25after
「お疲れ様」
目の前に湯気を立てているコップが差し出される。
この香りはココアだ。
「お疲れ様です」
受け取りつつ差し出した本人に向かって苦笑に似た笑顔を向ける。
この人だって疲れているだろうしそもどちらかというと私がするべき事だ。
この人は私の気持ちを知ってか知らずか穏やかな笑顔のまま向かい側に腰を落ち着けた。
口の中を焼かない様に気をつけながらココアをすする──美味しい。
「温かい……」
向かいでも同じようにすすっているのが目に入る。
「温まるねえ」
お互い寒空の下での仕事で身体が冷えきっていたようだ。
ココアが身体に染み込んでいく。
暖炉内の薪が弾ける音だけが静かに響いた。
空になったコップの内側を何気無しに見る。
お湯に紛れ込み損ねたココアの粉末が底に残っていた。
「今年も終わったね」
穏やかな笑顔がこちらに向いていた。
「ええ、終わりましたね」
つられて笑顔を返す。
「みんな、喜んでくれたかなあ」
向いていた笑顔がここではないどこかへ向けられる。
「喜んでくれているといいですね」
「うん、そうだね」
穏やかな笑顔が、よりいっそう嬉しそうな笑顔に変わる。
朝を迎えた時に自分宛のプレゼントを見つけた子供たちの様子を思っているのは想像に難くない。
この人はサンタクロース。
年に一度の限られた日付にだけ奇跡を起こす許可を得た者。
私はトナカイ。
サンタクロースの手となり足となりその役目を支える者。
限られた日付にだけ私達は存在を許される。
日付が過ぎてしまえば私達は存在を許されない。
限られた日付が終わる前にはいつもパーティーを行う。
参加者はサンタクロースと私の二人だけ。
料理や準備も二人だけで行い、美味しいご飯と美味しい飲み物を二人で分ける。
二人だけのささやかなパーティー。
時計の針が11時を超えた所を指している。
「もうすぐ日付が変わりますね」
「もうそんな時間なんだね」
サンタクロースの笑顔がわずかに曇ったがまたいつもの笑顔に戻って、
「今年もありがとう」
と感謝の声。
「いえこちらこそ。今年もありがとうございます」
こちらも素直に感謝する。
これもいつものこと。
「来年もよろしくね」
「はい。来年もよろしくおねがいします」
毎年繰り返される二人のパーティーの締め。
それがどこか可笑しくて、どちらともなく笑い出す。
これもまたいつものこと。
この「25after」はサークル「ちーむ_しぷすくろっく」にshipu名義で出したお話CD「うちのNightcap Vol.2」(コミケC89で出しました。在庫たっぷり)の3トラックの内容とほぼ同内容となっております。
(文章としては「ちーむ_しぷすくろっく」(http://siroigohan.web.fc2.com/index.html)
でshipu名義で掲載しているものと同じですが、こちらでも文章の発表を行わせていただきました)




