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淡恋  作者: 縣.
3/5

はれがちょっと引いた辺りで、私の準備は終わった。

前日にトランクに詰めた荷物を手に、私の部屋を振り返った。


こんなに大きかったんだ、私の部屋。


すぐに散らかしてしまい、母親によく怒られた部屋。

父親の絵画好きがうつり、油絵ばかりになった部屋。

弟にクサいクサいと言われ、かなり気にした部屋。


海外の寮へ送ってしまった大きな荷物はもうない。

その隙間を、私の涙が埋めようとした。


こらえて、私の部屋だった空室を出た。

トランクを車に詰め込み、家族との最後の会話をする。


これで終わりなんだ。

そう思うと悲しくなり、私は車の中でみっともなくわんわん泣いた。


「うるさいな、もう」

そう言ってバカにした弟のリョウタは赤い目をこすり。

「そうよ、もう会えないなんてことはないんだから」

そう言って諭す母親の鼻はひどく赤くなり。

さっきから黙って運転している父親は黙って鼻をすすった。


高校へ行くために歩いた駅までの長い道のりが、今日はやけに短く感じた。

いつもおかえり、いってらっしゃい、を言ってくれた八百屋のおじちゃん。

いつも犬に吠えられ、早足で歩いた大きな和風の家。

理不尽なほど赤信号が長い、大通りの交差点。

何故かクリスマスイヴにイルミネーションが終わる大きな公園。

シャッターがおりている店の多い、駅前の大通りにそびえ立つ商店街。


ありがとう、私を育ててくれた街。

ありがとう、私を育ててくれた両親。


感謝が胸につまった。


「お父さん、お母さん、リョウタ。ありがとう」

「もう、そんなのやあねえ」

「この際もう帰ってくんなよ花姉(笑)」

「こらリョウタ!」


母親に頭をげんこつされ、弟はいじけていた。

いつも通り、優しい家族が私の目の前に広がっていた。


「じゃあね、また」

家族としばしの別れをし、私は駅へ入る。

さっき別れたばかりの私の友達たちが駅で待っていてくれた。


ユウヤの姿も、そこにあった。


「よお、花!」

「花泣かないでよ、こっちまで悲しくなっちゃう」


雪が私をぎゅっと抱いて、私の肩をそっとぬらす。


「ありがとう、みんな」

「いいってことよ!」

「そうだ、俺らからのプレゼント!」


ユウヤが、私の手を取って指輪をくれた。

耳まで真っ赤になっていたと思うけど、ユウヤの目も私の耳ぐらい赤かった。


「これ、全員でおそろいなんだ」

「みんな、これで繋がってるからね」


雪も、アキラも、さつきも。

そしてユウヤも。


右手の中指にシンプルなシルバーリングが光っていた。

私の右手の中指に、ユウヤからシルバーリングが通される。


よく見ると、「HANA」と文字が彫ってあった。


ありがとう、私の大切な友達。

ありがとう、雪。

ありがとう、アキラ。

ありがとう、さつき。


ありがとう、ユウヤ。


さっきもらったシルバーリングが、あたたかいもので濡れた。

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