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タイムリミットまで、5分。
私がユウヤに想いを伝えられる期限は、あと5分。
みんなが、周りの人を気にせず。
改札口を通った私を元気に送り出してくれる。
「がんばれ、花!」
「いつでも帰ってきていいよ!」
「帰ってこねぇと俺、忘れちまうかもよ!?」
「ばか、アキラ!そんなこと言うんじゃねぇよ!」
泣かないと決めていたのに、ゆるんだ涙腺からそっと水が落ちる。
「ありがとう、雪、アキラ、さつき、ユウヤ!」
大声で叫び、思いを振り切ってホームへ降りる。
ありがとう、さよなら、みんな。
タイムリミットまで、4分。
ホームから見える場所で、みんなが手を振ってくれた。
そこに、ユウヤの姿はなかった。
3人で、半円を描くように大きく手を振ってくれた。
私も、大きく大きく手を振った。
周りの人からの冷やかな目線は、私の温まった心には刺さらない。
皆の右手で光るシルバーリングが大きな円をつくる。
タイムリミットまで、3分。
電車がもうすぐ来てしまう。
ユウヤ。
あっちに行っても、まだ想い続けていいかな。
ユウヤには、もっといい人がきっと見つかる。
私も、あっちでユウヤより大切な人が見つかるかもしれない。
最後に、会えてよかった。
いつかこんな感情がなくなり、笑って友達でいれる日が来てしまうのかな。
いつか、好きだって思わなくなる日が来るのかな。
ユウヤにとって、私がいい友達だって思ってもらえていたら。
それでもう満足かな。
なんて私に言い聞かせ、涙をぐっとこらえた。
タイムリミットまで、2分。
新幹線が、駅のホームに到着した。
新幹線の口から人が吐き出され、私を吸いこもうとしていた。
トランクを手に、新幹線に乗り込む。
直後、トランクを持つ左手が震えた。
「待てよ、花!」
あ。
来てくれたんだ。
あのときいなかったユウヤが、私の背にいた。
肩で息をしながら、私の左腕を掴んでいた。
「…もう時間がないや」
言いたい言葉より先に、保身の言葉が出た。
言いたいことはこんなことじゃないのに。
今思い返しても、あの時の自分をひどく憎たらしく思う。
「花」
「お願い、離して」
ここで、未練を残してはダメだ。
そう思い、ユウヤの手を振りほどこうとする。
彼の触れている左手が熱い。
ふりほどこうともびくとも動かない左手。
思い出す、ユウヤへの淡い恋心。
タイムリミットまで、1分。
ユウヤが私の左手をひっぱり、そちらへ向かせる。
私の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
ユウヤの顔も涙でぐしゃぐしゃになっていた。
最後に。
伝えてから行ってもいいかな、ユウヤ。
困るだけかもしれないけど。
私の小さく淡い恋心を。
お願い、聞いて。
「あのね…」
言いかけた私の唇が、彼の唇でふさがる。
生の鼓動が、彼の唇から私へそっと伝わる。
今だけ、甘えてもいかな。
ユウヤと私はキスをしながら、お互いの背に手をまわす。
ありがとう、私の最愛の人。
唇が離れると同時、私と彼を引き離すベルが鳴る。
扉が閉ざされる前に、ユウヤが叫んだ。
「好きだ」
ドアが閉じ、景色は後ろへぐんぐん流れていく。
こらえきれない涙が、目からこぼれた。
あれから、4年。
今日は久しぶりにこの地へ帰ってくる日。
右手の中指にシルバーリングを光らせ、私はトランクを引く。
久しぶりのホームに、男が1人いた。