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淡恋  作者: 縣.
4/5

タイムリミットまで、5分。

私がユウヤに想いを伝えられる期限は、あと5分。


みんなが、周りの人を気にせず。

改札口を通った私を元気に送り出してくれる。

「がんばれ、花!」

「いつでも帰ってきていいよ!」

「帰ってこねぇと俺、忘れちまうかもよ!?」

「ばか、アキラ!そんなこと言うんじゃねぇよ!」


泣かないと決めていたのに、ゆるんだ涙腺からそっと水が落ちる。


「ありがとう、雪、アキラ、さつき、ユウヤ!」


大声で叫び、思いを振り切ってホームへ降りる。

ありがとう、さよなら、みんな。


タイムリミットまで、4分。

ホームから見える場所で、みんなが手を振ってくれた。


そこに、ユウヤの姿はなかった。


3人で、半円を描くように大きく手を振ってくれた。

私も、大きく大きく手を振った。


周りの人からの冷やかな目線は、私の温まった心には刺さらない。


皆の右手で光るシルバーリングが大きな円をつくる。


タイムリミットまで、3分。

電車がもうすぐ来てしまう。


ユウヤ。

あっちに行っても、まだ想い続けていいかな。


ユウヤには、もっといい人がきっと見つかる。

私も、あっちでユウヤより大切な人が見つかるかもしれない。


最後に、会えてよかった。

いつかこんな感情がなくなり、笑って友達でいれる日が来てしまうのかな。

いつか、好きだって思わなくなる日が来るのかな。


ユウヤにとって、私がいい友達だって思ってもらえていたら。

それでもう満足かな。


なんて私に言い聞かせ、涙をぐっとこらえた。


タイムリミットまで、2分。

新幹線が、駅のホームに到着した。

新幹線の口から人が吐き出され、私を吸いこもうとしていた。


トランクを手に、新幹線に乗り込む。

直後、トランクを持つ左手が震えた。


「待てよ、花!」


あ。

来てくれたんだ。


あのときいなかったユウヤが、私の背にいた。

肩で息をしながら、私の左腕を掴んでいた。


「…もう時間がないや」


言いたい言葉より先に、保身の言葉が出た。

言いたいことはこんなことじゃないのに。


今思い返しても、あの時の自分をひどく憎たらしく思う。


「花」

「お願い、離して」


ここで、未練を残してはダメだ。

そう思い、ユウヤの手を振りほどこうとする。


彼の触れている左手が熱い。

ふりほどこうともびくとも動かない左手。


思い出す、ユウヤへの淡い恋心。


タイムリミットまで、1分。

ユウヤが私の左手をひっぱり、そちらへ向かせる。


私の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。

ユウヤの顔も涙でぐしゃぐしゃになっていた。


最後に。

伝えてから行ってもいいかな、ユウヤ。


困るだけかもしれないけど。

私の小さく淡い恋心を。


お願い、聞いて。


「あのね…」


言いかけた私の唇が、彼の唇でふさがる。

生の鼓動が、彼の唇から私へそっと伝わる。


今だけ、甘えてもいかな。

ユウヤと私はキスをしながら、お互いの背に手をまわす。


ありがとう、私の最愛の人。


唇が離れると同時、私と彼を引き離すベルが鳴る。

扉が閉ざされる前に、ユウヤが叫んだ。


「好きだ」


ドアが閉じ、景色は後ろへぐんぐん流れていく。

こらえきれない涙が、目からこぼれた。




あれから、4年。

今日は久しぶりにこの地へ帰ってくる日。


右手の中指にシルバーリングを光らせ、私はトランクを引く。




久しぶりのホームに、男が1人いた。

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