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あの日に戻りたい、という日はないだろうか。
あの人は、部活に打ち込んだ中学生のあの頃に。
あの人は、優しい彼氏と付き合っていたあの頃に。
あの人は、今は亡き人がまだ生きていたあの頃に。
私は、高校生最後のあの日に。
卒業式。
3年生が高校生活を終える日。
そして、私、花と彼が会える最後の日。
卒業生代表で、3年連続同じクラスの親友、雪が壇上へ上がり、
ずっと前から考え、練習してきた作文を読み上げる。
彼女の思い出と共に、私の思い出も浮かび上がってくる。
緊張し、うまく話せなかった私に優しく話しかけてくれた雪。
今は壇上で涙をこらえ作文を読んでいる。
高校生になって初めての校外学習で助けてくれたアキラ。
今は少し前のほうで黙って作文を聞いている。
2年生になって部活のキャプテンになったさつき。
今は隣の子に抱きついて泣きじゃくっている。
そして。
はじめての文化祭からずっと気になっていて。
文化祭の後夜祭でも。
修学旅行で2人きりになったときも。
今でさえも。
想いを伝えられなかった私の思い人ユウヤは。
私の隣で小さく寝息を立てて寝ていた。
彼を見るのをやめ、壇上の雪を見る。
綺麗な黒髪は後ろで団子状にまとまり、名前のとおり白い肌には
隠しきれない涙がそっと伝っていた。
知らず知らずのうちに、私の顔にも涙がつたう。
ユウヤが行くから、と私も苦手な理系を選択した。
もちろん勉強は日に日に分からなくなり、テストは赤点ギリギリばかり。
でも。
ユウヤが笑って。
バカだな、って言うのが嬉しくて。
それがなくなるのが、怖い。
ずっと、このまま。
このまま、高校生のままでいたい。
他人と違わずとも同じでない涙が、頬を撫でる。
花は、卒業したら海外の芸術大学に。
ユウヤは、地元では割と名の通る理系大学へ。
絶縁状態になっちゃうんだ、わたしたち。
そう考えるのは、今だけじゃない。
私に勇気があったら。
もしかしたら。
胸に想いを封じ込める。
雪は、壇上から涙をこらえずに戻ってきた。