4.5
今日は、卒業式。
俺、ユウヤと俺の好きな人、花が会える最後の日。
もともと気は全くといっていいほどなかった。
ただ、鋭いさつきに、花がユウヤのこと好きかもよ、と言われ、
気がついたら俺も花のことが好きになっていた。
卒業式が終わり、一緒に写真も撮った。
花が恥ずかしそうに、撮って、と言ってきたのがとても嬉しかった。
卒業することには何も思わなかった。
ただ、高校生活が終わるんだ、ぐらいに。
でも、花に会えなくなるのはさみしかった。
花が足早に家へ帰り、高校生活で一緒にいることの多かった奴らに囲まれる。
「ねえ、花の見送りするけどくるだろ?」
アキラが俺の肩を組み、セットしてもらった頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
「というか、花に告白したの?」
さつきが、手にたくさんの花束を抱えにやにやしている。
ファンデが涙で落ちていたが、そういうことを女子に言うと怒られるため
俺は何も言わなかった。
「え、ユウヤまだだったの?はっずかし」
顔からは想像できない程毒舌な雪が、さつきにハンカチとファンデを渡し
俺にシルバーリングを渡す。
俺の名前が彫ってあるのと、もう一つ。
花の名前が彫ってあるシルバーリングが俺の手にあった。
「それ渡す時に言っちゃいなよユウヤ」
「そーだぞこの鈍感王子!」
「もう鈍感越して恋向いてないわよ」
「俺のメンタルそろそろヤバいんだけど」
別の意味で泣きそうになった。
とにかく時間がないと、俺たち4人は花の最寄りの駅へ行った。
駅について5分ぐらい経ったあたりで、花が来た。
花の家族も泣いていて、いい家族なんだな、と知らないけれども
勝手に妄想までしてしまった。
「よお、花!」
「花泣かないでよ、こっちまで悲しくなっちゃう」
アキラが明るく話しかけたのが逆効果だったのか、
花の目からは涙がポロポロこぼれている
すかさず雪が花をそっと抱きしめた。
そのまま改札口の前まで行き、まだまだ泣きじゃくる花をなだめる。
こんなときまで、可愛いと思ってしまう俺は最悪だとも思った。
なんで別れなきゃいけないんだ。
泣きそうなのをこらえた。
「ありがとう、みんな」
「いいってことよ!」
「そうだ、俺らからのプレゼント!」
俺はアキラに背を押され、指輪を手渡した。
言わなきゃ。
大切な人に、あの2文字を。
「これ、全員でおそろいなんだ」
「みんな、これで繋がってるからね」
さつきが俺の決意をブチ壊す。
いつの間にか、俺の右手の中指にシルバーリングが宿っていた。
タイムリミットまで、5分。
俺が花に想いを伝えられる期限は、あと5分。
さつきとアキラが、ホームにいる花が見える場所へ移動しようとした。
俺も行こうとしたところで雪に首根っこを掴まれた。
「2人とも、先に行ってて!」
「ゆぎ、ぐるじ…」
「おー、早く来いよー」
何も疑うことなく、2人は階段を降りていく。
雪のひどく怒った顔が、頭一つ分下にあった。
俺の手に、切符が渡される。
「え、何コレ」
「…ユウヤ、いいの?」
「何が?」
「このまま花に出会えなくなって、いいの?」
言葉に詰まった。
雪の泣き顔が、俺の中学時代を思い出させた。
好きです。
俺は、中学生のとき雪とできなかった恋愛を、花としたい。
「…よくない」
「じゃあ、いってらっしゃい」
「おまえは?雪はいいのかよ」
「何が?」
「俺が花と、その…」
あからさまに分かるため息をつき、雪は俺の顔をひっぱたく。
そして、優しく今たたいた頬をなでる。
「嫌だけど。嫌だけど、花とあんたが傷つくほうがもっと嫌」
「…さんきゅ、雪」
雪を置いて、俺は改札を抜ける。
そのまま一気に階段をかけ降りる。
新幹線に、花が今乗ろうとしていた。
「待てよ、花!」
声と同時、俺は花がトランクを引く左手を掴んだ。
俺の体温が一気に上がるのが分かる。
「…もう時間がないや」
冷たい言葉に、俺は少しひるんだ。
雪の言葉を思い出す。
ここで終わっていいわけ、あるか。
「花」
「お願い、離して」
花の言葉は、消え入りそうだった。
びくとも動かない、俺の掴んだ左腕。
俺はそれをひっぱった。
涙でぐしゃぐしゃになった俺の顔。
涙でぐしゃぐしゃになった花の顔。
「あのね…」
俺は、花の言葉を待たずにその唇を塞いだ。
花の少し早まった鼓動が、唇越しに伝わる。
俺の手が花の背に回ると同時、花の手が俺の背に回る。
ああ、神様。
もういちど、この時間をください。
唇同士が離れた瞬間、俺と花を引き離すベルが鳴る。
扉が閉まる寸前、俺は叫んだ。
「好きだ」
3年間の淡い恋が、窓から見えた花の顔でわかった。
そのまま新幹線はぐんぐん進み、俺はホームに取り残された。
そして、それから4年。
今日は、久しぶりに花に会える日。
いつものホームに、懐かしい愛人が降り立った。