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第9話 盗賊ロキス

ショートソードを買った次の日の朝、俺はギルドへ行く前に剣の素振りをしてみる。

剣術の心得はまるで無いのだが、素振りは大事だ。……たぶん。

ギルド宿舎の隣の狭い空き地なので、危なっかしくて抜刀はできない。

鞘の紐を剣の鍔に括りつけて鞘から抜けないように剣を固定している。

木の棒でも振っておけって?

馬鹿を言うな、自分の得物を手に馴染ませるためだ。

とりあえず、闇雲にそれっぽく一振り、二振り……。

……だが、手応えを全く感じない。

チート能力のおかげで、剣の重さを全く感じないからだ。

ショートソード程度なら、新聞紙を丸めた棒を振っている程度にしか重さがない。

それに型も何も知らないし、剣をどう振ればいいのかも分からない。

とりあえず考え無しにぶんぶんと振っているけども。

そうだ、イメージトレーニングだ。

目の前に敵が居ると想像して……。

…………。

だめだ、バウスイモムシしか思いつかない……。

これは剣を覚えるなら、ちゃんと習うかひたすら実践を積んでいくしかないか。

しかし、剣を習うようなお金もないし……ギルドの仕事で経験を積むか……。

俺は少し意気消沈気味にギルドへ向かう。

だが、俺は今日からギルドランクEだ、魔物討伐の仕事も多いに違いない。

仕事をこなせて、報酬貰えて、剣も鍛えられて、一石三鳥じゃないか。

俺はEランクの仕事がまとめてある掲示板から依頼を探す。

『バウスイモムシ退治 一匹/銅貨5枚』

『角ウサギ退治 一匹/銅貨6枚』

『吸血コウモリ退治 一匹/銅貨6枚』

『ワームテール退治 一匹/銅貨6枚』

『ゴブリン退治 一匹/銅貨7枚』

『ポーション調合 一本/銅貨2枚』

『鉱石採掘補助 時間/銅貨9枚』

ざっと見てみたが、薬草集めみたいに依頼書がまとめて貼ってあるのはバウスイモムシ退治だけだった。

それ以外の依頼書は数枚程度。

吸血コウモリと採掘補助に至っては依頼書は一枚だけだ。

常時依頼はバウスイモムシだけのようだな。

その分、依頼の数は多岐に渡り、今挙げた数よりもずっとたくさんある。

少なくとも仕事が無くて困るという事はなさそうだ。

昨日こなしたバウスイモムシは置いておくとして、角ウサギや吸血コウモリでは剣術は鍛えられそうにないなあ……なんとなくのイメージだけど。

ワームテールって何だろ、聞いた事ないな。

報酬が同じ銅貨6枚ってことは、同程度の強さなのかな。

試しにやってみるか。

俺はワームテール退治の依頼書を掲示板から剥がしてカウンターへ持っていった。

「はい、ワームテール退治のお仕事ですね」

執り合ってくれるのは今日もアリアだ。

ギルド職員もある程度、担当なんかも決まっているのかな。

「ワームテールってどんな魔物なの?」

「ケイルさんは初めてでしたか。少々お待ちくださいね」

アリアはカウンターの下から大きな本を取り出した。

表紙には初級魔物図鑑と書かれている。

なにそれ欲しい。

「ワームテールは植物の魔物ですね。

 地中の魔力を吸った植物の種が変異したものです。特徴はこの鞭の様な茎ですね」

アリアが開いたベージには、葉っぱに包まれたような丸い根元から真っ直ぐに伸びた茎を持つ、妙な形の絵が描かれていた。

ていうか、これ生物なの?

