第十一話 祈り
どのくらい時間が経ったのだろう。
永遠にも思えるこの時間が、実はほんの一瞬でしたなんて、冗談でも笑えない。握りしめていたスマホで時刻を確認する。六時四十五分。湊に電話してから十分が経っていた。
もしかしたら、このまま見つからずに済むのではないか?
もしかしたら……。
そんな期待をした。だが、この世はそう都合よくできてはいない。
「ッ!!」
耳を澄ますと近くで足音が聞こえた。
(そんな!? さっきまで近くにいる気配すらなかったのに……!)
足音は三つ。同じ方向からする。どうやら、手分けして探さずに行動を共にしていたようだ。男たちは美咲を呼び続けている。まるで、楽しんでいるかのように。いつでも見つけられるかのように。
美咲は心の中で湊が早く来ることを祈る。祈ることしか出来なかった。だがしかし、強く祈るほど足音も強くなる。違う道に逸れれば、とも思うが残念ながらそうもいかないらしい。もう男たちとの距離は五メートルもないかもしれない。
目を瞑って鞄を強く抱き締める。通り過ぎるようにと祈って。
その祈りが通じたのか一人目が通り過ぎ、二人目も通り過ぎた。そして、三人目も。
(……助かった?)
そう思って張り詰めていた息を吐き出す。
だが──
「みーつけた♪」
突如、後ろから声がした。
ビクッと美咲の身体が動いた。後ろを向くと、満面の笑みで見下ろしてくる男と目が合った。
「ッ!!」
突然のことで頭が回らない。通り過ぎたのではなかったのか。いや、一度確かに通り過ぎた。だが、少し気になって戻り覗いたら運良く美咲がいたのだ。
男の腕が伸びてきて、美咲は逃げようとするも逃げられず簡単に捕まった。そのまま腕を引っ張られ、抵抗するも虚しく無理矢理壁と電柱の間から出される。
「こんなところに隠れてるとは思わなかったよ。けど、残念。見つかっちゃったねぇ」
美咲を見つけたのは、一番最初に美咲に声をかけた男だった。つまり、三人いた中の一番背の高いやつだ。
「は、離して!」
捕まれている腕を必死に動かして離そうとするも無意味だった。今度はもう離してくれない。
「お、見つけたのか」
「そんなとこにいるとか普通思わねぇよ」
残りの二人も美咲を捕らえたのが分かってよく見つけたな、というような顔をして戻ってきた。
「さて、十分楽しめたでしょ? もう逃がさないよ」
その言葉は本当だ。美咲が何をしてもどんなことをしても離してくれない。だがそれでも必死に嫌だと抵抗する。
「傷つくな~。これでも女の子には紳士で通ってるんだよ? そんな嫌がらなくてもいいじゃん」
「なら、離して!」
「俺たちと遊んでくれたらね♪」
男は遊ぶなら離すと言う。
ならば、
「分かったわ。あなたたちと遊べばいいんでしょ? だから離して」
「やっとその気になったんだ。なら離してあげるよ」
そして、男が手を離した瞬間に男たちがいない方へ走る。が、だめだった。分かっていたのか、美咲が走ろうとした瞬間に腕をまた掴んだ。
「そんな嘘ばればれだって。もっと上手いこと嘘つかなきゃね」
美咲は男を、きっ!と睨み付ける。
「離して! 離しなさい!!」
男はそれでも怯まない。
「とりあえず、ここから出ようか。ここには何もないしさ」
「そうだな。どこ行く?」
「いつものあそこ行こうぜ! そしたらこの女もすぐに俺たちの虜になるしよ」
「お、いいね! 決まりだな」
どこへ連れていくというのかは分からないが、その会話だけでまずいところだというのは分かった。
身長が一番小さい男も美咲を連れて行くため、美咲に触れようとする。
「い、嫌!」
知らない男が腕を掴み、もう一人の男も身体を触ろうとする。それはもう恐怖でしかない。
「助けて!!」
美咲の心からの祈り。
美咲の心からの願い。
その祈り、願いが、
「──ああ。分かった」
届いたのだ。




