。

不定期ですが二章もまた更新したいと思います。

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