「これって動くのか?」

「そうですね、根を足のようにして移動します。

 バウスイモムシと違って、動きは速いようなので気をつけて下さいね」

植物の魔物とは言っていたが……植物が歩くなんて、さすがファンタジー。

「ワームテール退治での討伐証明は、この伸びた茎です。

 生息地はこの辺りになりますね」

図鑑の隣に並べられたカナロス平原の地図のだいぶ山寄りの場所をアリアは指し示した。

俺は自分の地図と照らし合わせて場所を確認する。

バウス森よりもちょっと遠いな。

「ケイルさんは常時依頼以外のお仕事は初めてでしたね。

 Eランクからのお仕事は流動性が激しいものが多くあります。

 明日ギルドに来られたら仕事が無くなっている、という事もあります。

 その場合は、直接討伐証明を持ってこられても報酬はお支払いできません」

だから最初の頃には、依頼書をカウンターに持っていって仕事を受理するという流れを把握するように、と言われていたのか。

仕事前には必ずギルドで、っとメモメモ。

「よろしければ、お仕事の受理とさせて頂きますが」

「ああ、引き受けるよ」

「はい、それではお気をつけて」

俺は魔物図鑑のワームテールをしっかり目に焼き付けてからギルドを出た。

しかし、あの図鑑欲しいな。

いくらくらいするんだろ。

欲しい物が次から次へと出てきてホント参るわ。



ギルドを出て小一時間程、ワームテールの生息場所に辿り着いた。

ここもバウスイモムシの生息場所のように奥の方には森が広がっている。

森の奥の方はDランクの仕事なのかな。

辺りは膝程の高さの草原が広がっている。

「……ん?」

森の手前の草原部を歩いていると、ふと、足に何かが当たる。

視線を落とすと、そこには葉っぱに包まれたボールの様な物体があった。

見ようによっては巨大なキャベツの様にも見える。

根元部分には数本の太い根っこのような物があり、先端部分は明らかに切り取られたような茎がある。

おそらくは、これがワームテールなのだろう。

だが、こうしてその死骸があるという事は……先客がいるのか?

だとしたら嫌だなあ……獲物の取り合いなんてしたくはない。

そんな事を思いながらワームテールの死骸を足で転がしていると、突然目の前に薄緑色の棒のような物が草むらからピンと真上に伸びる。

やがてその棒は結構な勢いで俺へと向かってくる。

胴体は草むらに隠れていて見えない。

さながら海面に背ビレを出して泳いでくるサメの様だ。

「うお!?」

俺は思わずその場から逃げ出す。

いや、逃げてどうする俺。

こいつの正体はさっき見たばかりだ、問題ない。

俺は振り返り、向かってくる薄緑の棒、おそらくはワームテールの茎を正面に捕える。

腰のショートソードを抜き、腰を低くして構える。

すぐにその柔らかそうな茎を切り落としてやるぜ!

ワームテールの茎は、鞭の様にしなって俺に目掛けて振り下ろされる。

とっさに俺は剣を横向きに構えて防御体制をとる。

金属音をたててワームテールの茎は俺の剣を弾き返した。

容赦なく次の一撃が俺を襲う。

しなった茎は、剣を弾かれて防御もままならないでいる俺の左腕に直撃する。

「くっ、いってぇ!」

実際に鞭で打たれたような痛みだ。

俺は痛みを堪えながらワームテールの茎に向かって剣を幾度となく振り下ろすが、一向に当たる気配がない。

逆に、ワームテールの茎は次から次に俺の体に打ち込まれていく。

致命傷には至らないものの、一撃一撃は確実に痛い。

ひたすら俺に打ち込まれるワームテールの茎の鞭。

何の修行だこれは!

こんなんで剣の修行になるか!

