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プロローグ

 春休み。冬の厳しい寒気も落ち着きはじめ、外は徐々に優しい暖かさを帯び始める。部屋をストーブやエアコンで温める必要はないし、一日中頭から毛布を被る必要もない。そして何より、学生の夏休みや冬休みなどの長期休みにおいて特に苦痛をなりうる存在……。そう、あの大量ともいえる課題がなにひとつ出ていないのである。これだけ聞けば最高の休みであるだろう。しかし、逆に考えてもみよう。この俺、寺澤真也てらさわしんやはバイトをしているわけでもないし、特にこれといって趣味という趣味もない。周りの友人は皆、何かしらの用事があって遊びに行く予定もない、一人だと寂しいからな。そしてこれらの情報から導き出されることはただ一つ。



「結局、暇なんですよねー……」



 俺はベッドに横になりながら普段外では掛けないような黒縁の眼鏡をし、何度も読み返したお気に入りの本のページをパラパラとめくりながらそう呟いた。しばらくそうして自室でダラダラと過ごしていると、急に扉の向こうから快活で可愛らしい声が聞こえてきた。



「にいさーん! どうせ今日も暇なんでしょう? どうです? 私とデートしませんかー?」


みなと、本音は」


「……買い物の荷物持ちをおねがいしたいかなと」


「わかった、じゃあリビングで待っててな」


「はいはーい!」


「おい、はいは――」


「一回!!」


 と言い残してすぐに階段を駆け下りていく足音が聞こえてきた。つか荷物持ちなら最初からそう言えばいいのに。と思いながらでも、断るという選択肢が全く思い浮かばなかった俺はなんだかんだ言って妹の湊に甘いと思う。いや、決してシスコンなどではない。ただ仲がいいだけだ。そう自分に言い聞かせながら着替えを探していると、ふと机の上に飾ってある写真が目に入った。そこには仲のよさそうな夫婦と二人の赤ん坊が父親に抱かれた状態で写っている。



「俺の両親……か」



 俺達兄妹は二卵性双生児の双子で、両親の顔も認識できないうちから父さんの妹の佳代さん、つまり、俺達から見て叔母さんのあたる人に預けられた。佳代さん曰く、私は結婚もしてないし、あなたたちの世話くらい気にする必要はないわ、お金の問題もあなた達の両親から余るほど送られて来ているから何も心配はいらない、とのことらしい。佳代さんは叔母さんといっても、父さんとは十歳以上年が離れているらしく、まだまだ現役のキャリアウーマンだ。そんな人だからこそ俺たちが遠慮するのも無理はない。実際、過去にかなり迷惑をかけている部分もあったと思う。



「というか俺らを産んだ親はその子供を人に預けて何をしてるんだか……」



 佳代さんが言うには『世界旅行』らしいけど、そう聞くと遊んでるだけって思われるぞ。もっとちゃんとした理由はないのだろうか。と、そこまで考えたところで、階下から湊の声が聞こえてきた。



「にいさんまだですかー! 早く来ないとあなたの妹が待ちくたびれてよれよれのかぴかぴになってしまいますよー!」


「もうすこしで行くから待っててなー!」



 というかあいつは何を言ってるんだ。よれよれのかぴかぴってどんな表現だよ。俺はしばらく床屋に行ってないせいで若干ぼさぼさになった髪を軽く整え、眼鏡をケースにしまい、窓の戸締りを確認した後、湊のいるリビングへと急ぐことにした。


 このなんの変哲もない、俺たちにとっていつも通りの土曜日がすべての始まりと終わりだった。


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