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村娘Cの苦悩  作者: 藤魁 真
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村娘Cと掟#2









大陸の中央に位置するサーテンシアリ国。

国の北側にあるサヴァンの森と四つの国が国境に接しており、あらゆる国の交通路となっている。


故にサーテンシアリでは優秀な人材を揃いに揃えた強力な騎士団を有し、陸の番人として陸の安全を保っていた。



その王都であるディレットから北に10日ほど馬を走らせたところに今では世界に名の知れた村がある。

数年前に『ルエ・リアスの悲劇』で各国に衝撃を与えたであろうリレット村である。


人口は約200人前後と500人には満たないものの、村としては充分なほどリレット村は賑わいをみせている。

この村では古くから良質な武具や防具などの製造販売などが行われ優秀な職人が輩出されることでも有名だ。


『ルエ・リアス』の悲劇以降、リレット村と王都ディレットにおいて交わされた約束事により最近では優れた職人の輩出だけでなく、武芸や学問に秀でた者が王都で王族に仕える身となることも珍しくない。


それらの選出基準は人によって異なったりするのだが、武術にしろ勉学にしろ良し悪しで優れた人を選出するにはある程度の基準が必要な為、数年に一度村に審査員を招き村の若者たちも総出で武勉大会と表した人材の選出が行われる。

大会といっても出場資格にはいくつか制限があり、村の若者は強制参加であったりする為に一部の若者からは不満が噴出することがあるとかないとか。


その一人にユエ・リュカスという奇才がいる。









「あのー自分不戦勝でいいんで帰ってもいいっすかね」


なんともまあ緊張感のない呑気な声だ。


静まり返った空気のなか、ユエ・リュカスは左手をパシッと勢いよくあげたのち若者たちの前で鬼の形相のまま腕を組む師範に臆することなく口を開いた。


「ああ!?ふざたことを抜かしてんじゃねえ。てめえは強制参加だ強制参加」


「えー至ってマジなんですけどぉまじ心外ー」


「いい加減くらわすぞお前。てめえのせいでどんだけこいつら待たせたと思ってんだ!駄々こねてねぇでさっさと準備しやがれ!!」


鬼の形相で腕組む師範ことディダン・クランターンが吠える。



「えー私待っててくださいなんて頼んだ覚えないんですけどおー。せんせーそんなカッカしてどうしたんですか。そんな怒ってばっかだと血管切れちゃいますよう」


「てめえのせいだろうが!?ちぃーっと人が下手にでてやったら調子乗りやがって!!表出ろこの糞餓鬼があ!!!」


「やだディダンせんせーこわぁい」


「この糞餓鬼いいいいいいいい!!」



怒る師範とそれをおちょくる弟子。

端から見ればなかなか冷々しそうな光景だったが普段からこのやり取りを見ているというかもう見飽きている若者たちは動じない。

とはいえ事を進まなけれは話も進まないのでやれやれまたかという風に一人の少女がようやく動いたのだった。



「リヴ様、フェリガ様、大変お待たせいたしました。ユエ・リュカスで受験資格のある若者はみな集まりましたので只今より実技審査のほうを行わせていただきます。よろしいでしょうか」


「あーーーやっとか。こっちの準備はいいぜお嬢ちゃん。ほらとっとと並べガキ共!」


怒声が飛ぶ。自分はかまわないと返答する間もなく同僚であるフェリガが口を開いた。少々口の悪さが滲み出ている。待ちくたびれたのだろう。



「実技審査の内容はさっき説明したとおりだ。AからEグループは準備が完了したところから一列に並べ。Fからは外に移動をした後それぞれ位置につけ」


実技試験は四人一グループで行われる。試験は実戦形式の試合と剣技や魔法術等の実技披露の二つに分かれており、AからEグループはリヴが担当し先に試合を行う。FからIのグループはフェリガが担当し実技披露からとなっている。なお筆記試験は前日に行い採点済みだ。一人の若者(ユエ・リュカス)を除いては。




「確か君はノイン・フェリンスだったか。君はユエ・リュカスと同じAグループだっただろう」


「私の名前を覚えていただけて光栄です、リヴ様。それがどうかしましたか」


左手で裾をつまみ、もう片方の手を胸にあてうやうやしく礼をするノイン・フェンリスから目線を外す。

未だにあーだこうだと口論するディダンとユエに視線を投げたままふと疑問に思ったことを口にした。



「あの二人はいつもああなのか」


「そうですね。何時ものことですからどうぞお気になさらないでくださいリヴ様」


今にも掴みかかりそうな勢いで激しさを増す口論に驚きを隠せないでいると少しだけ困ったように苦笑して目の前の少女は答えてくれた。


「……そうか。君も気苦労が絶えなさそうだな。同期に似たような奴らがいるが私でもあの子は骨が折れそうだ」


同期であるフェリガと昔から言い争う少年を思い出して一言ノインを労う。一方でフェリガはというと、師範とギャーギャー言い争いながらも支度するユエ・リュカスを一瞥して外に向かった。




「その言い方ですとまるでユエが問題児みたいですね」


リヴ様の目にはそう見えましたかとノイン・フェリンスは再び困ったように笑ってそう口にした。


「その言い方だとまるでユエ・リュカスは何の問題が無いみたいに聞こえるな」


予想外の反応に思わず本音が漏れる。

グループは実力順で振り分けられる為、ノインがいるAグループに同じく属するユエ・リュカスはそれなりの能力を有しているのは分かる。分かるが、しかし、



「ふふ、そんなにユエが私と同じグループなのが不思議ですか」


ああ本当に不思議でならないと返答するよりも先にノインが言葉を続ける。



「その顔だとご存知ないのですね。ユエはこの村で唯一拒否権を持つ娘だって」


「……そんな重要な情報は資料に載ってなかったが」


事前情報として見聞きしていない初めての情報に首をかしげると彼女も一瞬首をかしげて



「あら?そんな筈はーーーーーーーああ、そういえば、」


あの(ユエ)のことはこの村の秘密事項でしたわね、私としたことがついうっかり、と思っているようないないような調子で口にして静かに笑う。



「リヴ様はユエ・リュカスに興味がおありのようですね」


「それは君が彼女の情報(ひみつ)をしれっと口にするからだろう」


「ふふ、本当にそれだけですか。殿方は秘密を抱えた女性を好む者でしょう?」


いつしかユエ・リュカスと師範の口論も止み、それぞれが試験の準備に追われ慌ただしくしているなか、ノイン・フェリンスと俺だけが二人見つめ合っていた。





「ユエ・リュカスは誰よりも強い」


「ユエ・リュカスは誰よりも賢い」


「ユエ・リュカスは誰にも屈さない」


歌う様にノインはユエ・リュカスの名を口にする。



「ねえ、リヴ様。知りたくありませんか、この村で唯一拒否権を持つ娘のこと」


「聞きたくないと言ったらどうする?厄介事はどうも得意分野じゃないものでね」


面倒事は嫌いなんだと言ってはみるものの取り合ってもらえそうにはない。




「まだみんな準備に手間取っていることですし、少し語るとしましょう。

帝様ともあろう方々が全く知らない訳にもいかないでしょうし」


さて、一体何から話せばいいかしら。まずはーーーーーーー。


語り始めた彼女の笑顔は年相応の可憐な少女のものだった。ふとここで思い出す。





我々と話すときノイン・フェリンスはいつも目が笑っていなかったと。




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