「こなくそ!」

俺は剣で攻撃する事を諦め、ワームテールの茎の根元を蹴飛ばす。

茎の動きは速いものだが、本体の機動力はあまり無いらしい。

俺の蹴りは一撃でワームテール本体に命中し、胴体を粉砕した。

まさに巨大なキャベツを蹴り飛ばした感じだ。

魔物を倒せはしたものの……これじゃあ剣術の練習にならないぜ……。

落胆しながらも、俺はワームテールの茎の回収を始める。

戦っていた時は俺の身長程もありそうな長さの茎だったが、いざ回収してみるとショートソードくらいの長さしかなかった。

伸ばしてみると、だいぶ伸縮性があるらしく、両手一杯に広げてみても千切れはしなかった。

それでも短い気もするが……本体がやられると収縮してしまうのかもしれないな。

千切れそうな感じもしないので、ワームテールの茎はベルトに括りつける。

とりあえずこれで一本、と。

剣術はいきなり実践って訳にもいかないな。

やっぱりお金を貯めて誰かに教わるか。

フィニア……はでも剣術の先生って感じでもないしなあ。

たぶん上級冒険者に基礎だけ教わって、後は我流って感じだろうし。

「あー!? 俺の獲物!」

突然背後で大声が上がり、俺はびくりとする。

振り返ると、そこには小柄の男が俺を指差していた。

茶色の薄汚れた厚手の布の服を身に纏い、頭には紺のバンダナが巻かれている。

色白で吊り上った目が特徴的の、少年と言っても差し支えないような男だ。

「俺の獲物って……こいつは俺が倒したんだぜ?」

「うるさい、ここはこのロキス様の縄張りだ!」

「誰が決めたんだよ」

「いいからその茎をよこせ!」

見ると、ロキスと名乗った少年の腰にもワームテールの茎が下げられている。

どうやら彼もワームテールの茎を集めているらしい。

「あんたも冒険者か?」

「お前に答える義理はない!」

「悪いけど、俺の目当てもこのワームテールの茎なんだよ。

 あんたも冒険者の仕事で来てるんだったら、縄張りの事も考えるけどさ」

仕事が競合するのであれば、多少譲歩する用意はある。

冒険者同士で喧嘩なんかしたくないしね。

すでに喧嘩になっている感は否めないが。

その時、俺の横でワームテールの茎が草むらから伸び上がる。

まだ話してる最中だというのに。

標的を俺に定めたらしく、ワームテールの茎が俺の方へと向かってくる。

今は剣術も縄張り争いも後回しだ。

俺はワームテールの茎の根元の本体に、いつものサッカーキックを浴びせてやる。

ワームテールは葉っぱを舞わせながら砕け散る。

バウスイモムシといい、ワームテールといい、剣じゃなければ簡単なんだけどな。

俺がワームテールの茎を掴もうと手を伸ばすと、茎はロキスに奪われた。

ロキスはそのまま俺と距離を広げる。

「お、おい、お前!」

「言っただろ、ここは俺の縄張りだ!」

「いくら自分の縄張りだからって、人の物を横取りする事はないだろうがよ」

「俺の縄張りの物を拾って何が悪いんだ!」

何を言っても聞きそうにない。

俺は大きく溜息をついた。

「こっちは生活かかってるんだ。聞き訳がない子供にはおしおきが必要だな」

俺も15歳という立派な子供ではあるが、中の人は立派な大人だ。

いや、立派とは言えないが。

「悪いけど、それは返してもらうぜ」

俺はロキスに向かって走り出した。

それを察してロキスも反対側に逃げ出す。

逃げる悪ガキにはきつーいおしおきが待ってるぜ。

いくら逃げても無駄だ、俺の脚力は……。

追いかけるスピードを徐々に上げていく。

だが……ロキスに追いつけない……!?

走るスピードは既に全力疾走状態だ。

高速道路を走る車の窓の外を眺めているように周りの景色は流れていく。

俺の足が遅いのではない、ロキスの足が速いのだ。

おいおい……マジかよ……。

俺は呆然として追いかけるのを止める。

ロキスの姿はもう見えなくなっていた。

珍しく俺の息もあがっていた。

そりゃ全力疾走していれば当然か。

ワームテールの狩場も随分後ろの方になってしまった。

「くそ、何なんだ?」

仕方なく俺は走ってきた道を引き返す。

俺は超人的な脚力を手に入れたと思っていたが……。

いや、実際に人並み外れた筋力は持っているのだ。

フィニアの驚きがそれを証明してくれている。

だとしたら……魔法か何かか?

もしかしたら一時的に筋力を増強する魔法なんてものがあるのかもしれない。

それはそうと、ロキスとの追いかけっこで俺は一つ学習する事ができた。

チート能力は筋力のみで、持久力は無いという事だ。

超人的な脚力で走る距離は稼げるかもしれないが、走り続けることはできない。

いざという時のために、自分の能力は把握しておかないとな。

しかし、縄張りか……ここで狩りをしてたら、あいつまた来るのかな?

……考えても仕方が無いか。

俺は再びワームテール狩りを再開する事にした。

ワームテールは普段は草むらに隠れて茎を倒しているため、なかなか探すのが大変だ。

毎回先手を取られてしまう形になるが、一度油断して襲わせた方が見つけやすい。

そうやって茎の鞭を食らいながら、本日5匹目となるワームテールを倒した時だ。

「おい、てめっ……!」

俺が怒鳴る前にロキスが再び現れ、颯爽とワームテールの茎を盗んでいった。

「ここは俺の縄張りだと言っただろ!」

「じゃあ自分で狩れよ! 人の獲物に手を出すな!」

「うるさい、盗られる方が悪いんだろ!」

追いかけようと一歩を踏み出すと、ロキスはあっという間に逃げていなくなってしまった。

とんだハイエナだ。

あれだけの脚力があれば、ワームテールも難なく倒せるだろうに……。

いや、あれだけ性格がひん曲がっているんだ、言っても無駄か。

それからもワームテール狩りを続けたが、だいたい2、3回に一度はロキスが現れて茎を奪われてしまった。

警戒は常にしていたのだが、あれが盗賊の妙といったところか。

呆れるほど鮮やかに獲物を奪っていきやがる。

何度か追いかけることもしたが、結局一度も追いつける事はなかった。

これはギルドに報告しておいた方がいいだろうな。



「はい、ワームテール退治のお仕事の清算が終わりました。

 9匹の討伐で銀貨5枚と銅貨4枚になりますね」

「あ、ギルド宿舎代も引いておいて」

「はい、それでは銀貨4枚と銅貨9枚ですね」

カウンターに置かれた硬貨を俺は財布にしまう。

ギルドで迎えるいつもの夕方、俺はワームテール退治を終えて町に戻ってきていた。

結局9匹か……本当はそれの倍近い数を倒したんだけどな。

「ねえ、アリアさん、今日って俺以外にもワームテール退治の仕事してた人っていたの?」

「今日ですか? 少々お待ち下さいね」

アリアはカウンターの席を立ち、資料を探しに奥の方へ歩いていった。

あのロキスも冒険者だとしたら、人の獲物を盗む事は処罰もやむ無しの行為のはず。

ギルドの罰則には値しないのかもしれないが、堂々と人の獲物を横取りするのは人として許せんよなあ。

しばらくしてアリアは資料を片手にカウンターに戻ってきた。

「昨日ワームテール退治のお仕事がギルドに委任され、お仕事をされたのは今日のケイルさんお一人です。

 それ以前にもワームテール退治のお仕事はありましたが、8日前に終了となっていますね」

「そっか。いやさぁ……ワームテール狩りをしてたら討伐証明の茎を次々に盗んでいった奴がいたんだよ。

 さすがにそういうのってギルドの処罰の対象になるんじゃない?」

「その方は冒険者さんだったのですか?」

「いや、答えてくれなかったよ。名前は、ロキスって言ってたな。

 まあ、偽名なのかもしれないけど」

「冒険者さん同士の揉め事については、ギルドではあまり口出しはできない方針になっています。

 一応、そのロキスという名前の冒険者さんについては、こちらで調査しておいきます。

 ……ですが……」

「ですが?」

「これはあくまで私の予想ではありますが、彼は盗賊だっだのだと思いますよ。

 というのも……これはあまり口外しないで下さいね」

「……分かった」

俺は少しアリアの口元に耳を寄せる。

「ワームテールの茎は、違法となる薬物の材料となるのです。

 ですので、ワームテールの茎を集めて売りさばく賊なども多いのです」

「……なるほどな」

クスリ、ダメ、ゼッタイ。

裏ルートで取引されるような物なのか。

まあ、俺にはそんな裏社会へ足を踏み入れる度胸なんてありませんが。

「今回のお仕事も、町の健康保全課から委任されたお仕事なんです。

 常時依頼にするほど数は多くは無いのですが、植物の魔物だけあってか、定期的に増殖しているんです」

勝手に沸いてくるんじゃあ取締りもできないよなあ。

「……ん? じゃあ、ワームテールの茎を持っているだけで違法にならないか?」

「その点は心配ありません。ワームテールの茎は触媒として使われるそうです。

 なので、ワームテールの茎自体に毒性は全くありません」

俺はほっと胸を撫で下ろす。

日本じゃアブナイモノは持ってるだけで重罪だもんな。

何も知らずに持っていたら警備兵にしょっ引かれるなんてマジ勘弁だ。

そうなると……欲しいなあ、初級魔物図鑑。

どの魔物がどんなアブナイモノを持っているか分からない。

「そういえば、仕事引き受けた時に見せてくれた図鑑って、いくらくらいするの?」

「初級魔物図鑑ですか?」

アリアはカウンターの下から図鑑を取り出す。

「私もあまり詳しい事は知りませんが、この厚さの本でしたら金貨5枚は下らないでしょうね」

お、おう……これを手に入れるだけの余裕があれば、もう初級魔物には用は無くなっている頃かもしれないな……。

【繰越】銀貨6枚、銅貨5枚

【収入】銀貨4枚、銅貨9枚:ワームテール退治


【支出】     銅貨5枚:ギルド宿舎代

         銅貨2枚:飯代


【合計】銀貨10枚、銅貨7枚

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